24 魔法が使いたくて その2
はあ…。全く酷い目にあった…。思い出すだけで…。ガクブル。
「そっ、それじゃ、続きを始めるね。エマ。」
「はい。その…、大丈夫ですか?」
「それ以上、何も言わないで…。」
「ええ。わかりましたわ…。」
何があったかは、言わない。…言えない。思い出したくもない。ガクブル。
魔力が感じない原因を調べるべく、胸を高鳴らせつつ、エマの胸に…、胸に…、胸に触る。
ふわあぁぁぁぁ!何だこれ!?これが、本当の胸なのか!?柔らかい!気持ちがいい!最高だ!
「ヴェル様…。」
「ヴェル君…。」
はわあぁぁぁぁ!やばいやばいやばい!これ以上は…、死ぬ!
「げっ、原因を調べてるだけだから!?疚しい気持ちはないから!ちょっと、黙ってて!」
「「…。」」
シルヴィ、カナの冷たい視線を一身に受けながら、原因を探る。…明日の朝日を拝めるかな?一抹の不安を覚えつつ、原因を探り出す。
ん?何だこれ?魔力を押し留めているのは堰ではなかった。言うならば、これは結界。いや、封印…なのか?でも、封印だとして、誰が?何の為に?と疑問が過る。
「カナさん…。私達の時よりも、胸を触っている時間が長くないですか?」
「うん…。そうだね…。後でゆっくり…、じっくり…、お話をしないといけないね…。」
ちょっ!変な事、言わないで!?もう、これ以上は本当に死ぬから!?物騒な話は止めて!怖くて、後ろを振り向けない…。
アレクも笑ってないで、止めて…。くっ、アレクの笑顔が、憎らしい。…この野郎…、お前は後でボコる。
「エッ、エマ。」
「はい?」
「君が、魔法を使えない原因がわかったよ。」
「本当ですの?」
「うん。何故だかわからないけど、封印されているみたいだ。」
「封印…、ですの?」
「うん。心当たりはある?」
「…ない…、ですわね。」
封印と聞いて、考え込んでから返事を返すエマ。
「そっか…。」
「はい。」
封印の心当たりはない。しかし、エマに懸けられた封印は、すごく強力なものに感じる。さて、どうするか…。
「エマ…。そんなに魔法が使いたい?」
「はい。魔法を使いたいですわ。」
「何で?」
「それは…、羨ましかったから…、ですわ。」
「羨ましい?」
「はい。私とカナさんは幼馴染だと知っていますわよね?」
「うん。」
「幼い時より、一緒に育ってきた私達は、お互いが魔法を使えないと知って、仲良くなりました。」
「…。」
「でも、ある日、カナさんは急に魔法を使え出しましたわ。理由を聞いたら、すごい魔法使いに魔法を使えるようにしてもらったって…。最初は一緒になって喜んでいましたの。でも、魔法が上達していくカナさんを見て、妬ましくも思う気持ちもありましたわ。羨望、嫉妬、そして諦め…。そんな気持ちに気付いた時、酷く自分を呪いましたわ。私は何て小さい人間なのだろうと…。カナさんの、一番の友達なのに…。」
エマは語り出した。
自分の内にある、本当の気持ち。決して、他人に言う事はないだろう心の声。
「エマ…。」
そんなエマを見て、カナが思わず名前を漏らした。
「カナさん。私は、羨ましかった。妬ましかった。毎日のようにヴェル君がね、ヴェル君はすごい、ヴェル君、ヴェル君って。一番の友達は私なのにって…。急に現れたヴェル君って誰なの!?私じゃ、ダメなのって悩みもしました。」
「「「「…。」」」」
「そんな日々が、5年…。長い5年が過ぎましたわ。本当に長い5年でしたわ。そんなある日、お爺様が縁談を持ってきましたの。話を聞けば、お相手はヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵と言うじゃありませんか。私は、運命を呪いました。会いたくない相手が、お見合い相手だとわかって、急に嫌になりました。」
「エマ、ごめん。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
エマの悲痛な心の声に、カナが大粒の涙を流して謝っていた。いや、謝る事しかできなかった。
