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18    褒美

 王都に到着するとすぐに王宮に招待された。


「こちらで、お待ちください。」


 使用人に言われ、待つ事にした。室内は何て言ったらいいか…、豪華絢爛が正にしっくりくる部屋だ。畳にして30畳はあろうか。隣にも大きな部屋があり、バルコニー、広めの寝室、トイレに大きな風呂場まである。

 ロイヤルスウィートっぽいな。そりゃそうだ。国賓用だもの…。元日本人(庶民)の俺には落ち着かない部屋だ。

 ちなみに、アレックスとシルヴィは報告があると言って、早々に立ち去ってしまった。だから、余計にアウェー感が半端なく感じる。


 (タチケテ)


 泣きそうになった時、扉からノックの音が聞こえきた。『どうぞ』と答えるとアレクとシルヴィが入ってきた。


「父上が会いたいそうだ。さ、行こう。」


 とアレクが言う。

 まじか…王都に来て、いきなり国のトップに会うなど、村に居た時には考えもしなかったな。


「ええ。しかし、俺は作法に疎いので正直、失礼をしないか不安です。」


 魔法の勉強や剣の修行しかしてこなかった俺には、礼儀作法など皆無だった。


「気にする事はないさ。父上は気さくな方だからな。最低限の礼儀さえ、守ってくれたら大丈夫。」

「最低限の礼儀も…、あるかどうか…。」

「ふふ、大丈夫ですよヴェル様。」


 アレクとシルヴィは笑っていた。シルヴィは、いつの間にかヴェルナルド様からヴェル様と敬称が変わっていた。

 いや、美少女に親しく呼ばれるのは、嫌いじゃないさ。寧ろ光栄に思うよ。しかし、王女殿下から、そう呼ばれると恐縮しちゃう。

 アレクとシルヴィに案内されて、謁見の間に到着。


「お初に、お目に掛かります。ヴェルナルド・フォン・グナイストです。」


 膝を着き、頭を垂れて挨拶をする。


「そう、畏まれるな。お立ちなさい。」

「はっ。」


 立ち上がると、国王陛下と目が合う。

 目鼻立ちが整い、若かりし頃はイケメンだったであろう面影を感じさせる。

 髪の色は、アレクとシルヴィと同じ銀髪で、肩まで伸びた髪にウェーブが掛かっていた。


「其方は、王国に害なす火竜を倒し、我が子、アレックスとシルヴィアを助けた命の恩人なのだ。跪かせるわけにはゆくまい。」

「しかし、私は陛下の臣である父セドリックの子、親の仕える主に対して、跪かないというわけには…」

「よいのだ。此度、火竜を打ち倒した功績、そして我が子等を救ってくれた事、感謝している。」


 そう言って、国王陛下は感謝の意を表した。


「火竜を倒せたのは、たまたま運がよかっただけです。」

「其方は、謙虚なのだな。」

「いえ、事実を言ったまでに過ぎません。」


 事実だ…。そして、これは夢なのだ…。そう、ゆめなのだ…。ユメなのだ…。早く帰りたい…。

 そう思っていると…、


「ふむ。ならば、そういう事にしておいて、其方に褒美を取らせる。」

「はっ。」


 受け取る以外に選択肢はなさそうだ。


「アンドリュー・ジ・アルネイの名の元に、其の方、ヴェルナルド・フォン・グナイストを男爵位に叙任する。」

「え?」


 何ですと?男爵ですと?まじですか?父様より、爵位上になってませんか?聞き間違いじゃないよね?芋とかじゃないよね?


「続いて、龍を屠りし者の称号と10億ジュールを授ける。」


 更に褒美が続いた!?それにしても、龍を屠りし者ってちょっと格好いいかもって思ったけど、中二病臭いな。


「いや、しかし…」

「受け取るがよい。」


 いや、待て。そうなると可笑しな事に…。


「しかし、陛下。父は騎士爵位であり、私はまだ、騎士爵位を父から受け継いでいないのですが…。」


 騎士爵位を継いでいないのに男爵位を受け取ってしまうと、相続がややこしくなる。


「其方には、弟がいるではないか。弟が騎士爵位を継ぎ、其方は男爵位を新たに受ければよい。つまりは、父であるグナイスト家の籍を抜け、其方が新男爵家の発起人となればよい。」


