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22    入学式

 王都に来て、待ちに待った魔法学校入学式当日になった。

 アレク、シルヴィと俺は、真新しい制服に身を包んで、それぞれの品評会を行う予定だ。

 アレクは去年入学しているが、俺とシルヴィの真新しい制服とお揃いにする為に、わざわざ新調したそうだ。

 アレク曰く、仲間外れは嫌だそうだ。

 男性は制服は白をベースとした詰襟の学ランと黒をベースにした学生ズボンだ。腰元には、白い鞘に収まったロングソード。しかし、普通のロングソードではない。白い鞘には、金の装飾が施されている。そして何よりも、王家の紋章が輝いている。それが、このロングソードが特別製であると思わせる逸品だった。

 女性は男のズボンと違い、膝丈ほどの黒のスカート、日本での女子用制服のスカートと同じデザインだった。アレクと違い、シルヴィの腰元には白い鞘に収まった細い剣、レイピアだ。男性よりも、筋力がない女性が扱いやすそうなレイピアだった。そして、そのレイピアの白い鞘にも、金の装飾、王家の紋章が眩い光を放ちながら輝いている。


 まず、アレクからの品評を行う。


「流石はアレク。何を着ても、着こなすね。」


 流石は、イケメンアレクだ。イケメンは死ねばいいのに…。


「そうですね。去年とは、また違って逞しく見えますね。」

「2人ともありがとう。僕だって鍛えてるからね。」


 自慢しているように聞こえるが、お世辞だからと言いそうになったが、辞めた。こんなんでも、アレクは友達だからな。


「次は、ヴェル様ですね。」

「早くみたいな。初々しいヴェルの制服姿を。」

「ちょっと、変な事言わないで…。」


 冗談交じりにアレクがからかってくるので、顔が赤くなる。

 恥ずかしい…

 素早く着替えて、部屋に戻る。


「ヴェル。格好いいじゃないか。とてもよく似合っている。」


 アレクが褒める。


「ありがとうございます。」


 貴族風に礼をすると、様になって見えるようだ。


「シルヴィ?どうしたの?」


 シルヴィが黙り込んでいたのが、気になったので声を掛けてみた。


「い、いえ。その、とても凛々しくて格好良かったので、思わず見入ってしまいました。」


 顔を赤くしながら俯き加減に言うシルヴィ。


「そう?ありがとう。」


 まだ何か言いたげな感じだったが、よく聞き取れなかったので見つめていると、シルヴィと目が合ったが直ぐに逸らされた。

 何か変だっただろうか?と思ったが、次はシルヴィの番だから早く着替えるように言っておいた。正直な所、あまり時間がない。


「お待たせしました、如何ですか?」


 部屋に帰ってくるなり、可愛く回って恐る恐る感想を聞いてくる。

 アレクはよく似合っている。流石は僕の妹だと言っていたが、そんな事耳には入らなかった。

 目の前には天使が居たからだ。天使が、ご降臨なされていたからだ。


「天使だ、天使がご降臨なされた。」


 思わず心の声が漏れてしまったようだ。


「っ!」


 シルヴィは、俺の感想を聞いた瞬間、顔を真っ赤っかにして俯いてしまう。

 ああ、天使のお顔がお隠れになってしまった。


「顔をよく見せておくれ。我が愛しの天使よ。」


 と冗談を言ってみるが、更に顔を真っ赤にさせて『もう』と可愛く拗ねてしまう。

 まじ可愛いな、シルヴィは。超可愛い。乙女の恥じらう姿は、正に天使と言っても過言ではないだろう。


「冗談だよ。でも、すごく似合ってるのは正直な感想だよ。」

「もう、ヴェル様ったら…。お上手ですね。」


 とは言っていたが、満更でもないらしい。


「おいおい。2人共、僕を忘れてはいませんか?」


 2人見つめ合っていると、アレクが呆れ顔で答えた。

 はっとしてシルヴィと俺は、互いに視線をアレクに戻して目を逸らせてしまう。

 もう少し見つめ合っていたかったな…。


「そっ、そんな事はないよ。忘れているわけないじゃないか。アレク。」

「そうです。お兄様を忘れる筈はありませんわ。」


 2人して誤魔化そうとするが、思うように言葉が出なかった。

 『はいはい、ご馳走様』と呆れ顔で言われ、魔法学校に出発する事になった。





 馬車を走らせていると、魔法学校が見えてきた。

 外壁は2メートルはあるだろうか、レンガ造りの赤い塀が特徴的だ。学び舎は木造建築ではあるが、どことなく西洋風の趣きのある学び舎が見えてくる。そして、学び舎の奥には大きな建物が聳え立っていた。

 あれは、体育館なのであろうか?

