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20    デート?

 お見合いが終わった翌日、シルヴィとの買い物に付き合う事になった俺は、王都の中心にある噴水前で待ち合わせをした。

 同じ所に住んでいるのだから、一緒に行けばいいと思ったが、シルヴィは待ち合わせして買い物に行く事に拘っていた。


「ヴェル様、お待たせしましたか?」

「いえ、丁度来た所ですよ。」


 本当は1時間も前に来ていたが、ここはこう答えるのが礼儀だろう。実は初めてのデートを楽しみにしていたのは内緒だ。

 いつものドレス姿ではなく、清楚な白のブラウスに膝丈ぐらいのスカート、ブラウンのブレザーを羽織っている。


「今日は、いつもより可愛いお召し物ですね?」

「似合いませんか?」

「いいえ。とても、よく似合ってますよ。」


 シルヴィは少し恥ずかしそうだが、心なしか嬉しそうだった。


「ヴェル様は、いつもより凛々しく見えます。」


 褒め返された。

 普段通りの服装だが、そう言ってもらえると嬉しくなるね。って言うか、服なんて2、3着ぐらいしかもっていないから恥ずかしくなる。


「では、行きましょうか?」

「はい。」


 シルヴィに案内されて、歩き出す。


「それで、何を買いに行くんです?」

「お洋服とか、小物関係を見てみたいですね。」


 シルヴィとの会話を楽しみながら、歩いているとすぐに目的地に到着した。


「ここです。王家御用達のアルグレイ商会です。」

「大きいですね。」


 アルグレイ商会、王都を中心に展開しているショッピングモールのような所だ。4階建ての大きな木造建築。王家御用達とは言っているものの、貴族や平民まで利用している複合施設だな。

 1階は主に平民、下級貴族。2階3階は、中級から上級の貴族が主に利用している。4階はと言うと、貴金属類や高価な小物、礼服などが売られている。


「この王都では、1番のお店ですね。」

「へえ…。こう言う所は、初めて来ました。」


 などと、会話をしながら入口に入ると、中年男性が手を捏ねきながら近付いてきた。


「これは、シルヴィア様。ようこそ、いらっしゃいました。」

「アルグレイさん、ご機嫌麗しゅう存じます。」

「今日は、お連れの方がいらっしゃるようですね。もしかして、ヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵様で、いらっしゃいますか?」

「ええ。そうですが、よく分かりましたね?」

「この王都では、今や伝説の人ですからね。」

「そんなに、噂が広まってるんですか?」

「アレックス様とシルヴィア様の命の恩人であり、あの火竜をお一人で退治したと言う話で、持ちきりですからね…。いつも女性のお連れの方を伴うシルヴィア様が、珍しくお連れになった男性の方なので、もしやと思いお声をお掛けさせて頂きました。」


 こいつ、見た目は冴えない中年男性に見えるが、意外と鋭いな。下手な事を言えば、あの手この手で、いろいろと買わされそうだ…。


「それは、どうも…。」

「それで、シルヴィア様。本日は、どのような物をお探しで?」


 前置きを終わらせて、早速商売の話を進める商売人だった。


「そうですね、お洋服と、小物関係を見て廻ろうかと、思っております。」

「それでしたら、丁度、最新の出来上がりの物がございますので…。如何でしょうか?」

「そうですね…。では、後程拝見させてもらいますね。今は、ヴェル様といろいろと見て廻りたいので…。お気遣い感謝します。」

「では、お待ちしております。グナイスト男爵様も後程。」


 深々と礼をし、立ち去って行く。

 いつもならシルヴィに着いて行く所らしいが、今日は俺とのデートを楽しんでいると思われているので、気を利かせて立ち去ったようだ。


「では、早速見て廻りましょうか。ヴェル様。」

「そうですね。」


 まずは2階の洋服を見て廻り、気に入った物がなかったので3階へ。


「これなんて素敵ですね。ヴェル様に、とってもお似合いですよ。」

「そうですか。ありがとうございます。じゃ、買っちゃおうかな。」


 いつの間にか俺の洋服選びになってしまっていたが、美少女に服を選んでもらうシチュエーションに、胸のどきどきが止まりません。

 いつもと違うシルヴィの服装に、いつも向けられる屈託のない笑顔に、いつもの可愛らしい仕草が眩しい。そんなシルヴィに、あれが似合う、これが似合うと言われれば、ついつい買ってしまう…。

 いつの間にか数十着の洋服を購入していた俺だが、急に我に返って、こいつアルグレイの回し者かと言うぐらい、煽てられて買ってしまった事に気付く…。

 でも…、可愛いからよしとする。可愛いは正義だ!断れる男なんていないさ。もし、断る野郎が出てきたら、ぶっ飛ばしてやる!


