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29    父親になった日

 セドリックとマリアの仲裁が終わり、実家に帰る両親とエルを見送りにアレク、シルヴィ、エマ、カナと王都の門前までやってきた。


「それじゃ、父様、母様、エル、お元気で。」

「ああ。ヴェルも元気でな。アレックス様達もどうぞお元気で。」

「はい。お気をつけてお帰り下さい。」


 セドリックとアレクは挨拶を済ませた。

 セドリックとマリアの仲裁をしている間に、エルをアレクに任せた事を宿に帰ってから話すと両親は血相を欠いて平服奉った。父の浮気で喧嘩した両親の仲裁の間に、エルを王太子殿下に任せるというあってはならない事をしてしまったからだ。

 2人もアレクに土下座してなかなか立ち上がってくれない両親に『大丈夫です。気にしてませんから、エルと楽しく遊ばせてもらいましたから。』と繰り返し言ってようやく立ち上がってくれた。

 これに懲りて、もうすんなよと心の中で思った。


「お義父様、お義母様、エル君。お元気で。」

「道中、お気をつけてお帰り下さいませ。お義父様、お義母様、エル君」

「今度は遊びに伺ってもいいですか?」

「ありがとう。ええ、いつでもいらしてください。」

「ありがとう。勿論だ。」

「ばいばい。」


 両親とエルは3人と挨拶を済ませて実家に帰って行った。


「何か疲れたね…。」

「そうだね。」


 アレクと俺は疲れた顔をしていた。


「お義母様とエル君にお会いできてよかったです。」

「お義母様とエル君と仲良くできてよかったですわ。」

「そうだね。」


 え?父様は?


「あの…、父様の事はお嫌いですか?」


 恐る恐る3人に聞いてみた。


「いえ。決してその様な事はございません。お会いできてよかったです。ただ、ちょっと…。」

「ええ。お会いできてよかったですわ。ちょっとあれでしたけど…。」

「よかったよ。面白かったね。」

「父がすみませんでした…。」


 もうこれって謝るしかないよね?


「ヴェル様が悪い訳ではありません。」

「そうですわ。今回はあれでしたが、次回からは大丈夫でしょう…。」

「うんうん。」

「…ありがとう。」


 と居心地の悪い会話をして魔法学校に向かった。

 アレク達は授業を受けている間に、研究室で魔法の研究を行なおうと思ったが、ふとあの時の火竜の卵を思い出した。

 あれどうしたっけ?ああ、魔法の袋に入れっぱなしだったな。大丈夫かな?ちょっと見てみるか。

 魔法の袋から火竜の卵を取り出すと、卵はペキペキと音を立てて赤ちゃん龍が産まれた。


「え?」


 産まれちゃったよ火竜の赤ちゃん…。まじで?どしよ?

 そう思っていると赤ちゃん火龍と目が合い、『グギャ』と鳴いて俺を見つめる。

 どうやら親として認識されたようだ。

 赤ちゃん火龍はドアの方に向き直るとシルヴィを見つけた。赤ちゃん火龍が産まれた事に気を取られ、ノックに気付かなかったようだ。赤ちゃん火龍は『グギャ』と鳴いてシルヴィを母親と認識したようだ。


「ヴェル様。それって…。」

「ああ。この前の火竜の卵から産まれちゃった…。」


 俺達は困惑していたが、赤ちゃん火龍は俺とシルヴィの間を行ったり来たりして飛び回っている。そして、シルヴィの傍に降り立ち近づいてくる。

 シルヴィは恐る恐る手で頭を撫でると、赤ちゃん火龍は気持ちよさそうにしている。

 どうやら敵意は無いようでほっとした。


「どうしましょう?」


 シルヴィはまだ困惑しているのか、どうしたらいいのか分からない状態だった。


「そうだな。もう俺達が親として認識しているようだから、名前でも付けとこうか。」

「名前ですか?」


 2人で考え込んでいると頭の中に『フレイム』と浮かんだのでそれに決定した。


「よし!お前の名前は今日からフレイムだ。」


 赤ちゃん龍は気に入ったのか飛び回り『グギャグギャ』と鳴いていた。

 ちなみにフレイムの由来は火龍のファイヤーブレスのように強くあれと願いを込めて付けた。決して、どこぞのヨガの達人が口から火を噴く技名から取ったのではない事を強く言っておく…。いや、まじで…。






