表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/125

17    巻き込まれる

 馬車を走らせ、王都までの長い道のりを、野宿したり、村や町で宿に泊まりながら移動した。

 王都までは1ヶ月程掛かるが、初めて村の外を出て旅をする。

 心は、ドキドキとワクワクで一杯だ。

 始めてみる風景、初めて会う人々がやけに新鮮で、半月はすぐに経過した。


「さて、この大森林を超えて、あと半月もすれば王都か…。」


 目の前に広がる大森林。パクセ大森林と言うらしいが、魔物も少なからず出る難所らしい。普通は大森林を越える際、冒険者を何人か雇って越えるらしいが、今の俺には1人でも行けるだろう。

 そう思って冒険者を雇わなかった。

 そう言えば、前の町で『冒険者を雇ったほうがいい』と言われていたが断った。お金は少なからず持っていたが、両親が渡してくれた大切なお金だ。節約した方がいいだろうと、考えたからだ。

 理由は、それだけじゃないが、今の俺の戦闘力をあまり他の人に見せたくはなかったからだ。

 魔獣が何度か出てきたが、ゴブリンやオーク程度だし、余裕でねじ伏せて先に進んだ。まあ、オークはともかくゴブリンはE級の冒険者でも倒せるし、オークは力任せの頭の悪い魔獣だから、余裕だった。

 そんなこんなで、パクセ大森林の中ほどまで指しかかった所で、前方の方から大きなうねり声が聞こえてきた。

 何だろう?と思い、馬車を走らせ、絶句した。

 辺りは、激しい炎に包まれていた。身の危険を感じて、馬車を戻して停止させる。周囲をよく観察しながら、歩き出した。

 目の前の木々は燃え、ばちばちと音を立てて火の粉を撒き散らす。

 あれに当たれば、火傷しそうだ。

 後方に飛び退いて回避すると、目の前に巨大な生物が現れた。30メートルはあろうその巨体に驚きつつ、顔を見上げた。全身は赤く、分厚そうな鱗を身に纏った龍だった。

 唖然とその顔を見ていた時、龍と目が合った。


「グオォォォォォォン!」


 その瞬間、轟音を発しながら、その鋭い眼差しで威圧してくる。直ぐ様、身構えると、龍のその口から、今にも火炎を浴びせ掛けようとする。

 あんな火炎をまともに喰らえば、一溜りもないと直感した。


「氷のアイスウォール!」


 咄嗟に、全力で分厚い氷の壁を作り出し、防御した。


「くっ。やるしかないのか!?」


 戦闘は避けられないと判断し、『肉体強化』を使い、龍に反撃を開始する。


氷柱砲弾アイシクルシェル!」


 龍の顔面を狙って、氷の塊を放った。しかし、龍はなんなくそれを回避。続いて、龍の反撃がくる。強固な鱗に覆われた尻尾が、目の前に迫りくる。


「土のアースウォール!」


 強固な土の壁を作り出し、防御に回る。しかし、龍の尻尾は土の壁を破壊して、俺目掛けて飛んでくる。


「ぐはっ!」


 土の壁で威力を抑えたとはいえ、尻尾の破壊力は凄まじく直撃する。俺は、後方に弾き飛ばされ転がった。

 15メートルは飛んだだろうか、生きてるのが不思議なくらいだ。肋骨の2本は折れたのだろう。激痛が、体を走り抜ける。


「く、かはっ!」


 口からは、少量の血を吐き、眩暈がする。それと同時に、激しい怒りが沸き上がってくる。


「この野郎っ!舐めやがって!魔力増大マジックブースト!」


 激しい怒りと共に『魔力増大』魔術を発動した。全身から魔力が溢れ出し、反撃を開始する。


極寒エクストリームコールド!」


 水属性広域冷却魔法をお見舞いする。龍の足から胴体を凍り付かせて、動きを鈍らせる。胴体が凍り付いた龍は、グオォォォォォォンと悲鳴をあげる。


「光のホーリーランス!」


 悲鳴をあげている火竜の隙を突いて、魔力を込めて発動した巨大な光の槍を放ち、龍を串刺しにする。


「グオォォオォォオン」


 龍の悲鳴にも似た叫び声が、響き渡る。

 まだ生きてるのか、タフだな…


岩石落下ロックフォール!」


 両手を掲げ、全力で魔力を込め魔法を発動する。龍の上空に、巨大な岩石が一瞬でできあがり、両手を振り下ろす。


 ○空がフ○ーザに叩きつけた技のような感じでだ。そう、俺は怒ってた。怒りで目覚めたスーパーヴェル人だ!

