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21    入学に必要な物

 王都に来てから一ケ月が経過した。

 アレクとシルヴィとお茶会をしたり、時折、国王陛下や女王陛下が参加するが楽しく過ごしたりした。買い物デートも何度も行った。シルヴィとだけど…。

 たまに、アレクも着いて来るけど、シルヴィは2人で楽しみたかった様子だ。

 アレクとも友達になっていた。

 魔法学校の入学式が目前にまで迫ってきたある日、入学の為の買い物にアレクとシルヴィで出掛ける事にした。


 いつものアルグレイ商会で必要な物、制服とかローブとか万年筆とか。

 そして、魔法の杖…。

 4階の貴金属売り場の一角にそれはあった。前はこんなのあったっけ?とも思ったが、見落としていたのだろう。

 アレクとシルヴィは国王陛下より、専用の杖を用意されてるみたいだった。音楽楽団の指揮者が持つ指揮棒のような杖だ。


「それで、ヴェル様。魔法の杖なのですけど。」

「うん?」

「火竜を倒した時に、赤い魔石を持っていましたよね?」


 そう言えば、宝石のような丸い球状の物があったな。あれ魔石なのか…。どうしたっけな?ああ、アイテムボックスに仕舞ってたかな。


「ああ。何か、火竜の口元から出てた、赤い丸い石の事?」

「それですわ。」


 シルヴィが屈託のない笑顔で答える。

 くう、可愛いなこんちくしょ~。


「ヴェル様は、強力な魔法が扱える魔法使い。でしたら、その火竜の魔石を使って、魔法の杖をお作りになりませんか?」

「え?できるの?」


 あの魔石で作れるんだと驚いていたが、アレクが続いて答える。


「勿論、出来るよ。僕達の杖も特別製だけど、ヴェルほどの魔法使いが、僕達のような杖では見栄えが悪いから専用のすごい杖を作ろう。」

「え?でも、お高いんじゃ?」


 魔法の杖と言ってもピンキリらしい。下は1万ジュール(日本円では1万円ってところか)の杖がいつ壊れてもいい練習用。上は数千万ジュールから数億ジュールするらしい。

 そんなに高価な杖を作れない事はないけど、お金がないとこの先心配だし…。


「心配いらないよ。父上がヴェルの為に専用の杖と専用の剣を作る費用を、出してくれているから。」

「い、いや。そんな高価な物を作るお金を頂くのは、ちょっと悪いですよ。」

「そう言うと思った。、これは、国王命令だそうだ。」


 まじで?一介の男爵に高価な魔法の杖を?しかも剣まで?いいのか?


「いや、しかし…。」

「諦めてください。ヴェル様。」


 シルヴィアが、屈託のない笑顔で顔を覗き込んでくる。その仕草に、俺の答えは決まっている。


「じゃ、ご厚意に甘えちゃおうかな。」

「そうしたまえ。」


 アレクは誇らしげに答えた。


「アレクの金じゃないだろう?」

「父上から預かって、僕が使うんだからいいじゃないか。」


 いいのか?ま、買ってくれると言うのであればいいか。

 早速、アレクは店員を呼ぶが、後ろから声を掛けられた。

 アルグレイ商会会長アルグレイさんだった。


「いらっしゃいませ。アレックス様、シルヴィア様、ヴェルナルド様。本日はどの様な物をお探しで?」

「おお、アルグレイさん。丁度いい所に。」


 この、アルグレイ商会会長のアルグレイさんは、いつもタイミングがいい。機を見るに敏感化を用いず、金の匂いに敏感な人だ。そうでなければ、こんなに大きな商会には出来ないのだろう。王宮の財務関係か、宰相になればいいのに…。


「実は、ヴェル専用の杖の製作を頼みたい。火竜の魔石を用いた豪華な杖を作って貰いたい。」

「畏まり…」

「ちょ、ちょっと、待ってください。」


 アルグレイさんが言い終わる前に、制した。


「どうされました?ヴェル様。」


 シルヴィが、慌てている俺に尋ねて来た。

 アレクが、豪華なと言うので、持つのが恥ずかしいぐらいの豪華な杖になると直感した。だから、直ぐに訂正する。


「豪華じゃなくて、実用性重視の杖にしてください。」

「こんなに凄い魔石を使用して、実用性重視でよろしいのですか?」


 アルグレイさんは、本当にそれでいいのかと尋ねる。


「ええ。俺の本業は、貴族ではなくて魔法使いです。いざという時に、使えないでは困ります。」


 と答えると納得してくれたみたいだ。


「そうですね。火竜を倒せるほどの魔法使いが、飾り重視の杖では、もしもの時にはだめですね。」

「でしょう?」


 アレクもシルヴィも呆気に取られていた。

 お前ら、俺が魔法使いだと言う事を、忘れてたな?


