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114   造る

会社への提出書類作成をさぼりました……。明日、怒られてきます。

 女王が住まう屋敷にてエルフの女王ラメラ、戦士長モンロウを始めとした重臣一同、そしてヴェルの姿があった。


「女王陛下、こやつらが敵の間者だったようです」

「……だった?」


 モンロウの報告に蟀谷をピクリと動かすラメラ女王。


「はい。こやつらは卑怯にもシャーリーを人質にヴェルナルド伯を亡き者にしようと企んでいたようです」

「……そこを返り討ちにあったと?」

「そのようです」

「そのようです、ではありません!敵の間者を探し出せもせず、あろう事か我らが主のお手を煩わせるとは貴方方は今まで何をやっていたのですか?」

「っ……申し訳、ありません」


 ラメラ女王の叱責に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、モンロウは答える。


「これだから、あなたは女に逃げられるんですよ?」

「そっ、それとこれとは話が――」

「言い訳ばっかり!あなたはいつもそう、他人事のように話す癖を治しなさい!シャーリーが可哀想」


「止めて!ここで夫婦喧嘩をしないで」と内心で思いつつ、ラメラ女王とモンロウの過去に何があったのかをヴェルは考え出す。

 夫婦の離婚の原因の大半は浮気だ。しかし、ラメラ女王が浮気をするようにはとてもじゃないが思えない。そうなると、考えられるのはモンロウの方だが、性格的に考えてもモンロウが浮気をするタイプには見えないとヴェルは考える。

 浮気が原因でないとするならば、「子供の教育方針か?」とヴェルの頭を過る。シャーリーの名前が出てきた事から、恐らくはそうだろうと推測する。

 ラメラ女王は理知的に物を考える人だ。そしてモンロウの方はと言うと、これまでのモンロウとの事を思い出すヴェルは「脳筋」としか思えない事に妙に納得をしだす。


「ヴェルナルド伯」

「え?あ、はい」


 考えに耽っているヴェルは、ラメラ女王が呼んでいる事に気付いて慌てて言葉を返す。


「誠に申し訳ありません」


 三つ指を付いて綺麗なお辞儀をするラメラに「いえ、気にする事ではありませんよ」と返し、更に言葉を続ける。


「では彼らの事はお任せしますね」

「畏まりました」


 ヴェルに言葉を返したラメラ女王は、配下の者たちに目配せをして連行させた。


「それでは患者の目も無くなったようなので作戦の大まかな概要を伝えます。まずは――」


 バーナム王国と内通していた間者を捕らえたとは言え、果たしてあの四人だけが全てだろうか、と脳裏に考えが過るが、今は考えても仕方がないと作戦を語り出す。


「申し上げますっ!」


 しかし、作戦を伝えようとしたところに伝令役のエルフが血相を変えて入室してきた。


「何事だ!?会議中じゃぞ!?」

「もっ、申し訳ありません!しかし……」


 慌ただしく入室した伝令役のエルフに対して注意をするモンロウに謝罪をするが、「火急の知らせです」と言葉を続けた。


「バーナム王国軍が侵攻を開始しました!」

「っ!どこからじゃ?どこの道を進んでくる!?」

「はっ!森の北側、北東、東側の全ての道を進軍中との事。その速度から到着は一週間後かと思われます!」


 伝令役のエルフの報告にざわりと重臣たちが騒ぎ出す。


「一週間で間違いはないのですね?」


 真剣な顔をしたラメラ女王の質問に、伝令役のエルフは「はっ!間違いありません」と答えた。


「皆の者、一週間後にバーナム王国軍が攻めてきます。事は一刻を争う状況、ここは我々エルフが一致団結して戦わねば滅びます。これは種の存続を懸けた戦い、決して油断せず我等エルフの力を見せつけてやりましょう」


