28 仲裁
母マリアがエルを連れて家出してきた翌日、セドリックが俺を訪ねて王宮に来た。
しかし、此処で浮気の事を話すのは不味いので、マリアの泊まっている宿とは正反対の所にある宿を取って、話しを聞く事になった。
「それで、父様。どう言う事でしょうか?」
「…。すまん、ヴェル。」
すまんで済むと思ったら、警備兵はいらないんだよと思ったが黙っておいた。
「それで、クーリエさんは連れてこなかったんですか?」
「ああ、お腹の中に子供がいるからな…。」
「そうですね…。」
母様のお腹の中にも、子供はいるけどね…。よく来たよ、母様。母は強しって言うけど、強すぎだよ!
「父様はこれからどうしたいとお考えで?」
「…マリアを連れて帰りたい…。」
ですよね。うん、知ってた。勿論、連れて帰ってもらわないとこっちも困る…。
「連れて帰ってどうするんですか?」
「…仲直りして、クーリエの事も認めてもらいたいと思っている。」
そんな理屈通るのかな?
「それが通用するとでも?」
「思っていない…。」
「じゃあ、どうするんですか?」
「実は、その事でヴェルに頼みたい事が…。」
やっぱりそうなるよね…。
「仲裁をしてほしいと?」
「ああ…。」
「浮気しといて息子にケツを拭かせるんですか?」
「…。」
父様…、はっきり言ってゲスですよ。ゲスでゲス…。ごめん、言いたかっただけだ。
「ふう、仕方がありませんね。どこまでできるか分かりませんがやってみましょう。」
「すまない。ヴェル。」
「家族ですので…。一家離散なんてしたくないですし、クーリエさんの事は僕も好きですし、お世話にもなってきたので…。」
クーリエさんも家族の一員だと思ってたから俺は大丈夫。マリアがね…。許してくれるといいけど…。
「ありがとう、ヴェル。」
「それじゃ、行ってきますけど父様はここで大人しくしといて下さいね。」
「ああ、わかった。」
さて、どうしたものか…。素直に言ってもマリアは聞きそうにないし、エルも心配だし…。ここはからめてで行こうと思う。
魔法学校のとある一室で、俺は重い口を開いた。
「よく集まってくれた。」
俺はどこぞの眼鏡を掛けた無口な指令ばりに、手を組み手の甲で顎を支えている。
「何、恰好をつけているんだ?」
俺の最も信用する4人の人達の一人が答える。そう、アレクだ。他にはシルヴィ、エマ、カナだ。他に信用できる友達がいない。友達少なねぇなとどこからか聞こえた気がしたが、気にしないでおく…。気にしたら心が折れそうだから…。
そんな事はさて置き…。
「実は…。」
俺が置かれている状況を4人に説明した。
「「「「それは…。」」」」
4人とも声が続かない。
そりゃそうだ…俺だって何て言えばいいかわかんないんだもん…。
「そこで、皆には協力してほしい事があるんだけどいい?」
「勿論、いいさ。」
「ヴェル様のお役に立てるなら協力します。」
「そうですわ。是非協力させてください。」
「するする。」
「…ありがとう…。」
目頭が熱くなる。持つべきものは、やはり友人なのだなと感慨深くなる。
早速、行動を起こすべく動く。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。、ヴェル。」
「おかえりなさい。ヴェル兄様。」
マリアとエルがいつものように笑顔で出迎える。
「今日は友達を連れて来ました。」
「あらあら、いらっしゃい。ヴェルがいつもお世話になっていますね。」
「お初に…。」
「母様、少し出掛けませんか?」
アレクが挨拶をしようとするが、それを制した。
「…いいわ。」
俺の真剣な顔に察したのだろうか、真剣な顔で頷いた。
「エル。母様と少し出掛けてくるから、エルはこっちのお兄ちゃんと遊んでてくれるかな?」
「…。」
エルは初めて見る人に緊張している様子だった。
「大丈夫だよ。このお兄ちゃんはちょっと馬鹿だけど、優しいお兄ちゃんだから。」
「ちょ、ヴェル…。」
アレクと視線を交わすが無言で頷いた。
アレクも黙ってそれ以上何も言わなかった。後で覚えてろと言わんばかりだったが、今は置いておこう。
「はい。わかりました。」
エルに笑顔で頭を撫でる。
「では、行きましょうか。母様。」
「ええ。」
馬車に乗って向かった先は、庭園付きのレストラン。そう、お見合いをした場所でありプロポーズしたレストランだ。
ここしか知らないんだもん…。
通された部屋には、父セドリックが土下座して待っていた。マリアはセドリックを無視して席に着く。
「それで?話って、何?」
「許してくれ!マリア!」
セドリックは土下座したままマリアに許しを請う。
「…。」
しかし、マリアは無視して視線を合わそうともしない。
「父様。ちょっと黙っててもらえますか?」
「…はい…。」
父を制して、話を進める事にした。
こんな父様、初めてみたよ…。情けない…惨めだ…。何とかしなくちゃな…。
「母様。父様の浮気を許す気はありませんか?」
「ないわ。」
ですよね。うん、知ってた!じゃないと、此処まで来ないもんね!