 日本の学校にある体育館の2倍程の広さはあるだろうか。その、存在感は一際目立つ。


「あれが、魔法学校…。」


 広大な敷地、大きな建築物に驚きを隠せず呟いていた。


「そう、あれが我がアルネイ王国、王立魔法学校だ。」


 アレクが誇らしげに言う。


「大きいですね。」

「この王国が、近隣諸国の中でも最大規模だと自負している。この大陸でも魔法三大国家の一つに数えられているから、魔法への力の入れようは、目を見張るものがあるよ。」

「それはすごいですね。、今から、楽しみです。」


 などと会話をしていると、正門に到着した。早速、正門前にはクラス別けが発表されている。クラス別けを確認すると、見知った名前もあった。


 一般教養科 シルヴィア・リ・アルネイ

 一般教養科 エマ・モンシア

 魔法専攻科 カナリエ・グランネル

 特別生徒科 ヴェルナルド・フォン・グナイスト


 魔法学校、別名、貴族学校。名前の由来は、一般教養科と言うクラスがあるからなのだそうだ。

 一般教養科は、日常生活に於ける、最低限な魔法の授業と礼儀作法、算術や歴史、国語が主な授業だから、貴族や王族が入るのだそうだ。

 それに比べ、人数は少ないが、魔法専攻科は攻撃魔法、回復魔法、結界魔法の中から、自分の得意魔法を選択して授業を受ける、単位制のクラスだそうだ。だから、一般教養科の生徒数が多い事から、貴族学校と言う別名が、非公式に存在するらしい。

 シルヴィとエマは一般教養科なのはわかるけど、カナって魔法専攻科なのか。王宮筆頭魔術師の孫娘として、頑張った結果だからかな?


「アレク、シルヴィ。こっちこっち。」


 アレクとシルヴィの名前を呼んで手招きすると、周囲からの視線が集中する。

 しまったな。名前で呼ぶべきじゃなかったかな?と思いつつも、後の祭りである。


「おい。あれって、アレックス王太子殿下とシルヴィア王女殿下じゃないか?」

「じゃ、あれが龍殺しの?」

「ハァハァ。シルヴィアたん。」


 周囲からひそひそと聞こえたが、無視しといた。最後の野郎は、後でシメる。


「ヴェル様。クラスは、おわかりになりましたか?」

「うん。特別生なので1クラスしかなかったよ。今年の新入生は俺しかいないみたいだけど…。」

「流石は、ヴェル様ですね。」

「いえ、そんな事はありませんよ。それよりも、シルヴィとクラスが別れちゃいましたね。」

「寂しいですね。でも、休み時間に遊びに伺いますね。」

「俺が行きますよ。」


 カップルみたいな会話をしていると見知った2人がやってきた。


「ご機嫌麗しゅう存じます。アレックス様、シルヴィア様、ヴェル様。」

「ご機嫌麗しゅう。アレックス様、シルヴィア様、ヴェル君。」


 エマとカナだ。

 制服姿の二人が新鮮に見える。以前会った時は、お見合いの時のドレス姿、アルグレイ商会で会った時の上品な私服だったかな。

 それにしても…、シルヴィとエマ、カナとの間に火花が見えるのは、気のせいだろうか?はあ…、胃が痛い…。


「こんにちわ、エマ。カナ。」

「ご機嫌麗しく、お過ごしですね。」

「ご機嫌麗しゅう存じます。」


 シルヴィの機嫌は大丈夫かなと思ったが、まだ大丈夫そうだ。

 アレクは2人と面識があるようだ。そりゃ、そうだよね、軍務卿と王宮筆頭魔法士の孫娘達と王太子なのだから、会った事ぐらいはある筈だ。


「お二人とも、お久し振りですね。」

「ええ、お見合いの後とアルグレイ商会でお会いした時以来ですね。」

「ですね。」

「友達になった言うのに、お誘いもなかったですね…。」


 エマは少し拗ね気味に答える。

 うぐっ…。いや、ちょっと忙しくてね…。主に、引き籠るとか、引き籠るとか、引き籠るとかでね…。お見合い話から逃げる為に…。あとは、パーティーとかね。

 あれ以降、一度も会っていなかった。男爵叙任後、いろいろなパーティーに誘われ、是非にと強く誘われるものだから、断るに断れず参加していたのだった。ほんとだよ?決して忘れてたわけじゃないよ?新男爵嘘吐かない…。