 ラメラ女王の決意を込めた言葉に重臣一同、「うおぉぉ!やったりますよ」「敵のタマ取ったる」と騒ぎ出す。

 どこの組事務所の決起集会だよ、と心の中で突っ込むヴェルに視線が集まる。


「ヴェルナルド伯、ご指示を」


 ラメラ女王の言葉にコホンと咳ばらいを一つ吐いて作戦を指示する。


「まずは、森の北西の敵に関しては貴方方エルフに対応して頂きます。敵の数は我々よりも多く、勝利するのは困難を極めるでしょう」


 ヴェルの説明にくっと厳しい表情を見せる中、更に言葉を続ける。


「普通に戦ったらの話ですがね……」

「では、勝機は十分にあると?」

「ええ、策はあります。そしてあなた方エルフにバーナム王国軍に勝利する為の武器を渡します。これで油断なく戦えば勝てるでしょう」

「武器とは?」

「これから用意します。準備が出来次第順次お配りしますので、その武器を扱う訓練を一週間みっちりとやって頂きます」

「分かりました。では、何か用意する物はありますでしょうか?」

「魔石を、大量の魔石が必要になります。エルフの国はどれほどの魔石をお持ちですか?」

「そうですね、これぐらいの魔石が五千ほどですね」


 そう言うと、掌を握りしめたラメラ女王はヴェルに見えるように拳を持ち上げた。しかし、何故か人差し指と中指の間に親指を差し込んでいる。

「いや、それ違う意味だから」と突っ込みを飲み込んだヴェルは、四本の指では長さが足りず、親指を含めた長さが正確であると言いたいのだろうと察した。

 そのやり取りを見ていた重臣一同は、ゴクリと生唾を飲み込み、モンロウの鋭い視線にさっと視線を逸らしていた。

「何やってんだか」と思いつつも、一瞬ではあるが想像してしまったヴェルも悪くは言えないでいる。


「分かりました。それを全て提供してもらいます。それと足らない分は森の北東の遺跡の最深部から持ってきて下さい」


「畏まりました」と承諾したラメラ女王は配下の者に急いで取りに行かせるように指示をした。


「次に森の北側からの敵軍については、ユイに担当してもらいます」

「何!?ユイちゃん一人でか?」


 ヴェルの年端もいかぬ子供一人に戦場一つを全て任せる発言に声を荒げるモンロウとざわつき出す重臣たち。ラメラ女王も驚いている様だった。


「ええ、ユイなら大丈夫でしょう」

「無茶だ!危険すぎるぞ。まだ幼い子供ではないか」


 最もな意見である。まだ六歳の子供に戦場を一つを任せるのだ。反対意見がでるのは当たりまえの事だ。しかしそれは、普通に育ってきた子供に対しての言葉である。

 ヴェルと死闘を繰り広げた魔族、ボーマーを父に持つユイはヴェルに匹敵する魔力量と魔法の才能を持ち、更にはフレイム、クーパーを使役するビーストテイマーには当てはまらない。


「俺も子供ですよ?その俺に知恵を借りているのは誰ですかね?ユイは幼いまでも俺の魔法の弟子、それに貴方方も見ている筈だ。火竜とブラッディタイガーを使役する力を持っている」

「い、いや、しかし、それでもバーナム王国軍は十万を超える兵力で攻めて来るのじゃぞ?」

「それについても策があります。どうか俺とユイを信じて頂きたい」


 重臣一同に沈黙が走る中、ラメラ女王が「信じようではありませんか」と言い、更に続ける。


「元々我らに勝ち目はありませんでした。それでも戦おうとするのは我らが主アルフォード様の命あっての事。そして、アルフォード様の意思を受け継ぐ方が来られたのです。あとは信じて戦うのみ」

「……分かりました」


 ラメラ女王の擁護とも呼べる援護射撃に渋々ではあるが、頷く重臣たち。


「そして、東側の敵軍については俺が責任もって対応します。これが大まかな作戦の概要です。詳細は後程指示しますので、それに従って下さい」

「畏まりました」

「では、早速ですが魔石を渡してください」


「畏まりました」と了承したラメラ女王は黒の和服の裾を開けさせ「よっ!」と掛け声と共に敷き板を踏み潰すように踵落としをする。すると天井から掛け階段が姿を現し、「どうぞ」と招き入れる。

