27 家出
こんにちわ。ヴェルナルド・フォン・グナイストです。
今日は先日、正式に婚約が決まった美少女3人組に、婚約指輪を贈る為、アルグレイ商会にやってきました。
シルヴィには指輪を贈ったが、あれは婚約指輪として購入した物じゃなかったので、改めて用意した方がいいんじゃないかと思い、購入する事になりました。
店に入るなり、アルグレイさんがやって来た。
「ようこそいらっしゃいました。グナイスト男爵様。」
「こんにちわ、アルグレイさん。」
いつも何処から湧いてくるんだ?と思いつつ、挨拶を済ませる。
「本日は、どのような物をお探しで?」
「今日は、婚約指輪を探してまして…。」
「おお。それなら丁度良い品が入荷しております。」
ほんとかよ?どうせ、裏に隠してあるんだろう?分かってるよ。
「では、早速見せてもらっても?」
「はい、では参りましょうか。」
アルグレイさんは、ニヤリと笑みを浮かべて4階貴金属売り場へと、俺を誘った。
「こちらでお待ちください。」
と言い残し、店の裏へと消えていく。
暫くすると、丁重に3つの木箱を持ってくる。
「お待たせしました。こちらが、当店が誇る最高の婚約指輪です。」
アルグレイさんは、自慢気に語る。
思わず、『おお』と唸ってしまった。
銀でできた豪華な装飾が施された指輪に、宝石の部分は、小指の先程の魔石が嵌め込まれた見事な指輪だった。魔石の色は、それぞれ赤色、青色、緑色。色合いはとても濃い色をしているのだが、透き通った輝きに目を見張るものがある。
これは凄い。さぞ、名のある職人によって生み出された逸品だと、確信が持てる指輪だった。
「これは、凄いですね。」
「私も、これほどの品を扱うのは久方振りでございます。滅多に市場には出ない程の品なのですが、グナイスト男爵ならお売りしてもよいと判断いたしました。」
とても価値のある商品なのだそうだ。
お金だけ持ってる人には絶対に売らない物であり、信用のある人にしか売らないそうだ。
俺は信用されたようだ。王宮に住まい、王族や名のある伯爵子爵のご令嬢に懇意にさせてもらい、このアルグレイ商会にも大金を使っているのだから、信用されて当たり前か…。
「決めました。この3つの指輪を買わせて頂きます。」
「3つもですか?」
「3つ買わせる為に、持ってきたのでしょう?」
アルグレイさんと俺は、ニヤリと笑みを浮かべ商談が成立した。
3つで9600万ジュール…。貯金が減っていく…。
アルグレイ商会で買い物を済ませて後、馬車を手配し、カナ、エマ、シルヴィの順に迎えに行く。予め予約してあったレストランに向かった。お見合いをした庭園のあるレストランだ。
正直、どこでプロポーズしようか考えたけど、ここしか高級な所を知らないからだ!
3人を連れて広ろ目の個室に案内され食事と景色を楽しむ。
会話が弾んでいたが、3人は少し落ち着かないのか、そわそわ、もじもじと一箇所に体を落ち着かせてはいない。そんな姿を見ていると、可愛く見えてどきどきしてくる。
3人にはプロポーズをするとは言ってはいないが、もしかして気付いているのかもしれない。今日、3人を連れて食事をしたいと誘った時、シルヴィの兄アレク、エマとカナのお爺さんに何か言われてるのかもしれないと思った。
「今日、3人を食事に誘ったのには、理由があります。」
改めて3人に向き直り、答えた。3人は、緊張した面持ちで姿勢を正したようだ。
「俺と、結婚して下さい。」
言い終わると、指輪の入った木箱を3人の前に差し出す。
青色魔石の指輪はシルヴィに、緑色魔石の指輪はエマに、赤色魔石の指輪はカナに。
「やっと、仰って下さいましたね。ヴェル様。謹んで、お受け致します。」
最初に答えたのはシルヴィだった。
続いて、エマが答える。
「はい。末永く、よろしくお願い致しますわ。ヴェル様。」
最後にカナが答える。
「ヴェル君。僕、ずっと待ってた。これからも、よろしくお願いします。」
3人は、それぞれ指輪を受け取って、呆けたようにうっとりとした表情で指輪を見つめていた。
この仕草を見るだけでも、指輪を買った意味があるというものだ。皆の心が、繋がった気がした。
翌日、国王陛下に呼び出され謁見の間に向かった。
国王陛下に、婚約の申し出をした事を、報告したが、『あい、わかった。』と一言だった。
一応、婚約は成立したのだが、公には発表しないらしい。準備が整い次第、するとの事だったが、具体的な日時に付いては触れなかった。
翌日から、シルヴィやエマ、カナを連れて歩く姿に、女生徒からは羨望と嫉妬の眼差しがあった。男子生徒からは殺意と敵意が漲っていた。
なんでやねんっと突っ込みを入れたがったが、これがリア充爆ぜろの気持ちなのだろうと思った。くそっ、お前等みんな死ね…。魔法を発動してやろうかとも思ったが、新たに敵を作るだけだと思い至った。平和に生きて行きたい…。
入学から四ヶ月が経過した。
当初、警戒していた暗殺や毒殺が未だにない。
何事もない事が不気味ではあったが、油断なく警戒を行なおうと思う。まだ四か月だしな…。忘れた頃に何とやらだ。
食事や口に含む物は『探知魔法』で、毒物が混入されていないか調べる事を徹底する。
暗殺は、いつ、どこで迫りくるかわからないので、なるべく1人にならないように言っておいた。勿論、可能な限り傍にいるようにもした。しかし、完全ではないだろう…。
だから、アレク、シルヴィには、なるべく早く初級、中級の魔法を覚えてほしいところだが、時間が掛かる。こればっかりは仕方ない。俺でも、初級から中級に上がるのに、半年も掛かったのだ。長い目で見てやるしかない。
そんなこんなで、魔法の指導を行なっていると、実家から手紙が送られてきた。内容はと言うと…。
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拝啓 親愛なるヴェルナルドへ
元気でやっていますか?