「うっ、すみません。忙しかったもので…。いずれ、お誘いしますよ。」

「お待ちしておりますわ。」


 本当に誘ってよ?と期待されているような感じだった。


「ヴェル君。僕は?」

「カナもお誘いします。」

「ほんとに?楽しみに待ってるからね。」


 子供みたいに、燥ぐカナ。

 いや、可愛いんだけど、目立つからあんまり燥がないでと思ってしまう。


「ヴェル様、そろそろ式に参加しませんと遅れますよ?」


 シルヴィは、少し不機嫌気味に先を急がせる。


「ええ、そうですね。では参りましょうか。」


 エマ、カナを含む5人で校庭に向かう。

 左にシルヴィ、右にカナ、エマが寄り添う感じで一緒に歩く。

 周囲の視線が痛い…。どうしてこうなった?と思いつつ、アレクに視線を向けると、シルヴィを応援している様子だった。

 おい…。敢えてもう一度言う…、おい…。


 校庭には、既に人垣が出来ていた。

 5人でそこに並ぶと、アレクは一人で前の方に行ってしまう。

 教師陣が並ぶその隣に、数人の生徒達と横に並んでいた。

 2年であるアレクは新入生じゃないから俺達と並ばないのは分かるが、どうしてあそこにと思ったが、直ぐにシルヴィが答えた。


「アレク兄様は、生徒会の役員なので、あちらに向かわれたのです。」

「なるほど、2年で生徒会役員ですか。それは凄いですね。」


 魔法学校は5年制。通常は4年生、5年生が生徒会役員を務める筈なのだが、王太子と言う立場上、人の上に立つ経験を積まなければいけないそうだ。


「大変ですね、王族も。あれ?じゃ、シルヴィも来年辺り役員に?」

「その可能性はありますね。もし、役員になったらヴェル様も役員補佐に指名しますからね?」


 役員補佐?


「え?役員は指名制?」

「そうですね。生徒会長は選挙で決まり、その役員は会長の指名で決まるのです。役員は、その補佐をする人を1名指名出来るのです。」


 生徒会長、副会長、書記、会計、庶務が生徒会役員。

 会長が選ぶ補佐は、副会長になるので問答無用で役員になる。

 その他の役員の補佐は、準役員になるそうだ。


「つまり、シルヴィが役員になったら俺が補佐に?」

「そうですね。」

「面倒臭い…。」

「ヴェル様。あの事を忘れてはいませんか?」

「あの事?」


 シルヴィは、俺にしか聞こえないようにそっと耳打ちする。

 シルヴィの顔が近づくと胸がどきどきする。


「護衛の件です。」

「あっ、忘れてた…。」

「もう、ヴェル様ったら。」

「すみません。」


 内緒話をしているとエマとカナは面白くなさそうにしていたので、話題を振ってみる。


「そう言えば、エマとカナは寮に住むんですか?」

「いえ。私達は王都に住んでいるので、通いになりますわね。」


 エマが答え、続いてカナが説明に入る。

 この2人、連携取れ過ぎじゃね?と思う。


「王都以外から来られる方は寮住まい。元々、王都に住んでいる人は通いになるよ。だから、僕達は通い組。」

「そうか。家は、どちらの方に?」

「僕もエマも、王城近くにある貴族街に屋敷があるよ。」


 貴族街、貴族達が屋敷を構えるエリアがあり、通称貴族街だそうだ。王宮に務める貴族や、王都に別荘を持つ貴族の屋敷ある所で、身分によって住める場所が決まっているそうだ。

 この王都には、王宮周辺に貴族街、王都の南側が平民区、東側が商業区、西側が工業区、北側にはスラム街があるそうだ。


「ヴェル様の昔話を、聞いてみたいです。」


 シルヴィが興味本位で尋ね、エマもカナも頷いた。


「そうですね…。俺は小さい時から魔法の特訓ばかりしていたので、あまり思い出がないかもしれません。」

「そうですか…。」


 3人は聞いてはいけない事だったのかもと思い、俯いてしまう。


「でも、そのお陰で、カナやアレク、シルヴィ、そしてエマに出会えたから、今は良かったと思っていますよ。」


 しまったと思い、慌ててフォローすると3人に笑顔が戻った。


「ですので、皆と仲良くしてもらいたいですね。」

「「「もちろんです。」」」


 3人に共通の友達だと認識してもらえたかな?正直、3人揃うとぎすぎすして空気が重くなる。これを切っ掛けに仲良くなってもらいたいものだ。

 俺の胃が持たないから…。

 入学式の後の予定はないので、アレクを交えて昼食を摂り、5人で仲良く会話を楽しんで帰宅した。

 心なしか、シルヴィ、エマ、カナは仲良くなったように思えた。帰宅方向が同じだから一緒に帰るのだが、何故かアレクと俺を先に行かせ、少し後ろを3人が歩く。

 あまり離れると護衛の意味が無いじゃないかと思ったが、どうやら内緒話をしている様子だ。エマとカナと別れ王宮の部屋に戻るなり、アレクは上機嫌で背中を叩いて去って行った。

 シルヴィに友達が出来て嬉しかったのかもしれない。それにしても背中が痛い、少しは手加減して欲しいものだと思いつつ、今日を終えた。

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