19 お見合い
謁見や縁談の話が終わってから部屋に戻ってきた。俺はベッドに前のめりに倒れ込んでいたが、アレクとシルヴィが部屋に入ってきた。
「酷いじゃないか、ヴェル。僕達を置いて行くなんて。」
アレクは苦笑しながら言った。
それはそうだろう。アレクが伝説を語るように、俺が如何にすごいかを力説した後に、縁談話。
「恨みますよ?アレク様…」
「貴族なんてものは、所詮こんなものだから…」
アレクは申し訳なさそうに言う。
「それで、ヴェル様はお見合い話を受けるんですのね?」
少し不機嫌そうに、シルヴィが言う。
何で、機嫌悪いのよ?
「いや、会うだけと言う話ですから…。」
「会いますのね?」
心なしか、不機嫌さが増したような。
アレクは、俺とシルヴィの会話を興味深そうに聞いている。
「あの話の流れで、会うと言わないと、帰してくれそうになかったもので…。」
「…。」
ぷいっとそっぽを向いて、シルヴィは黙り込んでしまう。
何が、だめなんだろうか…。
「まあ、良いじゃないか。それよりも男爵位に叙任おめでとう。」
アレクが見るに見かねて、話を逸らしてきた。
「それも嬉しくは…、ないんですが?」
「これで、僕達の護衛に何の不都合もなくなったね。」
ん?護衛?そう言えば、そんな話もしてたな。
「本気ですか?」
「勿論、本気さ。」
「…これも乗りかかった船。最後まで面倒を見る…、わけには行きませんが、学校を卒業するまでなら、お引き受けましょう。」
「まあ、それで手を打つとしようか。」
魔法学校卒業までの条件付きで、護衛の任を請け負う事にした。
「卒業してからは、自分達で何とかして下さいよ?」
「ああ、分かった。」
「絶対ですよ?」
「善処しよう。」
念を押しておいたが、えらく曖昧な答えで不安だったが、今はそれでいいかと思った。
一週間後、お見合いの話は唐突にやってきた。
正直、忘れてたよ…。
貴族がよく使う庭園付きのレストランに案内されて、一人の少女を紹介された。
「お初にお目に掛かります、グナイスト男爵様。私はエマと申します。マルクス・モンシア伯爵の孫娘ですわ。よろしくお願い致しますわ。」
腰まであろう長い金髪に、Eカップはあろうかという巨乳を揺らしながら挨拶する美少女だ。
やばい…、俺の好みのタイプだ。それにしても、あの胸は何だ!?たぷんたぷんと揺れているぞ!?こいつ、本当に10歳なのか!?10歳にしては、すごい発育が良過ぎる。俺の視線がロックオンだ。
その他にも、物腰は優雅で、優し気な表情が印象的だ。
「ヴェルナルド・フォン・グナイストです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
自己紹介を終わらせた後、モンシア伯爵の孫娘話が続く。要は、自慢話だ。
自分の自慢話を聞いているのに、このエマって子は、終始笑顔を崩さなかった。いや、少し恥ずかしいのを我慢している風にも、見て取れるか…。
3人で食事を終えた後、お決まりの『では、後は若い方達に任せて…。』と言われ、2人で庭園を散策する事になった。
「「…。」」
くっ!沈黙が痛い。
「あの、グナイスト男爵様?」
「はい、何でしょうか?」
「そう緊張されなくても、よろしいのですわよ?」
何を話せばいいか迷っていた所に、エマが言う。
「お見合いは初めてですか?グナイスト男爵様。」
「ええ。お見合いなどした事もありませんし、この様な堅苦しい所も苦手でして…。」
エマは『まあ』とかるく笑う。
「申し訳ありません。何を話せばいいのか、分からないのです。」
「深く考える事はありませんわ。私も、お見合いは初めてですので。」
意外だった。
伯爵の孫娘ならお見合い話など、引く手数多だろうに。
「そうなのですか?」
「ええ。お見合い話は、お爺様がすべて断ってくれていましたので、まだ一度もした事がなくて緊張していますわ。」
まじで?じゃ、何で俺にお見合い話を薦めて来たんだ…。
「グナイスト男爵様、普通にお話をされても、よろしいのですよ?」
「そうさせてもらいます。堅苦しいと、どうも調子が…」
俺は苦笑していった。その様子を、笑顔で見つめてくるエマ。
うう、恥ずかしい…。
「では、ヴェルナルド様とお呼びしても、よろしいですか?私の事は、エマとお呼びくださませ。」
「はい。エマさん。」
「いいえ、ヴェルナルド様。エマと呼び捨てにして下さい。」
「え?はい。じゃ、俺の事は、ヴェルと呼んでください。」
「はい。ヴェル様。」
ぐはっ!自分で言ってて何だが、美少女にヴェル様と呼ばれて、ダメージを受けていた。何だ、この破壊力は…。
「どうかされましたの?ヴェル様。」
ぐはっ!頑張れ~、俺の精神力。頑張れ~。
「いっ、いえ。こんなにも可愛らしい女性から、ヴェル様と呼ばれて気恥ずかしかったものですから…。」
「まあ、可愛らしいだなんて…。」
おぃぃいぃぃぃ!そこで、顔を赤く染めないで…。惚れちゃう…。惚れちゃうよ~。
「カナさんの方が、可愛らしいですわよ?」
ん?カナ?何でカナが出てくるの?