 ごめん…、ちょっと言ってみたかっただけだ…。


 巨大な岩石を龍に直撃させ、押し潰す。


「グォオォ」


 龍は消え入りそうな悲鳴を上げ、絶命した。

 死んだのを確認してから、ふぅっと大きな溜息を吐いて、倒れ込んだ。


「やってやったぞ!こんちくしょー!」


 ストレスを発散するように大声で叫んだ。気が付けば、肋骨が2本折れていたのを思い出した。それに、全身傷だらけだ。

 直ぐにヒールを掛けて治療する。治療が終わって龍を改めて見ると、口元から赤い球体が出ていた。

 何だこれ?

 そう思い、近付いて手に取ってみる。


「何だこれ?」


 宝石のような丸い球体を手にした時だった。俺の後方に、気配が二つ感じた。直ぐに後ろを振り返り警戒したが、そこにいたのは、少年と少女だった。

 少年は、驚いた様子で語り掛けてくる。


「君が火龍を倒したのか?」

「………。」


 俺は警戒し、2人を観察した。

 少年は銀髪で爽やかな顔が眩しい感じのイケメンだった。

 イケメンは死ねと思ったが、その言葉は心の奥に仕舞っておいた。

 ほっそりとした身体つきではあったが、鍛えこまれたであろう筋肉が伺えた。


 少女の方は腰まではあろうか長い銀髪に、ウェーブが掛かっている。見た感じ守ってあげたくなる美少女だった。


「お兄様。まずは、お礼を述べませんと…。」


 美少女は、美少年に制するように発言した。


「ああ。そうだった。」

「…。」

「申し遅れ、失礼する。私はアルネイ王国、第一王子のアレックスだ。こっちは妹の…。」

「シルヴィア・リ・アルネイですわ。」


 どうやらこの2人は、この国の王族で王子と王女らしい。

 そう言えば、服装も豪華なものを身に着けている。


「王太子殿下に、王女殿下で在らせられましたか。私はセドリック・フォン・グナイストが嫡子、ヴェルナルドと申します。以後お見知りおきを…。」


 左手を腰に、右手を胸にして貴族風の挨拶を済ませる。


「グナイスト騎士爵家の方でしたか。此度は、火龍から我々を救ってくれた事に、深く感謝する。」

「貴方は、私達の命の恩人です。」


 礼を言われてしまった…。助けたつもりはないのにだ。


「是非、お礼をさせて頂けないでしょうか?」

「私からもお願いする。是非、王宮にて礼をさせてはもらえないだろうか?」

「いえ、お気遣いは無用にお願いします。私は急ぎますのでこれで…。」


 あまり、面倒事に巻き込まれたくないので、頭を下げて立ち去ろうとするとアレックスに腕を捕まれた。

 どうやら逃がしてくれないようだ。


「是非に…。」

「…わかりました。」


 ふうっと溜息を吐いて答えた。


「では、行きましょうか。」


 シルヴィアが笑顔で答えた。

 この子、本当に可愛いな…。体は細くしなやかそうだ。胸は…、まあ…、これから期待できそうな感じかな?


「その前に、火竜の鱗とか肉を獲ってきます。」


 折角の大物だ。獲れるものは、全部持って行こうと思った。

 火龍の牙、鱗、肉、骨に至るまで部位事に切り分けて魔法の袋に収納する。全ての作業を終えて2人の元に戻った。


「それで?どうやって王宮まで行くのかな?」

「それが、私たちの馬車は先ほどの火龍に壊されてしまって歩いてですわね…」


 礼をすると言いながら、命の恩人を歩かせるのか…舐めてるのか?目的地が、同じ王都だから別にいいんだけど…。

 仕方なしに自分の乗ってきた馬車に誘導する。


「…では俺の馬車に乗ってください…。」

「申し訳ない…。」

「いや、いいです…。」

「私達の荷物も、積んでもらってもよろしいかしら?」

「…どうぞ…。」


 情けない王子と王女の荷物を馬車に積んで、王都までの道のりを走り出した。


 (もう、こいつら捨てて行ってもよくね?)


 と、思ったのは内緒だ。






 王太子と王女殿下を馬車に乗せて、王都までの道のりの中、事情を聞いた。

 国境周辺を視察する予定であった国王陛下は、体調を崩し、その代わりに王太子と王女殿下が視察する事になったそうだ。しかし、視察を終えて王都に戻る途中に龍に襲われて応戦したそうだが、護衛の兵士達は火龍のファイヤーブレスに焼かれ全滅。王太子殿下と王女殿下は、なす術もなく殺されるところに、俺が現れたそうだ。


「それにしても、火龍を倒すなんてお強いのですね、ヴェルナルド様。」

「いえいえ。たまたま、運よく倒せただけですよ。」

「いや、あの強力な魔法はすごかった。王宮の魔法士達ですら、火龍は倒せないのだから。」

「たまたま…、ですよ。」


 そんな会話をしつつ、ある疑問が頭を過った。


「王太子殿下。この辺りは、よく火龍が出るのですか?」

「僕の事は、アレクと呼んでくれ。親しい者は皆そう呼ぶ。いや、火龍なんて出てくるはずがない。あの火竜は、火竜山脈に住んでいるのだから。」


 火竜山脈。

 アルネイ王国の国境を越えて1ヶ月程進んだ所にある。火竜山脈には、火竜が生息しており、そこいら周辺を縄張りにしているそうだ。滅多な事では縄張りから出てこないらしいのだが、襲い掛かられたらしい。