「凄いぞ、ヴェル。そこまで考えていたとは…。」

「流石ですね、ヴェル様。」


 2人は、目から鱗が取れた感じの尊敬の眼差しを向けている。


「2人が抜けているだけです。」

「「ひどい…」」


 などと冗談交じりに会話している最中、アルグレイさんは考え込んでいた。


「では、お3方とも、お時間を頂けますかな?」

「「「ええ。」」」


 3人同時に答えた。

 アルグレイさんは、さっとその場を後にして、急いで一人の老人を連れてきた。


「こちらは、この国一番の魔法の杖職人のロバートさんです。彼に製作を依頼します。」

「俺は、ヴェルナルド・フォン・グナイストです。どうぞ、よろしくお願いします。」

「杖職人のロバートです。こちらこそ、よそしくです。」


 挨拶を済ませ、早速本題の杖製作の為の話へと変わる。


「この火竜の魔石を使って、実用性重視の杖ですな?」

「ええ、そうです。」

「流石は、龍を屠りし者の称号をお持ちの方だ。最近の若いもんは、豪華さに目を晦ませ、杖の良し悪しも分からん者が多いのに、グナイスト男爵様はよく分かってらっしゃる。」


 ロバートさんの言葉を聞いて、アレクとシルヴィが肩を竦める。


「ええ。その様ですね。」


 と答えながら2人を見ると、『え?何の事ですか?』と目を泳がせている。


「では、手を見せてください。」

「手ですか?」


 手の平を見せながら、答える。


「そうです。杖の握り方、持つ位置、持ち手が右か左かで、作り方も変わります。」

「流石は杖職人ですね。」


 職人仕事の仕方には、目を見張るばかりだ。


「この仕事を、もう55年もやっとりますからな。杖職人として、誇りと命を懸けてやっとります。」


 長いな…。これが、職人というものか…。流石は名人、言葉の重みが違う。


「よろしくお願いします。名人。」

「これ程の魔石を扱えるなど、夢にも思っとりませなんだ。最高の逸品を造る事をお約束します。」

「ありがとうございます。」


 頭を深々と下げ、名人への敬意を払った。


「あれこそ、職人の鏡だ。」


 とぼそりと呟いたが、アレク、シルヴィ、アルグレイさんも頷いた。


「あとは…、剣か。本当にいるの?魔法学校に?」

「いるよ。魔法学校…、別名、貴族学院とも言うからね。」


 別命まであるのか…。


「…。」


 そうなのか…。貴族のご子息やご令嬢達と一緒だと思うと、嫌な予感しかしないが…。胃が痛い…。

 そして、アルグレイさんに剣の製作依頼も済ませた。

 先程と同じように、剣職人の名人を連れてきて、さっきと同じような会話になった。やはり、名人の言葉には重みがあると、改めて感心して王宮に帰っていった。


 魔法学校入学式の前日に、杖と剣が出来上がったとの連絡が来たので、早速3人で取りに行った。


「これが最高の杖に、最高の剣…。」


 まず杖だ。

 杖は樹齢数千年の最高の木材の芯を使用し重さは適度にあり、硬さはとても硬い。杖の先端部には濃い赤い色をした魔石が取り付けられ、見た感じだけで歴戦の杖を思わせる程の圧迫感を醸し出す仕上がり。右手で持っても左手で持ってもしっくり手に馴染む最高の一品だ。


 そして、剣は希少なミスリルを使用した日本刀をが出来上がっていた。本来は片手剣用の直剣の予定だったらしいが、俺の希望通りに日本刀の製作方法で丹精込めて作ってもらった。剣の柄は黒色で刀身の部分は少し青く、光輝いていた。これも適度に重く、切れ味重視の日本刀であった。


 これで、剣術でも戦えると確信した。

 アレクとシルヴィは綺麗だねとか、かっこいいねとしか言えなかったが、俺は更に説明した通りの感想を述べた。名匠2人は余程感心したのだろうか、見る目があると深く重い言葉で語り満足して帰って行った。

 アルグレイさんに代金2億ジュールを支払った。名匠2人が帰り際に俺に感心した様子でアルグレイさんに何かを言っていたようなだが、どうやら値引きを頼んでくれたそうだ。

 本当の金額は怖くて聞けなかったが、相当に高いのだろうと推測できた。その日、王宮に帰りずっと肌身離さずに大切にした。


 『それにしてもアレクもシルヴィも王族なのに見る目ねえなぁ』と思ったが、2人の名誉の為に敢えて何も言わなかった…。

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