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112   解決

お待たせしました。

攫われたシャーリーを助け出すべく、指定された場所までヴェルは森の中を考えながら一人で歩く。

敵の思惑は?何故、俺だけが呼び出されたのか?答えは決まっている。

バーナム王国にとって、最大の敵はヴェルただ一人。ポーカーで言えば、正にジョーカーとも呼べる存在だ。ワンペアがスリーカードに、ツーペアがフルハウスになるように、ヴェルさえ居れば強さが格段に跳ね上がってしまうのだ。

敵はヴェルの存在を知っているからこそ、シャーリーを人質にヴェルを呼び出して亡き者にしようと考えたのだ。つまり、敵の正体はバーナム王国に通じた間者だ。

勿論、ただで殺されるほどお人好しではないヴェルは、この状況を打破すべく策を考えているのだ。

もし、ヴェルが人質を取る立場ならどうするか?恐らくは幻惑魔法か何かで動きを読ませないようにしつつ、確実に息の根を止める手段を取るだろう。

相手が幻惑魔法を使えると仮定して策を考えているのには理由があった。それは、シャーリーと初めて会った時の事だ。フロスト商会に弱みを握られたシャーリーは透明化の魔法を用いて人攫いの片棒を担がされ、幻惑魔法によって攫われた人たちが監禁された部屋へと続く通路を隠蔽していたのだ。

しかし、それらの魔法はヴェルによって看破されて事無きを得たのだったが、エルフは透明化や幻惑魔法を使えるとの証明であり強味だ。

以上の理由により、敵エルフの行動パターンを先読みして対応策を打ち立てていた。


「そこで止まれ」


人気のないひっそりとした森の中で、不意に声がした。

声の正体はシャーリーを攫った者たちである事は気付いている。何故なら、周囲に人影はないからだ。

いくら人気のない森の中でも誰かに見つからないとは言い切れないし、こちらに居場所を気付かれたくはない相手は透明化の魔法を使用しているのだろう、とヴェルは判断する。

ヴェルは指示通りに動きを止める。


「姿を見せたらどうだ?」


姿を見せない相手にヴェルは言葉を掛ける。


「そいつは御免被る。お前は強いからな、姿を見せた途端に殺られそうだ」


――だろうな。ここで姿を見せる馬鹿はいない。


もし、ここで姿を見せる相手には即座にヴェルの魔法が炸裂するだろう。


「だから、こんな卑怯な手を?」

「フン、何とでも言え。お前にはここで死んでもらう」

「その前に、シャーリーの無事を確認させろ」

「……ここにはいないから無理だな」


ここにはいない?と不審に思うが、その疑問には直ぐに答えが出る。

ここにはいない、ではなく近くに潜ませているのだろうとヴェルは仮定する。


「ならば、帰らせてもらおうかな」

「動くな!お前がそこから一歩でも動けば、シャーリーは死ぬ事になるぞ」


仮定は確信へと変わる。

シャーリーはこの場にはいない。しかし、ヴェルが一歩でも動けばシャーリーの命は即座に刈り取られる。それはつまり、この場にはいないが近くでこちらの様子を伺っていると言う事だ。


――やはりな。シャーリーは近くにいる。


「分かった。ここから一歩も動かないと誓おう」

「なら、死ね!」


ガキィィィン!


ヴェルの目の前から衝撃音が響き渡る。

衝撃音の正体は剣の刃の部分と拳がぶつかり合っていた。

次の瞬間、ヴェルの拳が剣の持ち主の胴体にめり込む。


「っ!」


胴体に一撃を喰らった相手は即座に意識を手放して倒れ込んだ。


「なっ!シャーリーを殺せっ!」「フ○ンネル!」


男の声とヴェルの声が同時に木霊する。


近くの木陰から「えいっ!」と何かを貫こうとする掛け声が聞こえたが、その直後にガキィィィンと響き渡る金属音が響く。

ヴェルが遺跡から持ち帰った銀翼の翼、その翼を構成する羽たちがシャーリーを取り囲んで守護していたのだ。


「なっ、何!?」

「え!?どうして?いつの間、ぐはっ」


銀翼の翼に指示を出すと同時に超加速によってシャーリーのいる所まで詰め寄り、シャーリーを殺そうとした男の腹部に掌底をお見舞いする。

男はヴェルの一瞬の動きに気付く前に意識を刈り取られた。


「シャーリーは返してもらったぞ」

「くっ!動くな!動けばお前の妹が死ぬぞ?」

「なっ、何!?」


ヴェルに動揺が走った。


「どう言う事だ?」

「知れた事、お前がここに来る間にもう一人の仲間がシャーリーの家に向かっていたんだよ」


剣を持った男とシャーリーを貫こうとした男は意識を失って倒れている。そして指示を出している男は少し離れた場所にいる。そして、今シャーリーの家に向かっている敵がもう一人いると言う事になる。