「いいんですのよ。カナさんは悪くありません。私が小さい人間だったからですわ。」
「そんな事ない!エマはいつも優しいし、僕の一番の友達だよ。」
「ありがとうございます。でもね、カナさん。私は、これでよかったんだと思いますの。」
「…何で?」
「嫌だった相手、ヴェル様に私の前から消えて、私の友達を返してって言おうとした。でも、会った瞬間にわかりましたの。この人は、私の運命の人だと…。この人と、一緒に生きて行けたら、全て丸く収まるんだって気付きましたの。」
「エマ…。何でそう思ったの?恨んでたんじゃなかったっけ?」
俺は、思わず問いかけてしまった。
ずっと恨んでいた相手、カナの一番を奪った相手なのに、何故、そう思ったのかを…。
「あのお見合いの時、ヴェル様のお顔を初めて拝見させてもらった時、ヴェル様は緊張していましたわね?」
「うん。初めてのお見合いだったから…。」
「お気づきでしたか?少し、震えてもいらっしゃってましたわよ?」
「え?まじ?」
「はい。カナさんから聞いていた、すごい魔法使いが、こんなにも緊張して体を震わしていただなんて、滑稽でした。」
「滑稽って…。ごめん…。」
「いえ、いいんですの。あの時、初めてヴェル様を可愛く思えましたの。今まで恨んでいた気持ちが、嘘のように霧散しましたの。体が、急に軽くなった気がしましたの。そう気付いたら、後は恋に落ちるだけでした。」
「恋って、そんな簡単に落ちるものなのか?」
「あら、ヴェル様。女の子は、ほんの些細な事で恋に落ちるものですのよ?」
「あっ、うん。その…、ありがとう?」
「だから、ヴェル様。私は魔法が使いたい。カナさんとヴェル様の傍にずっと一緒にいる為にですわ。だから、お願いしますわ。魔法使いにさせて下さいませ。お願いしますわ。」
そこまで言われちゃ、仕方がないな。かなり思い詰めてたんだし、エマの願いを叶える為にも、ここは男の甲斐性ってやつを見せなきゃな。
「わかった。でも、封印が解けるかどうかわからない。それでもいい?」
「はい。よろしくお願いしますわ。」
「じゃ、横になって。」
「はい。」
そう言って、エマは横になる。
ベッドで横たわったエマの双丘にも目もくれず、封印を解きに掛かる。
あんな話を聞いた後じゃ、エマの双丘の頂きをいただき~、何て気にはならない。いや、まじで…。本当だよ?すごい魔法使いヴェルナルド、嘘吐かない。
エマの封印を魔力を通して解析を始める。
これは…、いくつものピースが散りばめられたパズルのように交差している。これを、正しい場所に戻してやると封印は解かれるだろう。
「いくよ?」
「はい。」
パズルのピースを、本来あるべき場所に戻すように、一つずつ動きを変えていく。
「アッ…。ン…。ウウン…。ハァ…。アン…。」
変な声だすな!頼むよ…。気が散る。
っ!見つけたぜ!パズルを解く、一本の線が!
「ここだ!」
「アアァァァン!」
エマの絶頂と共に封印が解除された。
エマの全身から漂う、強力な魔力がうねりをあげて迸る。
「すごい魔力だな。」
「力が…、力が漲りますわ。」
「おめでとう。これで、エマも魔法使いだ。」
「ありがとうございますわ。」
そう言って、泣きながら俺に抱き着いてくるエマ。
抱き合う俺とエマを他所に冷たい視線が、俺の背中に突き刺さる。凄まじい程のプレッシャーの先には、シルヴィとカナの凍り付くような視線。
「ヴェル様…。」
「ヴェル君…。」
「はっ、はい!」
「何で、あんなにも胸を揉みしだかなければいけなかったんですか?」
「ヴェル君…。そんなにも大きい胸がいいの!?」
「ちょっ!ちがっ!あれは、封印を解く過程で起こった動作の一つでっ!」
止めて!落ち着いて!シルヴィ、レイピアを構えないで!カナ、魔法を放とうとしないで!危ないから!危ないからぁー!
「「ヴェル様(君)!!」
「ぎゃー!」
この日、一人の少年が空を舞った。
その目撃情報が、数多く王宮に報告がもたらされたようだ。そして、兵士達の緊急配備が成されたようだった。