 忍者屋敷とも言える女王の屋敷に軽い眩暈を覚えるヴェルは首を左右に振って後へと続いた。

 掛け階段を上った先にはまた降りると言う何とも無駄な造りを経て、宝物殿へと足を踏み入れたヴェルは全ての魔石を回収して、早速武器造りの為にシャーリーの家に戻って行った。










 シャーリーの家に戻ったヴェルは、家の隣に土魔法で作業小屋を作成して武器製造に着手した。

 土魔法によって長い筒状の鉄の棒を造り、筒の内側に螺旋を描くように線を刻み込んでいく。そして更に筒状の鉄の反対側に一回り小さいレバーの付いた鉄の棒を仕込ませる。

 レバーを引けば筒状の鉄の棒から更に鉄の筒が現れる仕組みになっている。そして中から現れた筒状の鉄の上部には、抉り取ったような形に削って小さな物が入るスペースを持たせる。

 次にヴェルが造り出した物はこれまた鉄製のバットストックと呼ばれる肩に当たる部分の部品だった。これらを組み合わせて造られた武器は、前世での世界でライフルと呼ばれる弾を発射して対象物を破壊、もしくは物理的ダメージを負わせる武器だった。

 通常は薬莢と呼ばれる火薬の詰まった物に、弾頭と呼ばれる鉄の弾と雷管と呼ばれる火薬を炸裂させて鉄の弾を発射する物が取り付けられた実弾を使用するのだが、ヴェルはバットストックの内部に魔石と魔法陣を組み込ませる事で強力な電流を発生させて電磁場の相互作用によって弾を加速して発射させるレールガンを造り出したのだ。

 ヴェルの造り出した武器を言うなれば魔力式レールガン、そのライフルタイプなのだ。この魔力式レールライフルを三万五千丁造ろうと言うのだ。

 本当ならオートマチック(自動装填)タイプを考えてはいたのだが、バーナム王国軍の侵攻が思ったよりも早く、一週間と言う短い時間で造り出さないと間に合わない為にボルトアクション(手動装填)タイプに変更を余儀なくされたのだ。


 寝る間も惜しんで黙々とレールライフルを造り続けるヴェルの背後に人影が忍び寄る。


「ヴェル様」

「うわっと、びっくりした!」


 突然の呼び掛けに驚くヴェルに声を掛けた主は「す、すみません。驚かせるつもりはなかったんですが……」と返す。


「何だシャーリーか。びっくりしたよ」

「だから謝ってるじゃないですか」

「ああ、ごめん。それで何か用か?」

「そろそろ休憩にして食事をしませんか?」


 レールライフル製造にのめり込み過ぎていたヴェルは、時間の感覚を失う程に集中してシャーリーの接近にも気付かなかったようだ。


「ああ、もうそんな時間か。でも、ごめん。まだ休むわけにはいかなくて……」

「そう言うと思って作って持ってきました」


 シャーリーの手にはお盆に乗せたおにぎりが大量に乗せられていた。

 シャーリーの手料理、と聞いて期待したヴェルには少しがっかりした気持ちではあったが、シャーリーが手ずから作った料理には違いないと食べ始めようとするとレールライフル製造で真っ黒になった手に気付く。