ブラフかもしれないが、指示を出していた男の声色が真実であると判断したヴェルは込み上げてくる怒りと共に男に強烈な殺気をぶつける。


「お前、ユイに手を出す気か?」


この世に生を受けてから――いや、前世からも計算に入れてだが――かつてない程に重く、深い声色で男に言い放つ。


「ひっ!だ、だと、したら、どうだと言うんだ!?」


ヴェルの殺気を受けた男は、あまりにも強烈な殺気と死を連想させる声色に恐怖で足を竦ませながら、それでも何とか声を振り絞って答える。

男の返答にヴェルの殺気はみるみる内に消え去って行った。


「わ、分かればいい。そこで大人しく、」


男の内心では動揺しっぱなしだったが、ヴェルの殺気が消えた事にこちらが有利になったと見て言葉を続けようとしたが、直ぐにヴェルの言葉によって制されることになる。


「お前、失敗したな」

「なっ、何がだ?」


ヴェルの言葉に心臓をばくばくと激しい鼓動をさせながら質問で答える。


「ユイはああ見えて、俺の魔法の弟子だぞ?」


その瞬間、男は背筋に冷たい汗を搔く。


「まっ、まさか……」


男は悟ったようだ。作戦は全て失敗したのだと。

次の瞬間、男の意識は闇の中に消えて行った。











木製の扉にコンコンとノックする音が部屋に響く。


「誰?」


ノックの音に部屋の中から扉に向かって言葉を返す。


「扉を開けてくれないかい?」


部屋の中から聞こえてきた幼い声に気をよくした男は、優しげな声で言葉を返した。


「ダメ」

「ヴェルナルド伯からの言付けがあるんだけど?」

「……分かった」


暫く待って扉が開くと幼い少女が出てくる。

腰元まで伸びた長い黒髪の少女、ユイだ。


「何?」

「大人しく、」


幼い少女、ユイを確認した男は即座に拘束しようと動こうとするが突如として発生した爆風によって吹き飛ばされる。

爆風の正体はユイが唱えた爆風ブラストウェーブだ。

吹き飛ばされた男の意識は既にない。と言うよりも顔は血だらけになっている。この様子だと、体中に裂傷しているかもしれない。


「ん。失敗失敗」


ユイは男の前まで来ると男の様子を見て可愛らしく言葉を呟いた。

どうやら加減を間違えたようだ。幼いまでも、何という破壊力である。

静かな家屋が立ち並ぶ場所に突如として爆音が響き渡った事で、どこからともなくエルフが集まり出した。


「なっ!何だこれは!?どうしたと言うのだ!?」


集まって来たエルフの人垣の中で驚きながら言葉を荒げるモンロウの姿があった。


「ユイを襲おうとした」

「何じゃと!?と言う事は、これはユイちゃんがやったのか?」

「ん」


周囲に集まって来たエルフたちと同様に驚きを隠せないモンロウは全身に寒気を感じる。


「フレイム」


ユイの言葉と同時に、ユイの幼い小さな体から体長4mはある火竜が飛び出した。また一段と成長したようである。

その瞬間、周囲から「キャー!火竜よ!」「うわぁぁぁ!」と悲鳴と共に腰を抜かすエルフや逃げ惑うエルフたちだった。

腰を抜かしたエルフの中にはモンロウもいるようだった。

「あ、あ、あ」とへたり込むモンロウを無視してユイはフレイムに話しかける。


「こいつ見張っといて」

「グギャー!(分かった)」

「逃げようとしたら食べてもいい」

「グギャー!(うん)」


何とも物騒な会話である。

6歳の女の子がエルフをエサ扱いしている様は周囲にいるエルフたちに畏怖の念を抱かせるが、そんな事を気にするでもなくユイは続けてクーパーを呼び出す。

そしてまたもや、周囲からは「今度はブラッディタイガーだ!」と悲鳴が聞こえ始める。

ユイはクーパーに指示して扉の前に陣取らせると言葉を続ける。


「誰も入れちゃ、ダメ」

「ガウ」


そしてユイは、森の中に消えて行った。




















「そこ、儂の家なんじゃけど?」と股間をぐっしょりと濡らしたモンロウは呟いた。

会社への提出書類作成の為、次回の更新が遅れそうです。提出書類が多すぎるんだよ、と愚痴を零す銀の懐中時計でした。

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