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26    してやられた?

 翌日、先生にお願いして専用の研究室を用意して貰った。

 魔法の授業に関しては、この学校で教えてもらう事はなかったので礼儀作法、歴史を選択授業として、余った残りの授業を研究に使う事にした。

 研究をする前に家族に手紙を書こうと思う。入学してからの近況報告もまだ済んでないしな。






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 拝啓 親愛なる父様、母様、エル、クーリエさん如何お過ごしでしょうか?

 きっと皆の事だから、元気に過ごしている事かと思います。

 こちらは、ちょっと厄介事に巻き込まれたけど、無事に魔法学校に入学する事ができました。

 厄介事の説明は、あんまりできませんが心配しないで下さい。

 大丈夫なので…。

 その事で、国王陛下から褒美を頂く事になりました。

 男爵位と、お金を頂きました。

 ちょっとした小金持ちになっちゃったけど、いずれ帰った時にお金を持って帰りますね。

 お土産と共に…。

 何がいいか考えて、知らせてください。


 父様は、浮気をせずに母様だけをみていますか?


 母様は、父様がちょっとクーリエを見ていても許してあげて下さい。

 たぶん、男の人は仕方ないと思うので…。


 クーリエさんは、父様に詰め寄られたら、僕の代わりに殴っといて下さい。


 エルは、元気にしてるかな?強くなっているのかな?寂しくなっても、我慢してね。男の子なんだから、強く逞しくなってね。


 とまあ、半分冗談も含みましたが、こちらは元気です。

 そうそう先日、魔法使いになりたいと言う人が3人と、魔法が使える魔法使い1人を、弟子的な感じで弟子にしました。

 魔法の使えない3人が、魔法を使えた事が驚きではありますが、立派に育てて見せます。

 それから、王都に来て間もなく、お見合いをする事になってしまって、お見合いしました。

 お相手の方は、モンシア伯爵の孫娘のエマさんです。

 一応、やんわりと断っておいたので大丈夫かと思いますので、心配しないで下さい。

 なるべく、纏まった休みがあれば帰ろうと思います。


 それでは、お達者でお過ごしください。

 ヴェルナルドより。


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 これで、いいかな?たぶん、いいだろう…。

 手紙を書き終わってから、研究室で師匠の残してくれた魔導書や、研究レポートを読み返して興味を持ったのがある。

 空間魔法と重力魔法だ。

 師匠の研究でも、まだ未完成の魔法だ。

 空間魔法は空間の拡張や縮小、ある一定の空間を支配する魔法だ。

 重力魔法は物の質量を軽くしたり、重くしたりできると理論上書かれていた。

 アレク、シルヴィ、エマ、カナに魔法指導を行いつつ、選択授業を受け、研究に精を出す事、二ヶ月が過ぎた。


 カナ以外は基礎魔法を何とか習得した。かなりスパルタで教え込んでおいた。

 特に、アレクやシルヴィには、俺が傍にいない間は自分の身は自分で守れるようにしておきたかった。魔法が使えるのと、使えないのとでは差があるからだ。基礎魔法がどこまで通用するかはわからないが、それでもないよりはマシだろうと思う。

 カナはと言うと、中級魔法に苦戦している様子だ。想像力が足りないのが、原因かもしれない。

 魔法研究の方は、重力魔法はそれなりの成果があったが、空間魔法は思うように進展しなかった。

 物の質量変換は風属性と土属性、結界魔法の応用で、ある程度できる様にはなったが、空間の拡張、縮小は思ったより難題だ。

 昔、師匠が言っていた事を思い出す。魔法は万能だ。魔法の理論さえ、しっかりと把握できれば、大抵の事は何でもできると言っていた。諦めずに研究を進めて行こうと思う。

 とは言え、行き詰まっているのは確かなので、ここは遊びに行こうと思う。いつもの4人に声を掛けたが、アレク、シルヴィは王宮で王族としての仕事があるそうだ。

 だから、エマとカナを連れて、町に繰り出す事にした。


「やっと、誘ってくれたね?」


 唐突にカナが言う。


「すみません。魔法の研究に忙しくて…。」

「いいんですよ。未来の夫の邪魔をするわけには、いきませんわ。」


 エマが、直球をぶつけてきた。思わず吹きかけたが、辛うじて堪えた。


「おっ、夫って、まだ婚約したわけではないので、その話は断ったはずでは?」


 いかん、冷や汗が…。俺には約束した人が…、っていないか。


「そんなに、私達と結婚したくないと?」


 エマは悲しそうに答えた。


「いえ、そうでは、なくてですね…。結婚は、慎重に行うものだと言っているんです…。ちゃんと恋愛してからですかね…。」

「じゃ、ヴェル君。恋愛しよう?」


 一瞬、吹きかけたが、何とか堪える。


「恋愛しよう?で恋は始まらないよ…。」

「私は、恋してますわ。ヴェル様。」


 エマは、俺の腕に絡みついてくる。


「僕もだよ。、ヴェ・ル・く・ん。」


 カナは逆の腕を、元気いっぱいに抱き着く。

 やばい…。このままでは…、俺のジョニーが黙っていないぞ!ここは、数字を数えるんだ!数えて、落ち着くんだ!アレクが1匹、アレクが2匹、アレクがって怖いわ!アレクがいっぱいいたら心臓に悪い…。