 どうしよう?と視線をシャーリーに移すと「待ってくださいね」とおにぎりを一つ掴んで「はい、あ~ん」と言葉を続ける。

 女性と意識した相手にされる「はい、あ~ん」と言われる事がこんなにも照れてしまうのか、と顔が紅潮し始める。


「ヴェル様、早く食べてください。恥ずかしいじゃないですか……」


「じゃ、やるなよ」と思ったが、シャーリーの頬にも赤みが差していると気付いたヴェルは「はい、あ~ん」を素直に受け入れて食べ始めるのだった。


「美味い」

「ありがとうございます。これでも料理には自信があるんですよ」


 シャーリーの作ったおにぎりは、絶妙な塩加減で握られていたのだ。そして何よりもおにぎりの中に入っている具が懐かしい梅干しだった事に感涙する。


「ちょ、ヴェル様」

「ああ、ごめん。シャーリーが作ってくれたおにぎりがあんまりにも美味しくて、ついね」

「もう、ゆっくり食べてください。まだまだいっぱいありますから」


 お盆の上に視線を移すとこんもりと握られたおにぎりが、所狭しと並べられた状態を見て「そんなには食えんよ」と思いつつも、「はい、あ~ん」をしてもらう。

 シャーリーのほっそりとした美しい綺麗な手がヴェルの口元に近づく度に胸のドキドキが増していき、頬が紅潮していくのが分かる。


 ――こんなにもシャーリーを身近に感じて、それでいて女性として意識し始めたのはいつからだろうか?


 年上なのにおっちょこちょいなシャーリー、いつも明るい笑顔を振り撒くシャーリー、とてもエルフのお姫様とは思えない言動と仕草を見せるシャーリーを愛くるしい思いで心が満たされる。

 そして今、いちゃいちゃと付き合いたてのカップルを思わせるような「はい、あ~ん」を二人して顔を赤く染めている状況に流され始めてもいる。


「ヴェル様、美味しいですか?」

「うん、美味しい」

「もう一口。はい、あ~ん」

「あ~ん」

「まあまあ、仲が宜しいんですのね」


 ビシッと石化するヴェルとシャーリー。

 錆びた歯車を動かすように「ギギギ」と音を立てて、不意に掛けられた声の方向に視線を移す二人。

 金髪の碧眼の少女セシリア姫だった。胸をプルンと震わせながら「あらあら、まあまあ」と口元に手を置いて囁いている。


「や、やあ、セシリア。どうしたんだい?」


 シャーリーとイチャイチャしていたところを見られていたヴェルは、バクバクと激しい胸の鼓動で張り裂けそうになってはいたが、何とか声を振り絞ってセシリアに言葉を掛けた。


「いえ、ユイちゃんを見かけないので探しているのですわ。お知りになりませんか?」

「ああ、ユイか。ユイなら用事を頼んだから帰って来るのは一週間後かな?」

「一週間?何をお頼みになられたのですか?」

「ちょっと森の中を散策させてるよ」

「気は確かですか?ユイちゃんはまだ――」


「言いたい事は分かっている」とセシリアの言葉を制して、更に言葉を続ける。


「まだ六歳の女の子に危険な森の中を一人で行かせるなんて、だろ?」

「そうです。分かっているなら何で行かせたのですか?」

「ユイなら大丈夫だ。それに一人じゃない」

「そう、ですか。いえ、それでも危険です。もし、何かあったら」


 一人で行かせたわけじゃないと知りながらも納得できないセシリアはヴェルに詰めかけるように反論した。


「ユイには子供だけど火竜のフレイムにブラッディタイガーのクーパーがいるし、それに俺の魔法の弟子だから大丈夫」

「命の恩人であるヴェルナルド様を信用しないわけではないんですが……本当に大丈夫なのでしょうか?」


 心配で不安になったセシリアは右手をヴェルの胸に添えて見つめてくる。

 細く長いまつ毛にぱっちり二重の碧眼美少女の表情、仕草に見惚れてしまいそうになっていると、「コホン」と咳払いをするシャーリー。


「ちょっと近づき過ぎじゃありませんか?ヴェル様、セシリア」


 はっとして体を離すと、「あら、いやですわ」とセシリアが小さく呟く。


「ヴェル様、お腹空いてるんですよね?はい、あ~ん!」

「あ、あ~んグホ」


 おにぎりを無理やりに口に詰め込んでくるシャーリーが怖かった。


「ほら、まだまだありますよ!」


 おにぎりを詰め込まれ続けるヴェルはゆっくりと意識が遠のいていくのだった。





















 ――俺、何か怒らせるような事したか?


 薄れゆく意識の中で、最後に思った言葉だった。

次回更新日……少し……空くと思います……。

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