 笑顔だったが、断る事は許可しないとばかりに威圧されていた。


「…謹んで、お受けします…。」


 無言の圧力に負けた。

 いや、これは勝てる勝てないの問題ではない。有無を言わさぬ感じだ。


「これで、正式に其方は貴族になったわけではあるが、まだ未成年。未成年に貴族の義務を押し付けるは忍びない。今後は、好きに活動するがよい。」

「…ご配慮、ありがとうございます。」


 貴族になったら義務が発生する。平時は国の仕事を行い、戦争になったら戦わないといけなくなる。


「成人しても、働きたいと言うまでは職務を与えない事にする。其方は、まだ子供。やりたい事、学びたい事も多かろう。」


 そう、その為に王都に来たのだ。正直、夢もある。師匠の研究している魔法を完成させて、冒険者になって世界を旅して廻りたいのだ。あの村で、生涯を終える気はないのだ。騎士爵は、弟に譲って好きに生きようと思っていたのに…。まさか、男爵になってしまうとは…。


「はい。やりたい事はあります。」

「ほう?それは何じゃ?」

「冒険者になりたいのです。」

「冒険者か、其方は強力な魔法が扱える魔法士。きっと、歴史にその名を残せる魔法士になれるだろう。」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。陛下。」

「では、冒険者を辞めるまで好きにするがよい。」

「はっ。」


 え?冒険者を辞めるまで?辞めたら貴族の仕事が待っているの?なら、俺の答えは決まっている。死ぬまで冒険者を辞めない!貴族には、利権争いがあるだろう。それに、巻き込まれたくはないしな。魔法の研究も、やりたいし…。やる事が、多すぎるな。


「時に、其方は魔法学校に入学するのだそうだな?」

「はい。魔法学校に入学する為に、王都に向かっておりました。」

「なるほどの。では、魔法学校特別生としての、入学を許可する。」

「え?」


 まじで?ほんとに?いいの?特別生…、学費、寮費が免除される。そして、それだけではない。魔法を研究する為の施設を、使いたい放題なのだ。


「其方の場合、学費、寮費の免除。魔法研究の為の、施設無料貸し出しだけではない。強力な魔法も行使できる。したがって、授業の出席の免除、専用の研究室も与える。」


 まじか!?よしっ!俄然、やる気が出てきた。


「本当ですか?」

「うむ。」

「ありがとうございます。」


 小さくガッツポーズ。

 ふと、視線に気付いて気配を追うと、視線の先にはアレクとシルヴィが笑っていた。

 どうやら、ガッツポーズを見られていたらしい。うう、恥ずかしい。


 陛下との謁見を終えて、アレク、シルヴィと共に謁見の間から退室すると、好奇心を抑えられない方々に周囲を取り囲まれた。

 聞けば、王宮の魔法士達やら、軍の最高責任者と名乗る人達だった。火竜に、どう立ち向かい、どんな魔法を使って、勝利したのか聞いてくる。

 突然の事に言葉を失っていると、アレクが助け舟を出してくれた。アレクは、火竜との一部始終を雄弁に、そして伝説を語るように答えていた。

 止めろって、恥ずかしい。


「巨大な岩を龍に叩きつけ、勝利を確信した直後に倒れ込んでこう叫んだ!『やってやったぞ!こんちくしょー!』」


 周囲に笑いが巻き起こる。

 うぅ…恥ずかしい。自分の行いが、全て暴露された感じだ。早く、部屋に帰りたい…。


「ヴェルナルド男爵は、今、お幾つなのですかな?」


 軍の最高責任者らしき男に尋ねられた。


「今年で10歳になります。」

「その歳で、火竜を倒せる実力をお持ちとか、将来が末恐ろしいですな。」


 周囲の人達からウンウンと頷かれたり、羨望の眼差しで見られていた。


「あれは…、たまたま倒せただけですから…。」

「いやはや、謙遜なされるな。それほどの偉業を成し遂げられたのですぞ。」


 今度は王宮筆頭魔術師らしい人が言う。

 …子爵!?グランネル子爵か!?