 研究室にアレク、エマ、カナを呼び寄せた。

 火龍の赤ちゃん、フレイムをお披露目するからだ。彼等は部屋に入るなり、絶句している様子だった。フレイムは3人を見るなり警戒していたが、俺が頭を撫でてやると警戒心を解き興味深そうに近づいていった。アレク、エマ、カナは驚きと緊張を混じらせた面持ちだったが、シルヴィがフレイムを抱き抱えた事からほっとしていた。


「これは…、あの時の火龍の卵から産まれたのかい?」


 アレクは驚きをやっと抑え込めたのか尋ねてきた。


「そうだ。あの時の卵を魔法の袋から出した瞬間に生まれちゃった。テヘッ」

「いや、テヘッじゃないから。」

「ですよね…。」


 冗談を混じりに言うと普通に突っ込まれた。もう少しお茶目心を分かってくれてもいいと思うのよ…。


「どうやら俺を父親、たまたま部屋に入って来たシルヴィを母親だと思ったらしい。」

「「「…。」」」


 3人は無言だった。どうしたらいいのかわからないようだ。

 シルヴィも未だどうしたらいいかわからない様子だった。


「だから、育てる事にします。」

「ヴェル様。育て方がわかっているのですか?」


 シルヴィは困惑しつつ尋ねてくる。


「いや。わからないけど言いつけを守れば褒める。悪い事をすれば叱る。幸いな事に俺とシルヴィの言葉は分かっている様子だから…。」


 生まればかりのフレイムがどうやって言葉を理解しているのか分からないが、親として認識している俺達の言葉は分かるようだ。


「だから、アレク達には実験として喋りかけて欲しいのです。」

「「「…。」」」


 3人はフレイムを恐れているのか言葉が出ない。そりゃそうだわな、赤ちゃんといえ火龍だもの。


「名前を呼んで、何か言ってみるだけでいいと思う。」

「じゃ、じゃあフレイム…。」


 フレイムはアレクに視線を合わせる。


「…飛んでみてくれる?」


 フレイムと視線が合った瞬間びくっとしていたが、フレイムは言う通り飛んでみた。

 言葉は理解できているみたいだ。


「おお、通じた!」


 アレクは自分の言葉が火龍に通じた事に驚いた。


「フレイム、いらっしゃい。」


 エマは勇気を振り絞り答えた。フレイムはゆっくり飛んできて目の前にやってきた。エマは両手を差し出すと、フレイムは両手の上に乗って来た。


「重い。」


 両手で支えきれず、倒れそうになっている。すると、フレイムは『失礼な』と言わんばかりに小さく『グギャ』と鳴いた。その様子を見て、カナは吹き出して笑う。


「ちょっとカナさん?笑わないで助けてください。」


 辛うじて踏ん張っているエマは、必死にカナに助けを求めていた。


「ごめんごめん。ちょっとツボに入っちゃった。私の肩においでフレイム。」

「グギャ」


 普段は見れないエマのお間抜けっぷりに緊張が解けたのか、カナはフレイムに手招きする。

 フレイムはゆっくりカナの肩に飛んでくる。カナは一瞬、びくっとしたがフレイムが頬ずりしてくるので安心したようだ。


「この子、可愛いね。」


 とカナは答えたらフレイムは『おうともさ』と言わんばかりに『グギャ』と鳴いた気がした。たぶん、こいつは男の子だ。


「フレイムおいで。」


 フレイムを呼ぶと俺の所に直ぐに来た。信頼しているのだろうか?アレク、エマ、カナの時よりも早く来た。


「よしよし。この人達はみんなフレイムの味方だから、ちゃんと言う事聞くんだよ。」


 頭を撫でながら答える。


「グギャ」


 分かったと返事をしているように思えた。たぶん、この子は言葉が分かる。それに、たぶん強いと思う。まだ子供だけど…。だから、フレイムに真剣に言う。


「フレイム。お前は男の子だ。男の子はか弱い女の子を守らなければいけないよ。」

「グギャ(わかった。)」

「だから、此処にいる、シルヴィ、エマ、カナをお前も一緒に守ってくれるかい?」

「グギャ(任せて)」


 フレイムに頼むと言葉を理解してか返事してきた。それとなく返事の意味も分かった気がする。


「あと、ついでにアレクも守ってあげてくれ。」

「僕はついでか?」


 アレクは苦笑しながら突っ込みを入れる。


「グギャグギャー(えー、面倒くさいけど守ってあげるよ。)」


 と聞こえた気がした。笑える。火龍の赤ちゃんに面倒くさいと言われる王太子って…。プクク。


「言葉がわかるのかい?」


 アレクが尋ねる。


「なんとなくね。」

「何て言ってるんだい?」

「え…。面倒くさいけど守ってあげるよって。」


 それを聞いてシルヴィ、エマ、カナは爆笑した。アレクは『おいおい』と苦笑している。そして、フレイムは俺の顔をぺろぺろと舐めてくる。犬みたいだな…。何となく可愛く見えてくる。

