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3     嫉妬?

 異世界に転生してから三年が経った。

 文字の習得もそれなりに進んでいる。毎日、母様やクーリエに本を読んでもらいつつ、分からない文字は何度も聞いて覚える様にしていた事が功を奏したのだろう。

 外国語を習得する一番の秘訣は、外国にその身を置く事だ。意思疎通が出来なければ、外国で生きて行くには難しい物になるだろう。だからこそ、必死で理解し、覚えようとするからだ。

 今の俺がそうだ。異世界と言う外国から来た俺には、外国で生活している様なものだ。見慣れない文字、聞き慣れない言語が飛び交う中に、身を置いている。これが習得を速めた理由だろう。

 母様は、そんな俺を見て『天才だわっ!この子は天才よっ!今から英才教育よっ!』なんて言っていたが、裏ワザを使っているような気がして、正直、後ろめたい気持ちがある。


「さあ、ヴェル。今から魔法の勉強をしましょうね」


 っ!何ですと?魔法の勉強ですと?本気ですか?母様。

 いや、正直な気持ちとしてありがたいが、3歳の男の子にいきなり魔法の勉強をさせる人はいない。でも、これはチャンスだ。魔法使いになる為に必要な知識を与えてくれるのだから、是が非でも覚えたい。


「うん」

「おいおい、魔法の勉強って……。まだ、早いんじゃないのか?」


 おい、誰だよ?俺が、折角の魔法を覚える機会に水を差そうとする奴は?


「何を言っているの?あなた。ヴェルは天才なのよ?」


 父様だった。余計な事を言わないでほしい。


「そりゃ、文字を覚えるのが早いからって天才とは限らないんじゃないか?」


 まあ、確かに俺は天才じゃないと思う。前世からの通算で、十八年間生きている。だからこそ、文字の大切さを知っているから必死に覚えたのだ。


「文字を覚えるのが早いから、天才じゃない!」


 父様の言葉に食って掛かるように反論する母様。

 あかん、あれはあかん奴の目だ……。あの目は本気だ。天才と思い込んでやがります……。


「そうだとしても、魔法はまだ早いと思うが……」

「何よ?ヴェルがすごい魔法使いになれないって言っているの!?」

「いや、そんな事は誰も言ってないだろ?それに、まだ魔法が使えるかも分からないんだし……」


 ん?魔法が使えない?どういう事だ?


「何?ヴェルが天才だと言う事を疑っているの?」


 両手を胸の前で組みながら、母様の冷たい視線が父様に突き刺さる。


「いっ、いや、そんな事はないぞ。ヴェルは天才だと思うよ」


 母様の冷たい視線に戸惑いながらも、視線を逸らして言う父様。


「……それとも、あなたが八歳で文字を覚えたから嫉妬しているのかしら?」

「うぐっ、何故それを?」


 そうか、普通は八歳から文字を覚えるのか。


「昔、お義母様に聞いたのよ。普通は五歳から覚え始めるのにあなたに文字を覚えさせるのに苦労したって」

「うぐっ、母さん。余計な事を……」


 違った……。五歳から覚え始めるらしい。それなのに、父様……八歳からって、ちょっと遅くね?そんなにも脳筋なのか?俺にも、その血が半分入ってるのね……。

 それにしても、父様のお母さんって、俺の祖母って事だよね?この家で、一度も見た覚えがないんだけどひょっとして、もう死んじゃったとかか?


「何が余計な事よ。それで?八歳で文字を覚えだしたあなたが、三歳で文字を覚えた息子に嫉妬しているのかしら?」


 父様の顎を人差し指を添えて、妖艶な笑みで視線を交わす母様。

 そして、両手の握り拳に力を入れて、何かを耐えるようにぷるぷる震える父様。

 やめてー。父様も母様も、俺の為に争わないでーっと、心の中で叫ぶ俺。

 そんな状況下の中で、美少女とも呼べる女性が姿を現した。


「奥様、旦那様、何を言い争っているのです?」


 クーリエだった。

 しかも、奥様をセリフの前頭に持って来て言っているのは、この家のパワーバランスを指している事が分かる。

 普通は、『旦那様、奥様…』の筈である。仮にも騎士爵を叙任された貴族なのだから、それが当たり前である。しかし、どうだろう?何故か『奥様、旦那様…』である。

 俺が産まれる前に何かあったのかな?まあ、それは置いておこうと思う……。俺が知っちゃ、不味い気がする。何かこう、人生的にも精神衛生上でも……。


「クーリエ、ちょっと聞いてよ」

「はい、奥様」

「セドリックったら、三歳の息子が文字を覚えた事に嫉妬しているのよ」

「ちょっ、そこじゃないだろ?三歳のヴェルに魔法を教えるのが早いんじゃないかと言う話だろ?」


 父様の言う事が正しい気がするんだけど、何か納得できない。ああ、文字の習得が遅かった父様が、それを隠そうとしているんだな。


「でしたら、魔法の基礎知識から勉強させて理解できるか、からしてみては如何ですか?」


 うん、クーリエの言う事は正しいと思う。いくら魔法が使えたとして、正しく理解していなければ間違った使い方をするかもしれないしね。


「そうね。そうしましょう」

「おっ、おう」


 母様も納得したようだ。……父様は、ほっと胸を撫で下ろしている。

 やっぱり、隠そうとしていたのか?クーリエに自分の恥ずかしい過去を知られたくないと言う事だな?これは、ひょっとして……手を出そうとしている?それも、俺が産まれる前か、産まれてくる途中に……。

 いや、いい……。忘れよう……気にしたらダメだと思う。

 そんな事よりも、今日から魔法の勉強だ。絶対に魔法使いになって見せる。

 頑張れ!俺。負けるな!俺。

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