「…。」


 無言で邪念と戦っていると、エマとカナは続けて言う。


「ヴェル様。私は、いつまでもお待ちしていますが、最近お爺様が五月蠅いのですわ。」

「えっと、モンシア伯爵様ですか?」

「ええ。いつ、良い返事をもらえるのだ?まだ篭絡できないのか?と…。」

「ろっ、篭絡ですか…。」


 そう言いつつ、エマは人差し指を俺の脇腹の上で、円を描くようになぞる。

 やばい、このままでは取り込まれそう…。


「僕もだよ。お爺様に、まだ結婚もしてないのに、曾孫の顔が早く見たいなとせっつかれるのです。」


 あれ?グランネル子爵が?反対してなかったっけ?嫁には出さんぞって、言ってた気がするんだが…。


「あはは…。すみません。」


 カナもエマと同じように、人差し指で俺の脇腹の上で円を描いてくる。

 不思議だ、空はこんなに青いのに、俺の心は晴れない…。


「そっ、そんな事より、今流行りのスイーツが美味しい店に着きました。さあ、早く中に入りましょう。」

「「もうヴェル様(君)ったら…。」」


 2人は、声を揃えて呆れ顔で答える。

 店の中に入ると色んなスイーツがあり、目を奪われる。果物をふんだんに使ったパンやら、砂糖に焦げ目をつけたパンやら…。…全部パンだな…。スィーツ?なのか?胸焼けしそう…。


「すごいですね。流石は、今流行りの店だ。」

「ええ、そうですね。どれにしようか迷ってしまいますわ。」

「あれなんかも、美味しそう。」


 エマとカナは、さっきの会話を忘れて燥ぎだす。

 やっぱり女の子だね。甘い物には目がないようだ。ここは、さっきのお詫びに大人買いしてみる事にする。


「すみません。全種類を5つずつ下さい。」


 店員に大量の注文したので、驚かれた。


「ちょっ、ヴェル様。」

「そんなに食べれないよ。」


 2人共、驚いている。

 そりゃそうだ。こんな買い方、どこの誰だよ?って言いたくなる。

 俺だよ!


「いいんですよ。お土産もあるし、余った分は魔法の袋にでも入れて、持って帰りますから。」


 代金を支払い、大き目の席に陣取ると、注文したスイーツ?が運ばれて来る。

 エマもカナも運ばれてくるスイーツ?に、目を輝かせながら見つめていた。どれから食べようか、迷っている。やっぱり女の子だね。


「明日から、研究室に通いになりますね。」

「「え?」」


 2人は、口元にパン屑を付けながら何で?と言わんばかりに答える。


「余ったものは、明日から研究室で出すからです。」


 そう言いながら、2人の口元に付いたパン屑を指で拭い、ぺろっと舐める。

 2人はその行為に顔を赤くし俯いてしまう。

 間接キス?かこれ。


「あっ、すみません。」

「「いっいえ。」」


 もじもじしながら2人は答えた。

 もう2人共可愛いな。

 そんな2人を見つめていると顔を朱に染めつつ、口一杯に頬張って食べていた手が少しづつ食べるようになった。

 う~ん、可愛い。食べちゃいたいくらいだと思った瞬間、2人のお爺様を思い出す。いかんいかん、手を出したら、後戻りはできない。


「もう、食べれませんわ。」

「僕も、満足した。」


 邪な事を考えていると、2人はスィーツ?を、4つずつ間食したところで満腹になったよう様だ。


「うう。お腹の中の空気を、圧縮できたら、もっと食べれたのに…。」


 いや、それ食べ過ぎだから…。がっつき過ぎだから…。人の奢りだと思って、遠慮なく食べおって…。


「もう、カナさんったら。」


 もっと食べたいと言わんばかりに、カナが言っていた。

 ん?空気を圧縮?空気は風属性、風属性で空間自体を圧縮し、土魔法で空間を強化して…。いや、逆か。結界魔法で空間を固定、土魔法で空間を強化して、風魔法で空間ごと圧縮。いけるぞ!