「何故…、でしょうかね?」

「それが分からないのだ。」


 今の火竜は繁殖期だ。

 国境視察中に、無暗に縄張りにでも入ったのかと思ったが、国境から距離が離れすぎている。それはないか…。火竜が襲ってくる理由?何だろう…と思った時だった。王子達の荷物を運ぶ時に、やけに厳重な箱があったのを思い出した。


「アレク様。お聞きしますが、あの厳重な箱は何でしょうか?」

「ん?あれは、国境の近くにある城塞都市、アマーディアの代官が父上…、国王陛下に、献上する貢物だそうだ。」

「…。」


 王太子殿下と王女殿下の荷物じゃなくて?貢物を渡されてから火龍に襲われた…。

 変に思ったので、馬車を止めて厳重に保管してあった箱を、魔法で開錠して開けてみる。


「ヴェルナルド様、何を!?」

「それは、国王陛下への貢物だぞ!?」


 2人を無視して、中を覗き込む。赤黒い球状の物が入っていた。直径約30cm程の卵だった。


「これって火竜の卵なんじゃ?」

「「…」」


 2人は、絶句していた。


「どうしました?」

「ああ、すまない。火竜の卵を捕獲するのは、法律で禁止されているのだよ。」

「どうしてです?」

「…。」


 アレクは答えなかった。


「ヴェルナルド様。火竜の卵は、持つ者に厄災を運ぶと言い伝えられています。」


 王女殿下が答えた。


「厄災ですか?姫殿下。」

「ええ、ヴェルナルド様、私の事もシルビィとお呼びください。そんな事より厄災ですね、太古の昔より火竜の卵を持つ者は不慮の事故や病気により急死しているのです。」

「そんな物を貢物に?」

「…」


 シルヴィは、動揺を隠せないでいる様子だ。

 恐らくは、火竜の卵を使って2人の殺害を企て、2人を害しようとしたのだろう。


「つまり、2人を狙った可能性が?」

「「…」」


 アレクとシルヴィは考え込んでいだ。


「犯人は、アマーディアの代官ですか?」

「いや、犯人は第二皇子のグスタフだ。」


 第二皇子グスタフが犯人?


「お兄様!?」

「代官が、火竜の卵など手に入れられるわけはない。そうなれば、第一王子と第一王女が死んで得をする人物しかいない。」

「つまり、第二皇子が2人を殺そうと?」

「確証はないが、彼ならやりかねない…、彼とは…。」


 アレクは、それ以上何も語らなかった。

 なるほど、辻褄が合うな。


「つまりは、王になる為に王位継承権が第二皇子より上の2人を殺して、第一王子になると言う事で?」

「そうだな…」


 第二皇子グスタフは、王になる為に2人を殺す。堂々と殺せば王になれるはずもなく、毒殺やら暗殺やらで殺せば、あらぬ疑いを懸けられ王になれないかもしれない。

 そう、考えて一計を講じた。

 王が国境視察する予定だったが、それをアレクとシルヴィに変更させた。恐らく、国王陛下は、分からない程の少量の毒を盛られて体調を崩したのだろう。国境視察を中止にすればよかったのかもしれないが、中止ができないほど重要な視察だったのかもしれない。

 中止ができないと分かれば、2人が代理で視察する予定が予め決められていた。視察後の帰路の途中で、2人が火龍に襲われれば確実に2人を殺せると踏んだんだろうが、そこで俺が現れて2人を救ったと言う事か…。

 何やら、面倒事に巻き込まれそうだな…。


「で、どうするので?」

「このまま、堂々と凱旋する。」

「え?」

「火龍に襲われたが、そこに英雄が現れて窮地を脱したと報告すれば、ヴェルナルドが強い魔法使いであると喧伝できる。」

「…。」


 嫌な予感…。


「そして、その英雄を国を挙げて歓迎し、僕達の護衛に任命すれば、グスタフとて手を出せないであろう。」

「ちょっと、待ってください。俺にも都合がありまして、王都にある魔法学校に行く為に、両親が送り出してくれたのに…」

「それは、心配ないさ。僕は、去年から魔法学校に入学しているし、シルヴィも今年から入学するから。」


 思考が停止した。

 おい…、まじか…。

 その後の話は頭に入らず、シルヴィに呼びかけられていたらしいが、ずっと放心状態だったらしい。気付いた時にはいつの間にか王都に到着していた…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