「何か、俺ばっかり買っちゃってすみません。」

「気にしなくていいんですよ。今日はヴェル様に、いつもより似合うお洋服を選びたかったもので。」


 え?何ですと?いつも、ださいですか?ちょっと凹む…。


「そうですか…。いつもは、ださいですからね…。」

「いえ、決してそのような事はありません。いつもヴェル様は凛々しく、眩しく見えますが、私ならもっとこう格好良くしてみたいと思ったもので。」


 やめて、そんなに褒めないで…。勘違いしちゃうよ?


「冗談ですよ。シルヴィが、いつもどんな感じで俺を見ているのか気になっただけですから。」

「もう、ヴェル様ったら!」


 シルヴィは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 う~ん、可愛いなシルヴィは。

 そんな他愛もない会話をしていると、後ろから声が掛かった。


「ヴェル君!」


 振り向くと、そこに立っていたのは、青い髪、蒼い瞳の色をした。美少女だった。その美少女に、名前を呼ばれ、抱きしめられた。


「え?誰?」

「もうっ!忘れちゃったの?カナだよ。カナリエ・グランネル。」

「ええ!?カナ!?」

「うん。そうだよ。僕を、忘れちゃった?」

「いや、忘れる筈がないじゃないか。すっごい美少女になってたから、わからなかったよ。」

「美少女って…。」


 美少女と言う響きに、カナは顔を赤く染めて、恥じらっている。


「本当に久しぶりだね。5年振りかな?元気にしてた?」

「うん。久しぶり。元気だったよ。手紙にも書いてたでしょ?」

「うん。でも、すっごいびっくりしたよ。すっごい可愛くなってるんだもん。」

「あはは。ありがと。ヴェル君もかっこよくなってるね。」

「おう。ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。」

「お世辞じゃないよ。本当の事だよ。ヴェル君は、あの時からずっとかっこいいよ。」

「お、おう。」


 カナのお世辞に、気恥ずかしくなっていると、隣で置いてけぼりになっているシルヴィが脇腹を突いてくる。


「ヴェル様。お知合いですか?」


 ちょっと…、いや、かなり機嫌が斜めなシルヴィ。

 何でよ…。


「ああ。5年前に俺が住んでいる村に、グランネル子爵が遊びに来た時に出会った子爵の孫娘のカナリエさん。」

「ちょっと、ヴェル君。カナでしょ?」

「ああ、ごめん。カナ。」

「それで?お二人は、どう言うご関係で?」

「友…「ヴェル君の婚約者です。」」


 っ!


「ちょっと、カナ。いつから、俺がカナの婚約者になったんだ!?」

「え~。僕、言ったじゃん。ヴェル君のお嫁さんになるって。」

「え?そんな事、言ってたっけ?」

「あ~。酷い!忘れてるなんて…。」

「ごめん。でも、婚約した覚えはないよ?」

「約束したじゃない。」

「そ…、だっけ?」


 婚約したっけ?いや、してない!してないぞ!嘘を吐くなよ、カナ…。


「ん?シルヴィ?どうしたの?」

「…。」

「シルヴィ?お~い、シルヴィ?」

「…。」


 返事はなかった。何やら、ショックを受けている様子だった。

 何でよ?


「ヴェル様。」

「ん?」


 カナともう一人、美少女が傍にいた。

 腰まであろう長い金髪に、見事な双丘を胸に持つ美少女。エマだった。


「エマ?」

「はい。ヴェル様。」

「此処で、どうしたの?」

「カナさんとお買い物ですわ。」

「そっか。二人は、幼馴染だったね。」

「はい。ヴェル様。」


 エマと会話をしていると、カナが割って入ってくる。


「ヴェル君はエマとお知合い?」

「ん?昨日、ちょっとね…。」

「お見合い致しましたの。」


 ちょっ、エマ。カナに言うの?それ?


「…え?本当に?」

「はい。昨日、お爺様の勧めで、お見合いをさせて頂きました。」

「ちょっと、エマ。聞いてないよ。」

「言いそびれてしまって…。申し訳ございません。」

「ヴェル君は、エマとけっ、結婚するの?」

「まだ、結婚するとか決まったわけじゃないのでしませんよ。」

「そうですわ。まずはお互いを知る為に、お友達からと言う話ですわ。」

「そっ、そっか…。友達か…。」


 カナも何やらショックを受けているようだった。

 だから、何でよ?シルヴィといい、カナといい、何がダメなのよ?


「それで?ヴェル様は、此処で何をなさっているのですか?」

「えっと…、シルヴィと…、シルヴィア王女殿下と買い物を…。」


 そう言うと、カナもエマも俺の傍にいたシルヴィに、視線を向ける。


「シルヴィア様。ご機嫌麗しゅう存じます。」

「こんにちわ。、シルヴィア様。」

「ご機嫌麗しゅう存じます、エマさん、カナリエさん。」


 よかった。シルヴィが帰って来た。…でも、微妙に顔が引き攣っている気がするのは、気のせいだろうか?


「本日はデートですか?ヴェル様。」


 エマが尋ねてきた。

 いや、だから買い物だって…。いや、デート?なのか?


「ええ。いつもお世話になっているシルヴィア様のお買い物にお付き合いしているのです。」


 シルヴィに視線を向けると若干怒っている気がした。

 何だろう?