「カナを、知っているんですか?」
「ええ。私とカナさんは、幼馴染ですの。」
カナの幼馴染か…。なるほど、それでカナが出てきたか。カナの手紙には、そんな事、一言も書いてなかったな。
「そうでしたか。カナは元気にしていますか?」
「はい。もう、ヴェル君がヴェル君がと五月蠅いぐらいに…。」
何で、俺の名前が出てくるのよ?まあ、いいけど…。カナ…、変な事言ってないよな?
「そっ、そうですか。」
「ええ。お会いには、なられていませんの?」
「まだ、会っていませんね。色々と忙しかったものですから…。」
嘘です。引き籠ってました。部屋から出ると、いろんな人からお見合い話がくるから、引き籠ってました。
「それは、残念ですわね。カナさんは、お会いするのを楽しみにしていますわよ?」
「わかりました。時間を作って、会いに行こうと思います。」
そうだな。ずっと会っていなかったんだ。カナの成長ぶりを見に行かなきゃな。魔法使いとして、どこまで腕を上げたか、楽しみだ。それに…、どんな美少女に成長したかも、見てみたいしな。
カナの話で、緊張していたのが緩む。そして、緩んでくると、ふと疑問が頭を過る。
「そう言えば、モンシア伯爵様は、エマのお見合い話を断っているのに、何で俺に縁談を?」
「お爺様は、是非ものにして来いと、強く言われてきましたわ。」
「え?」
だから、何でよ…。
「エマは、結婚したくないのでは?」
「結婚をしたくないわけではありませんわ。」
エマは、結婚願望がないわけではないらしい。
「政略結婚に使われるなら、せめて好みの男性としたいですわね。」
「そうですか。なら、俺はエマのお眼鏡には、叶いそうにありませんね。」
やんわりとお見合い話を断る方向に持って行こうとした。
「いいえ、そんな事は御座いませんわ。ヴェル様さえよろしければ、正式に結婚の申し出をさせて頂きたいですわ。」
美少女に求婚を迫られて、嬉しくない筈がない。しかし、ここで結婚の約束をしてしまうと、モンシア伯爵の思惑通りに事が運んでしまうし、グランネル子爵からは冷たい視線が突き刺さりそうだ。まさに、板挟み状態…。
近い将来、必ず囲い込まれて、利権争いに巻き込まれる事になるだろう。あれ?何だろう?急に、胃が痛みだしたぞ…。後で、治癒魔法でも掛けておくか…。
「いや、まだ結婚は早いので…」
「私が、お嫌ですか?」
言い終わる前に制された。
よく見ると、エマは少し震え、涙目になっていた。
「いえ。好きとか嫌いとかではなくてですね。結婚するのも早いし、結婚するならちゃんと恋愛をして、お互いの事を理解してからだと思うのです。ですから、今は友達と言う事で…。」
えらい言い訳じみていたが、エマは『ぱあっ』と笑顔を取り戻し、今はそれで良いと納得してくれたようだ。
その日のお見合いは、これで幕を閉じた。
王宮に帰ってアレクとシルヴィに、お見合いの件を聞かれて全て話すと、シルヴィは急に不機嫌になって、暫くは口を聞いてくれなかった。
なんでやねん!
シルヴィの機嫌を直す為に、あれこれと言い訳をし、買い物に付き合うと言う約束をして、漸く機嫌を直してくれた。
これって、デート?デートだよね?ドキドキが止まらないよ…。