 そう思っていたら、グギュルルルルと音が聞こえる。音の主はフレイムだった。


「フレイム。お腹が空いたのか?」

「グギャ(うん)」

「そうか。ちょっと待ってね。」


 魔法の袋から先日買い込んだスイーツ?を机の上に並べた。

 食べるかなどうかは分からない。火龍が何を主食としているのか分からないからだ。たぶん、肉食なんだと思うけど、もしかしたら草食かもしれないし試してみようと思った。


「グギャ(これ何?食べていい?)」

「これは食べ物だよ。食べていいよ。」


 フレイムは鼻を『すんすん』鳴らして臭いを嗅いでから食べ始める。

 最初の一口は初めての食べ物を口にするという事だからなのか警戒して小さめに頬張ったが、味に気にいったのかばくばくと食べ始めた。

 気付けばもう10人前も食べている。食欲旺盛だな。フレイムは満足したのか『ゲプッ』と胃の中の空気を吐き出して、その場に丸くなり眠り込んでしまった。

 そこで寝ないでと思ったので、俺は土魔法で直径40cm四方の簡易ベットを作り、そこに布を敷き詰めてベッドを用意した。そして、フレイムを重力魔法で少し浮かせて移動させる。すやすやと眠り込んでいるフレイムをみて何故だか分からないが微笑ましく思ってしまった。これが親の気持ちなのかと思った。

 その光景を、4人は微笑ましく見つめている。


「お父さんしてるね。」

「いや、あれはお母さんの方じゃないか?」

「ですわね。」

「そうですね。」


 俺がお父さん…いや、お母さんぶりを発揮しているとみて、4人は茶化すように感想を述べている。恥ずかしいからやめて…。


「誰がお母さんだ…。」


 ぼそりと呟いたが、4人はにやにやした顔で視線を送ってくる。


「俺達もお茶にしようか。」


 誤魔化すようにお茶会を開こうとする。


「ヴェル君。照れてる?」

「いや、もういいから…。」


 カナにそう言ってフレイムが食い散らかした机を片付ける。汚いな…。食事のマナーを躾けなければならないなと思う。それはシルヴィにでも任せるか。シルヴィならきっとテーブルマナーをしっかりと躾けてくれるだろう。お姫様だし、王宮流の気品溢れるマナーを躾けれると期待しよう。


「それにしても、火龍の赤ちゃんか…。大丈夫か?ヴェル。」

「何が?」

「いや、ちゃんと育てられるのかって事。」


 アレクは心配して尋ねてきた。いくら赤ん坊だと言っても相手は火龍だ。本来、火龍は危険な存在なのだが、赤ん坊の時からしっかりと躾ければ大丈夫だろう。きっとね…。


「それはシルヴィに任せるよ。」

「え?私ですか?」


 冗談でシルヴィに任せると言うと驚いたようにシルヴィが答える。


「お母さんなんだから躾けは任せるよ。」

「躾けはお父さんの仕事でしょう?」

「いや、お母さんでしょう?」


 堂々巡りのような会話を5分…。

 まるで両親が子供の躾け方について議論し、責任を擦り付け合っているような会話だな。まあ、冗談だけどね。

 この国では、子供を育てるのは母親の仕事らしい。『じゃあ、父親は何をするんだ?』と思ったが、貴族の父親は家や領内を発展させるために努めるのだそうだ。普通の人間が相手ならね…。

 しかし、今回は火龍の赤ちゃんだ。状況が状況なだけに、俺がしばらく様子を見ようと思う。万が一何かあったら目も当てられなくなるからね。

 とりあえず、現状で分かる事は食費が掛かりそうだと言う事だけだ…。


「食費が掛かりそうだな…。」

「だろうね。」

「でしょうね。」

「ですわね。」

「だね。」


 俺達はフレイムに視線を向けて、食欲旺盛な食事っぷりを思い出していた。


「食費はシルヴィに任せるよ。」

「…ヴェル様。」

「何ですか?シルヴィアさん…。」

「そこは折半です!」


 軽くお叱りを受けてしまった。可愛い子供フレイムのためだ。何とかお金を稼ぐ方法を考えてみようと思う。

 男親はつらいよ…トホホ。

次回、更新日:そのうち…。

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