「グランネル子爵。ご無沙汰しております。」

「うむ。久しいな。ヴェルナルド殿。」


 本当に、久し振りだった。何年ぶりだろう?5歳の時だから、あと少しで5年振りだったか。それにしても、殿って…。子爵様に殿付けで呼ばれると、何だかなあと思っちゃうな。


「殿って…。ちょっと気恥ずかしいですね。」

「まあ、よいではないか。父を超えた気分は、どうじゃ?」

「超えたって…。まだまだですよ。剣術は、まだ足元にも及びません。」

「ほっほっほっ。セドリック卿も、簡単には超えられては堪らないのだろう。」


 そんなものなのだろうか?そう…、かもしれないな。剣術の修行の時でも、後半は必死だった気がするし、そうかもしれないな。


「ですかね?」

「優秀な子を持つ、父の悩みじゃて。」

「あはは…。」


 苦笑している俺に、割って入ってくる人がいた。


「グランネル子爵。」


 見た感じ、老人としては若すぎる。中年としては年を取り過ぎているような年代の人だった。


「これは、モンシア伯爵。」


 中老人?らしき人はモンシア伯爵と呼ばれている。

 伯爵様か、子爵様より一つ上の爵位の人だ。


「グネイスト新男爵殿とお知り合いかね?」

「ええ。我が友、セドリック・フォン・グナイスト卿の嫡子、おっと、もう嫡子ではなくなりましたな。ヴェルナルド・フォン・グナイスト新男爵殿とは5年前に知り合いましてな。」

「なるほど…。王宮筆頭魔法士殿としても、実にいい出会いですな。」

「そうですな。我が孫娘カナリエも、ヴェルナルド新男爵殿と出会ってからというもの、魔法の勉強に余念がないですな。」


 カナか…。元気にしているだろうか?手紙ではよくやり取りをしていたけど、あれ以来、会っていないな。きっと、ものすごい美少女に成長しているだろう。会うのが楽しみだ。


「ほお…。あの、カナリエ嬢がか。なるほど、なるほど。それは、よい出会いですな。」

「ええ。誠に…。」

「時に、ヴェルナルド殿?」

「え?あっ、はい。伯爵様。」


 おっと、カナの事を考えていると話題を振られちゃったよ。


「時に、ヴェルナルド新男爵殿は、男爵位を叙任されてばかり…。これから、色々と必要な物が出てくるでしょう。ヴェルナルド新男爵殿は、10歳。某の孫娘のエマも、丁度10歳になります。これも何かの縁、結婚を考えてはみませんか?」


 なん…、だと?結婚ですと?俺、まだ10ですよ?ちょっと、早いんじゃないですかね?


「結婚…、ですか?」

「そうじゃ。我が孫娘のエマは器量よしの愛くるしい美少女じゃ。目の中に入れても痛くも痒くもない、自慢の孫娘。どうじゃ?」


 にししと笑顔を見せるモンシア伯爵。…黒い笑顔だった。笑顔が怖かった。

 どうじゃって…。

 モンシア伯爵のその笑顔から見て取れる、政略結婚のきな臭い香りがぷんぷんと漂う。

 これが…、貴族の駆け引きか…。怖い…。

 どうすればいいか、分からずに困ってグランネル子爵を見えると、全身が凍り付いた。

 何だ…、その目は…。『お主、わかっておるじゃろうのう?受けるなよ?受けたら、どうなるかわかっておるのか?』と言いたげな冷たい視線だった。

 なんでやねん!?俺、何もしてないよ?本当に、何も悪い事なんてしてないよ…。


「あっ、あはは…。俺、コホン。私は、まだ10歳ですので、結婚とかそう言う話は、ちょっと…。」

「何じゃと!?儂の孫娘が不服と申すのか?」


 今度は、モンシア伯爵からの怒気を含んだ冷たい目…。俺に、どうしろと?


「いっ、いえ。まだ、お会いした事もない方ですし、伯爵様のお孫様であるエマ嬢も困惑されるのではと思いまして…。」

「何じゃ、そんな事か。それには、及ばんよ。会うだけでも、どうじゃな?優良物件じゃぞ?」


 いや、優良物件って…。あんたの孫娘なんだろ?目に入れても痛くも痒くもないって言ってた程、可愛がっている孫娘なんじゃないの?いいの?孫娘の気持ちを考えなくて?