「でしょうね…。じゃなきゃ、此処まで来ませんよね。」
「…。」
マリアは無言だった。無言が空気を重くする。
「母様。父様は最低です。最低な事をしました。」
「そうね。」
「だから、母様は許さないと?」
「そうよ。」
「なら、僕の事も許さないのでしょうね。」
マリアは息子である俺の話になって、意味が分からない顔をしている。
「何を言ってるの?そんなわけないじゃない。」
「いいえ、そんなわけがあるのです。」
「何でよ?」
マリアは何でそんな事を言い出したのか困惑している。
「僕は、成人したら此処にいる3人と結婚します。」
「っ!」
マリアは突然、話が変わって婚約者が3人もいると聞いて驚いている。
「3人もの妻を持つ僕は浮気しているのと同じです。だから、母様と暮らす事はできません。」
そう言って、席を立つ。
「待って。ヴェル。」
「何か?」
「それとこれとは話が違うでしょ?」
「いいえ。そんな事はありません。3人と結婚したら3人と…その…、する事になるでしょう。」
その言葉を聞いたシルヴィ、エマ、カナは顔を真っ赤にする。
「そうなると、父様と同じ事をする事になりますので、母様と一緒には暮らせません。」
「それは違う!」
「何が違うんです?」
「3人を愛しているから結婚するんでしょ?」
「そうですね。」
シルヴィ、エマ、カナは、更に顔を赤くする。
「愛があるならセドリックと違うじゃないの!」
「いえ、同じです。父様もクーリエさんが好きなんです。母様と同じぐらいにね。」
その事はマリアも気付いていると信じたい。
「…。」
「だから、許してやってはくれませんか?クーリエさんの事は僕も好きです。家族だと思ってます。父様と結婚してもおかしい事はないです。」
「…。」
マリアはずっと無言だったが、話を続ける事にする。
「こちらにいるのはシルヴィア王女殿下、モンシア伯爵の孫娘のエマさん、グランネル子爵の孫娘のカナリエさんです。」
「っ!」
マリアは絶句していた。
エマとの事は説明したが、カナの事は言っていない。言ってはいないが、予想はできたかもしれない。問題なのは、シルヴィの事だ。シルヴィは、仮にも王国の王女様だ。その王女様と結婚すると言う事は、国王陛下とアレク、エマ、カナ以外には言っていない。
「今回の事を相談しました。皆、心を痛めています。仲直りできるなら是非協力させてほしいと言って下さいました。」
「…。」
「未来の僕の奥さん達に、母様から見れば義理の娘達にどんな顔向けができるのですか?」
「分かったわ。許しますっ!許せばいいんでしょっ!」
マリアは声を張り上げて答えた。
「マリア。すまない。本当にすまない。マリアもクーリエも愛しているんだ。だから、クーリエも認めてやってくれ。」
マリアの許すの言葉に、セドリックは土下座しながらも謝罪と願いを伝えた。
「あなたは本当にわかってないわね!クーリエの事は認めてるの!私が腹が立ったのは浮気した事を黙ってたからなの!夫婦の間で隠し事なんて許せるわけないでしょ!」
そこ?怒ってたのはそこ?正直に言えば、許してたって事?
「すまない。次からは正直に話す。」
「次があると思って?」
マリアの目が怖かった…。あれは、本気だ。あれは魔神だ…ステイグマだと思った。
「いえ…。ないです。」
「わかればよろしい。」
「はい。」
とりあえず…、仲直りできたのか?よかったよかった。これでダメなら、どうしようもなかったところだ。
「ヴェルにまで迷惑かけてすまなかった。」
「今回だけですよ?次はありませんから…。今度やったら母様とクーリエとエルを連れていきますからね?」
「ああ。反省してる。」
本当かよ!?次、実家に帰った時に、もう一人増えてましたって事にならないよね?信じてますよ?父様。
「ヴェル、ありがとう。貴方達にも迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
マリアはシルヴィ達にも頭を下げた。
「そんなお義母様。頭をお上げください。私達は何もしておりません。」
「そうですわ。全ては、ヴェル様が仲を取り持っただけですわ。」
「うんうん。ヴェル君、すごい。」
そこまで褒められたらおじちゃん照れちゃうよ。後で飴を買ってあげよう。
「自己紹介が遅れました。私はアルネイ王国王女、シルヴィア・リ・アルネイで御座います。末永くよろしくお願いいたします。」
「私はモンシア伯爵が孫娘、エマと申しますわ。末永くお願い申し上げますわ。」
「グランネル子爵の孫娘のカナリエです。よろしくお願いします、お義母様。」
3人は笑顔で優雅にお辞儀した。
「こちらこそ。ヴェルをよろしくお願いしますね。」
「「「はい。」」」
マリアとシルヴィ達の挨拶が終わった。
4人の関係が、何かいいなと思った。
「ヴェルナルドの父、セドリック・フォン・グナイストです。ヴェルを末永くよろしくお願いします。」
セドリックも遅れて挨拶をする。
「こちらこそ。よろしくお願いします。浮気されたお義父様。」
え?
「よろしくお願い致しますわ。最低の事をされたお義父様。」
ぐはっ
「よろしくお願いします。息子に浮気の仲裁を頼まれたお義父様。」
やめてっ!やめたげてっ!もうセドリックのHPは0よっ!精神が終わっちゃう…。あんなにやつれちゃってまあ…。
それにしても…、シルヴィ達えぐいな…。怒らせたら殺されそう…。怒らせないようにしようと心に誓うヴェルナルドでした。