「カナ!お手柄だ!」


 2人は、急に考え事をしている俺に、突然大声を出されて驚いていた。

 直ぐに、残ったスイーツ?を魔法の袋に収納すると、2人にごめんと言い残して、急いで研究室に戻る。

 考えた魔法を、直ぐにでも試したかったからだ。結果は、成功した。


「やった。やったぞ!」


 感動を露わにして喜んでいると、エマとカナが帰って来た。


「もう、ヴェル様。急に、どうされたのですの?」

「いきなり走り出して、びっくりしちゃったよ。」


 2人は、入るなり苦情を言ってきたが、今はそれどころじゃない。

 喜びを露わにして燥いでいると、エマとカナは顔を真っ赤している事に気が付いた。状況を分析してみると、俺が2人に抱き着いていたのだ。俺は、慌てて体を離した。


「ごめん…。」

「「いっいえ。」」


 2人は、体を離した事を名残惜しそうに答えていた。


「ずっと悩んでいた魔法が、カナのお陰で完成したんだ。」


 カナは、僕、私何かしたっけ?と困惑していたが、魔法が完成した事に素直に喜んでくれた。


「それは、おめでとうございますわ。それで、どう言う魔法なのですか?」

「ヴェル様、おめでとうございます。」

「ありがとう。空間魔法さ。」

「「空間魔法?」」


 そんな魔法あったっけ?と、2人は顔を見合わせて、首を傾げる。俺は、実証するしようと、魔法を発動させた。研究室を、広くしたり、狭くしたりして、魔法を披露した。

 2人は驚愕していた。


「「すっ、すごい。」」


 そう答えた後、2人は言葉を失った。

 その後、2人を屋敷まで送ったが、まだ何が起こったのか理解しきれていないままだったが、そのままにしておいた。

 その内、理解するだろうと思って王宮に帰った。

 翌日、モンシア伯爵とグランネル子爵に呼び出され、説明を要求された。

 特に、王宮筆頭魔法士のグランネル子爵には、空間魔法をあれこれ聞かれた後、モンシア伯爵が重い声をあげた。


「それでヴェルナルド君…責任は取ってもらえるんだろうね?」

「え?責任…、ですか?」


 何の?


「嫁入り前の孫娘の口元に付いたパン屑を指で掬い、そして舐めた。それから、抱き着いて体を弄ったそうじゃないか?」


 弄ってない、弄ってない…。何だよ、それ?言いがかりにも、程があるぞ…。いや、確かに…、胸は弄った事もある気がするが…。でも…、あれは治療みたいなもので…。


「えっと…、すみません。」


 しかし、謝る。

 だって…、モンシア伯爵の眼力が、やばいんだもん…。眼力で、押しつぶされそうだった。


「勿論、責任を取って結婚してくれるんだろうね?」


 と言いながら、顔を寄せてくるモンシア伯爵。

 怖い…、まじ怖い…。目力がぱねっすよ。って近い、近い。離れろよ…。おっさんの顔が、近くにあっても嬉しくない。


「えっ、えっと…。」

「してくれるんだろうね!?」


 だから、怖いって…。そして、近いって…。


「はい…、結婚させて頂きます。」


 2人のプレッシャーが…、怖かった…。

 断ろうものなら、俺の未来は無いような気がした。ここは、結婚する以外、選択肢はないと思った。


「そうか!それを聞けて安心したよ。婿殿。」

「…。」


 怖い顔から、いきなり上機嫌になったようで何よりです…。


「ヴェルナルド男爵殿。カナの事も、勿論貰ってくれるんだろうね?」

「はい…、どうぞよろしくお願いします…。」


 エマだけを貰うわけには、いかないじゃないか…。って言うか、グランネル子爵は、カナを嫁に出さないって、反対してなかったっけ?どうした?急に、心変わりして?


「それは、よかった。では結婚式は、成人して直ぐと言う事で。」

「いや~、よかったですな。グランネル子爵。」

「ええ、やっと胸のつかえが取れましたわい。」


 2人のお爺様は上機嫌でがははと笑い合っていた。

 婚約が、正式に決まった瞬間だった。


 王宮に戻り、アレクとシルヴィに事の顛末を説明した。

 シルヴィにすごい怒られると思ったが、案外すんなりと受け止めてくれた。

 何故だ?と思っているとアレクが答えた。


「そうか。これで、成人したらシルヴィにエマ、カナと結婚式か。」

「え?シルヴィ?」


 あれ?いつ婚約したっけ?と思ったが、シルヴィの左手の薬指に指輪がある事に気が付いた。それと同時に、あれは貴族が婚約に贈る物だと思い出した。

 あでぇ?どうしてこうなった?と考えてみるも後の祭りだ。

 シルヴィに視線を向けてみると顔を朱に染めてにっこり微笑んでいる。あれ?外堀から、攻められてる?俺、謀られた?やられちゃった?

 この様子じゃ、国王陛下も女王陛下も知っている感じだな。


「あの…、シルヴィとの事は、国王陛下も女王陛下も知っているのですか?」

「何を今更、非公式ではあるが勿論了承済みだよ?」


 頭が真っ白になった。

 そう言えば、国王陛下も女王陛下も、婚約しているようなニュアンスを醸し出していたような気がする。終わった…。俺の人生が、終わったような気がする。

 その日の俺は、気を失ったように眠りこけたのだった…。






 翌日、手紙にこう追記した。

 追伸、やっぱり断れなかったよ…。

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