こちらは、皆、元気に過ごしています。
無事に、王都に到着できてよかったと胸を撫で下ろしています。
心配するなと手紙には書かれていたけど、自分の息子を心配しない親などいません。
いつも気になります。
風の噂で、王都に向かう少年が火竜を倒したと聞きました。
厄介事に巻き込まれたって書いてあったけど、もしかして、これじゃないの?
ヴェルは、すごい魔法が使えるから、ヴェルしかいないと思いました。
本当に、大丈夫なのよね?心配でなりません。
それから…、セドリックの事は忘れなさい…。
やつは死んだ…。
死んだと思ってください。
私も、もう少ししたら、王都に向かいます。
それでは、また会いましょう。
母より
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え?どゆこと?死んだの?やつは死んだってってどこのヤンキー用語ですか母様?いや、死んだと思ってくださいって事は、死んでないな…。行方不明?それとも、離婚でもしたのかな…。
まさか…、父様…。浮気したのかな?ついに、クーリエさんに手を出しちゃったかな?出しててもおかしくはないけど、何でこのタイミングで?もう、悪意としか受け取れないぞ。
手紙が届いてから程無くして、エルを連れたお腹を大きくしたマリアが到着した。
「ヴェル兄様!」
エルが俺を見つけると、抱き着いて来た。
「おー。エル、元気にしてたか?」
「はい。ヴェル兄様。」
「ちゃんと、父様と母様とクーリエさんの言う事を聞いていたかい?」
「…うん…。」
えらい歯切れが悪いなと思いつつ、エルの頭を撫でる。
「それで、母様。急に、どうしたんですか?」
「何でもないわよ…。ちょっと、ヴェルの顔が見たくなっただけよ。」
いや、ちょっと顔を見たくなっただけって言われても、そんなにお腹を大きくした身で大丈夫なのか?
「嘘ですね…。母様がいつもと違うのは、手紙の内容からしても分かります。」
「…。」
「何があったのですか?父様が死んだって…。」
「…浮気したのよ…。」
やっぱりか!?仕方ない…。父様…、今までよくがんばったと言いたいんだけど、このタイミングはないんじゃないの?恨むよ?まじで?
「…クッ、クーリエさんとですか?」
「そうよ…。」
「いつから…、ですか?」
「もう、一年も前からだって。」
え?一年前から?俺がまだ家にいたころからよね?あの時の誕生日会の時には、もうすでやっちまってたって事ですか…。だからあんなに狼狽えたのかな…。クーリエさんも少し顔が赤いようにも見えたし…。父様…。
「そう…、ですか。」
こればっかりは、どうしようもない。俺も、何もできないよ…。
「それで、家を出て来たと?」
「だって聞いてよ!ヴェル!クーリエのお腹が少し出てきたなって思ったら、実は妊娠してましたって!その時に、セドリックが頭を過ったのよ!それでカマを掛けたら、直ぐにゲロったのよ!」
ゲロったって…、母様…。もっとお上品に言ってって…。それに、すごい勢いで言うね…。
「父様…。」
「もうあの人は、父親じゃないから…。エルと3人で、暮らしましょう。」
まじですか?いや、それでもいいんだけど、その後はどうなるのよ?
「いや、しかし…。」
「何よ!ヴェル。セドリックの肩を持つの!?」
目が怖いよ母様…。
「いえ、違います。違いますから、落ち着いてください。母様。お腹の子供にも悪いですから…。」
「そうね…。少し頭に血が上っちゃったわ…。」
息子に諭される母の絵…。こんな姿を、他の人に見せられない…。
「具体的に、どこで住むと?」
「それは…、ヴェルが、何とかしてくれるでしょ?」
正直、何とかできるけど、褒美で貰ったお金があるし、贅沢せずに質素に過ごせば…、何とかなるだろうけど…。
「何とかはできると思いますが、住んだ後の事を考えてください。収入はどうするんですか?」
「私が、働くわよ…。」
それは勿論、そうなったら働いてもらわなければいけないわけで…。しかし、その体で?産んだ後は、育児もしなきゃならないのに?エルもまだ、小さいし…。
「とりあえず…、僕は学校があるので、今日一日はここで大人しく待っていて下さいね。いいですか?」
「わかったわ。」
憂鬱な顔で、魔法学校に向かった。
アレク、シルヴィ、エマ、カナには『どうしたの?大丈夫?』と心配されたが言えるわけもなく…。魔法の指導も訓練メニューをメモにして渡しておいたから大丈夫だけど、護衛が…。これもグスタフの罠か?と思ってしまいたくなる。
魔法学校から帰宅する前に、宿を予約して帰宅した。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。ヴェル。」
「おかえりなさい。ヴェル兄様。」
母様とエルは笑顔で出迎えた。
「母様。宿を取りましたので、そこに移動しましょう。」
「どうして?」
「どうしてと言われても、ここに3人で暮らすにはちょっと…。父様にも迷惑が掛かりますし…。」
「知らないわよ。あんな人。」
相当お冠だ…。
「僕が、困るんです。」
「わかったわ。」
マリアは、渋々と言った感じで了承した。今日は、宿で3人で泊まる事にした。
何かもう疲れた…。今日は早く寝てしまおうと思う…。