「いやですわ、ヴェル様。いつものように、シルヴィとお呼び捨てにして下さいな。」

「…はい。シルヴィ。」


 呼び捨てにしないと不味い気がした。あの屈託のない笑顔のシルヴィの笑顔が怖かった。


「だから、声を掛けるのはやめましょうって言ったのに、カナさんったら。」

「だって、やっとヴェル君に会えたんだもん。」

「エマさん、カナリエさんも、お気になさらずに。」


 何だか、3人が駆け引きしているような気さえしてきた。正直、居心地が悪い…。


「いえ。お邪魔なようですので、これで失礼致します。ヴェル様、ご機嫌よう。」

「ヴェル君。また会おうね。」

「ええ、ご機嫌よう…。」

「絶対だからね?」

「うん。」

「絶対の絶対だからね?」

「わかったから。」


 長くなりそうだったから、制しておいた。それよりも…、シルヴィの視線が痛い。


「シルヴィア様も、ご機嫌よう。」

「ご機嫌よう、シルヴィア様。」

「ご機嫌よう、エマさん、カナリエさん。」


 2人が立ち去って、重い空気が漂う。


「えっと…、シルヴィアさん?」

「シ・ル・ヴィ!」

「はい。シルヴィ。」


 すんげえ怖かった。まじっぱねぇっすよ、シルヴィさん…。


「あの…、機嫌悪くないですか?シルヴィ。」

「別に!悪くなってないですよ!ヴェル様。」


 悪くなってるじゃないか…。さて、困った。さっきまでの楽しかった空気が、何処へやら…。話題を変えよう。


「えっと、シルヴィ。今日、俺の服を選んでもらった事への、お礼を何かさせて下さい。」

「そんな事じゃ誤魔化されませんよ?」


 意外と根に持つな…、シルヴィ。


「いえ。いつもお世話になっているシルヴィに、とても大切な存在のシルヴィに贈りたい物があるんですよ。」

「本当ですか!?」

「ええ。では行きましょうか。」


 急に明るくなり、いつもの屈託のない笑顔になったシルヴィ。

 よかった…。お世辞でも言ってよかったと思う…。

 そう思いつつ4階へ向かう。


「あのヴェル様。此処は…。」

「貴金属売り場ですね。」


 ここは4階、貴金属売り場。

 結構、高級な物ばかり置いてあるフロアだ。

 ショーケースを色々と見て廻り、良さそうな物を見つけた。


「あの…、すみません。これは?」


 店員を呼んで商品の説明を聞いてみる。


「いらっしゃいませ。こちらは、貴族様方が婚約にお使いになる指輪ですね。その中でも、こちらの指輪の宝石部分は魔石で出来ており、魔力を充電しますと濃い赤い色を発して、装備される方に魔力を供給できる指輪となっております。主に魔法使いの方への贈り物等に使われますね。」


 豪華な装飾と、小指程の黒い宝石の様な物が取り付けられた指輪だった。


「ほう。魔力を、充電できるんですね。」

「ええ。充電式になっておりますので、平常時は魔力を充電して、非常の際に魔力を供給できる指輪ですね。その分、お値段の方もお高くなっておりますが。」

「おいくらです?」

「こちらは3千万ジュールです。」


 高っけ!まじで?しかし、これぐらいの物を贈れば、シルヴィも喜んでくれるだろう。いや、贈らないといけない気がしたので贈ろうと思う。


「では、これを頂けますか?」

「畏まりました。」


 店員が丁重に高そうな木箱に入れ、包装する。


「ヴェル様。このような高価な物を、頂けません。」


 あまりにも高価な指輪を前に、シルヴィは唖然としていたが、急に我に返り断ろうとする。


「いいえ。俺達は、恋人同士ではありませんが、今日のお礼と先ほどのお詫びに、シルヴィに贈ります。」

「しかし、高価過ぎます。」

「俺の気持ちだと思って、是非受け取って下さい。」


 終始、困惑気味だったシルヴィもどうしていいか分からずにいたが、代金を払い商品を受け取った俺を見て、渋々受け取ったようだ。


「ありがとうございます。一生の宝物に致しますね。」


 シルヴィは指輪を受け取ると、両手で抱き抱えるように胸元に引き寄せて、精一杯の気持ちを込めて感謝した。

 今日のデートは少々のトラブル?はあったが、満面の笑みを浮かべていたシルヴィを見ていると、今日のデートは成功したと確信した。

 翌日から、シルヴィの左手の薬指には、俺から受け取った指輪を付けていた。時折、うっとりとした表情で左手の薬指に嵌まっている指輪を見つめていた。

 何で、左手の薬指かは謎だったが…。半ば強引に受け取らせたが、気に入ってくれてよかったと胸を撫で降ろした。

 アレクには、よくやったと背中を思いっきり叩かれて背中も出費も痛かったが、シルヴィの笑顔を見てまあいいかと思えた。

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