「さあ、返答は如何に?さあさあ、今決めよ!直ぐに決めよ!」


 返答を催促するかの如く、攻めてくるモンシア伯爵。それに対して、冷たい目をしたグランネル子爵。

 だから、俺にどうしろと!?何かあるなら止めてくれよと思ったが、伯爵の言う事に、子爵が文句を言えないかと納得した。


「いっ、いや…。でも…。」

「あ゛!?聞こえんのう?」


 あ゛って…。母様以外に、初めて聞いたよ…。仮にも、伯爵様でしょ?もっとお上品に言えんのか!?


「わかりました。わかりましたから、会うだけなら会いますから…。」

「そうか、そうか。しかと言質は取ったぞ?」

「あっ、はい…。」


 負けました。歴戦の猛者を思わせる戦士の鋭い目をしたご老人?に、実戦経験の少ないひよっ子が勝てる筈もない。


「それでは、直ぐに日和を決めて、伝えにくるぞ。」


 そう、言い残して、モンシア伯爵は消えて行った。


「…。」


 俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。


「ヴェルナルド新男爵…。」


 俺の名前を呼びつつ、がっしりとした手で俺の肩に手を乗せるグランネル子爵様。

 忘れてた…。この人の存在を…。


「どう…、言う…、事かね?」

「いや、どうもこうもないですよ。嫌なら、止めて下さいよ。」

「貴様…。カナを悲しませる気か?」


 そこで、何でカナが出てくるのよ?それにカナ・・かな・・しませるって、上手い事言うね…。座布団一枚あげよう。…そんな場合じゃないな。この人の眼は…、本気だ。


「カナが、どうかしましたか?」

「うぐっ。何でもないわい!」


 そう言って、グランネル子爵は俺の背中に、全力の張り手を叩きつけて消えて行った。

 痛いよ…。


 伯爵と子爵の2人が消えて行った後、これ以上に縁談の話が来てもかなわないので、足早に部屋に戻った。いや、引き籠った。

 貴族って怖いと思う。ガクブル…。






「あの、ヴェルナルド男爵様…。」

「え?」


 いつの間にか、女性が部屋にいた。

 いや、初めからいたのか…。疲れ過ぎていて、気付かなかったらしい…。


「誰でしょうか?」

「私は、ヴェルナルド男爵様付のメイド。ルチルと申します。以後、何かありましたら、何でもお声をお掛け下さいませ。」


 そう言えば、服装がメイド服だな…。紺の足首まである、ひらひらとしたスカートに、腰にはリボン結びをした白い帯。簡素ではあるが上品なメイド服だった。流石は王宮のメイドと言ったところか。

 それにしても…、身長低っ!?俺とあんまり変わらない気がする。この人、幾つだ?俺よりも、少し身長は高いようだが、それでも平均的な身長より低い気がする。

 ん?何て言った?俺好き?いうや、違うな…。俺付き?俺、専用のメイドさんか…。何かいいな、それ…。


「こちらこそ、ヴェルナルド・フォン・グナイストです。よろしくお願いします。」


 俺が自己紹介をしたら少し、驚いてから笑われてしまった。何か、変だっただろうか?


「失礼致しました。いえ、知っております。私はメイド…。メイドに、丁寧な挨拶をされるものですから、少々面を喰らってしまいまして…。お許しを…。」


 俺に見られている事に気付き、謝ってきた。


「いえ、こう言う事は慣れていませんので…。それに、こんなに可愛いメイドさんに付いてもらえて光栄です。」

「まあ、ヴェルナルド男爵様はお口がお上手ですね。それでは、何か御用がありましたら、いつでもお呼び下さい。失礼致します。」


 勿論、お世辞だ…。

 決して美人ではない。見た感じ普通だったが、可愛らしさが感じられたからだ。


「はい。」


 返事を返すと、ルチルは部屋から退室していった。

 あれが、本物のメイドか…。思わず、クーリエと比較してしまった。クーリエは生まれた頃から知っているから、メイドと言うよりも家族に思えるから、本物のメイドを見た俺は感動してしまった。

 ルチルさん…、頼んだら『美味しくな~れ、美味しくな~れ、萌え萌え~キュン』とかやってくれるんだろうか?…いや…、それはないな…。でも…、やってくれたら、きっと似合うんだろうなと、思ってベッドに突っ伏した…。

 もう、疲れたよ…。

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