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110   会議その2

少しずつだけど、毎日頑張って書いてます。更新は出来上がり次第なところでお待たせしてますが、長い目で見てやってください。

「ヴェルナルド伯、いえ、我が主よ」


 老齢のエルフがヴェルの名を呼ぶが、直ぐに言い直す。


「あの、今まで通りに呼んで下さい」


 ヴェルは動揺を隠せない。

 両手を突き出して首を左右に大きく振りながら答える。

 先程までヴェルナルド伯と呼ばれていた筈なのだが、あれよあれよと言う間にヴェルに仕える事になったエルフたち。

 そして、呼び名も我が主と敬称を変えられた事に理解が追い付いていないのだ。


「しかし、」

「いいんです。お願いしますから、今まで通りで……」

「……分かりました」


 ヴェルの必死の抵抗を首を傾げながら答える。

 その表情は、何かおかしいのか?と言わんばかりだった。


「先ほどのご質問にお答えします」

「は、はい」


 ん?何を聞いてたっけ?と考え込みながら、返事を返す。


「現在、我々が持ちうる最大戦力は、」


 ――ああ、そうだった。大事な事を聞いてたんだった。


 老齢のエルフの説明を聞いて、漸く何を聞いたのか思い出す。

 未だに動揺していたようだ。


 ――エルフたちの事はおいおい考えるとして、今は冷静になろう。


「モンロウ戦士長を筆頭に、戦士隊5000。最大兵力は警備の者達も含めると……そうですな、35000っと言ったところかのう」


 ――総勢35000人。バーナム王国との兵力差があり過ぎるな。これは仕方がない事だ。だが、問題となるのは兵の質。


「ふむ……戦士隊は剣術や魔法が使えますか?」

「戦士隊は、このエルフの国の中でも精鋭中の精鋭。剣術、弓術、魔法を得意としておりまする。他の警備の者達は、それよりは劣ると思って頂ければ……」


 これでどこまで通用するかは策次第だな、と部隊編成、作戦を練り直す。


「次に二つ目の質問ですが、バーナム王国へと繋ぐ道は全部で三つ。一つ目は森の北側から迂回しながら王都へと続く道。二つ目は森の北東から最短で王都へと続く道。三つ目は森の東から大きく迂回しながら王都へと続く道」


 ――三つもあるのか……。二つなら何とかなるかもしれないが、三つとなると……相当な奇策が必要になるな。


 ヴェルは考えていた。

 仮にバーナム王国が道を一つだけ選んで攻めてきた場合、もっとも楽な戦い方が出来よう。敵の陣容、戦法を推測して策を弄すればいいのだから。

 もし、三つの中から二つの道を選んで来た場合も対応策はある。この場合、部隊をエルフ組とヴェル、ユイ組に別けて戦う戦法とヴェル、エルフ組とユイ、エルフ組に別けて戦う戦法だ。

 だが、ここで問題になるのはバーナム王国の兵力数だ。兵力差があればあるほど、部隊を別けれるからだ。この場合、兵力の面で多勢に無勢なこちら側が圧倒的に不利となる。


「我が、ヴェルナルド伯はバーナム王国がどの様にして攻め込んでくると思われますかの?」

「……もし、もし俺がバーナム王国軍を率いる立場で、エルフの国に攻め込むとしたら……」


 女王の間に集いし、重臣たちはヴェルの言葉に固唾を飲んで耳を傾けている。

 実際に、何人かは喉をごくりと鳴らしていた。それほど、場に重い空気が漂っていた。


「全ての道を進みます」

「全てと言いますと、三つ全てですかの?」

「その通りです」

「理由は?」


 沈黙していたモンロウさんが真剣な表情で尋ねてきた。

 先程までの沸騰していた頭も、もうすっかり冷静さを取り戻していたようだ。


「兵力の差です。兵力が多ければ多い程、部隊を別けやすく攻める手段も増えてくる。敵も馬鹿じゃなあい。正々堂々、正面から攻め立てるは愚の骨頂です」

「なるほど……なら、三つの道全ての道を通って進軍してきた場合の策も用意していると?」

「……」

「どうなんだ?さっき策を用意出来ると言っていたではないか。吐いた唾は飲めんぞ?」


 前のめりに鋭い視線を投げかけている。

 ここで用意出来ません、とは言えないし、言わせてももらえないだろう。


 ――やはり、あれしかないか……。


 しかし、ここはやはりヴェルである。

 アルネイ王国での内乱を経験した得た知識、前世での歴史、戦略、戦術。そして、ファンタジー小説からもヒントを得て考え抜いた戦術を起死回生の手段として用いようとしている。


「策なら、あります。それもとっておきの策をね」

「それは、何だ?」

「今ここでは答えられません。後程、女王陛下にはお伝えしますが……」

「嘘を吐くな!考えが及ばないから、今ここで言えないだけじゃないのか!?」


 モンロウさんの言葉にざわざわと重臣たちも騒ぎ出す。

「やはり、こんな子供では無理か」「例えアルフォード様の意思を継いでいるとは言え、それは魔法だけの事か」など、諦めめいた言葉さえ聞こえる。


「モンロウさん、お忘れですか?」

「何がだ?」

「女王陛下のティアラが盗まれた時の事を……」

「何の話を……あっ!」


 ――漸く気付いたか……。


「ティアラが盗まれた時、誰かの手引きがありましたよね?」

「……」

「そうでなければ、エルフの秘宝とも呼べるティアラが盗まれるわけがない」


 エルフの国全体に結界を覆える程の力を持つティアラだ。女王が常に身に着け、警備も厳重だった筈のティアラが盗まれた。

 何者かの手引きがないと、盗むのは困難を極めるだろう。


「それはつまり、内通者がいると言う事。誰が内通者かは分かりませんが、情報漏洩する恐れがある現状では詳しくは言えませんね」

「しかし、それは犯人が見つかった」

「どうやって見つけたんです?」

「手引きした者の遺書が見つかったからだ」


 ――手引きした者が遺書を残すだろうか?それはあり得ない。なら、誰かに殺されたと考えるのが自然だな。


「遺書には何と?」

「俺は、目先の欲に負けてティアラをバーナム王国に売り払った。絶対に攻めて来ないと言っていたのに、俺は騙されたんだ。このままじゃ、エルフの国は終わりだ。とんでもない事を仕出かした責任を取って命を絶ちます、と」

「おかしくないですか?」

「何がだ?」

「目先の欲って、そもそも何ですか?」

「金か?女か……」

「ティアラはエルフの秘宝中の秘宝、その価値は計り知れないと思います。もし、金が目当てなら売り払った金はどこに?それと、かなりの額になる筈だ。それは何処で使おうと思ってたんでしょうね」

「……」

「仮に女だった場合、自殺する前にその女の下に逃げる、もしくは駆け落ちするなどの行動に出る筈。そう考えた方が納得がいくと言うもの、そうしなかったのは殺されたから……誰か別の真犯人の手によって濡れ衣を着せられた可能性があります」

「……だとするならば、真犯人は別にいて、今もこちらの動きを見張っている」

「そうなりますね」


 モンロウさんもエルフの重臣たちも顔を渋くしている。

 内通者が別にいると言う事実を突きつけられれば、仕方がない事だ。だが、何故そんな事を?と疑問が浮上する。


「女王、これはまずい事になりました」

「ええ。早急に真犯人を見つけ出し、捕らえなさい」

「「「「「はっ!」」」」」


 女王の命により、重臣一同が命令を受諾した。


「真犯人が見つかるまでは策は言えませんし、女王を除いて誰一人として信用するつもりはありません」

「なっ!儂らまで疑うつもりか!?」

「当然でしょう?真犯人の目的が不明な段階で誰を信用していいと?」

「……」

「もしかしたらこの中の誰かかもしれないし、この中にはいないかもしれない。でも、はっきりとしている事は情報が漏洩している。この事だけです」

「……分かった。こちらで何とかする」

「頼みました」


 バーナム王国との内通者がいる事が分かり、情報漏洩の件がある為、会議は終了となった。










 会議が中断し、モンロウさん宅に向けてシャーリーと連れだって歩いているが、会話はらしい会話はなかった。

 シャーリーも内通者がいる事を知ってショックを受けているのだろうとヴェルは思っていた。

 いつもの笑顔はなく、どんよりと曇った表情をしている。いや、寧ろ青ざめていると言っていいだろう。

 ヴェルはどうしたら元気付けられるかを考えていた。


 ――シャーリーにはいつも笑っていて欲しいが、こればっかりは仕方がないか……。さて、どうしたものか……。


「あ、あの、ヴェル様」

「ん?どうしたの?」

「あの……その……」


 シャーリーは奥歯に物が詰まった様に、言いにくそうにしている。


「心配かい?」

「それもありますけど、」

「じゃ、何?」


 俯き、もじもじと言い出せずにいるシャーリーの両頬をおもむろに摘まんで左右に引っ張る。


「ふうぇ?」

「シャーリー、言いにくい時は無理して言わなくてもいい。だけど、シャーリーには笑っていて欲しい。だから、そんな暗い顔は止めてくれ」

「いひゃい、いひゃいれす。わかりましたからやめひぇくらひゃい」

「分かればよろしい」


 両頬を擦りながら、「もう、酷いです」と非難している。


「少しは気が晴れたかい?」

「はい……」

「まだ、何か言いたい事がある?」

「はい……。あのっ!」


 言いそびれた言葉を決意した様に、両手を握りしめている。


「おっ、おう?」

「今まで、失礼な態度を取ってしまってすみませんでした」


 シャーリーの言葉に、何の事だ?返すヴェル。


「アルフォード様の意思を継いでるヴェル様に対する態度じゃなかったですよね……」


「ああ、何だそんな事か」と呟いてからシャーリーの両頬を再度抓る。


「いひゃい、いひゃい」

「あのね、シャーリー。それは止めてくれ。今まで通りに接してくれないか?」

「いひゃい、いひゃい、わかりまひたから、わかりまひたから」


 両頬を抓られて引っ張られているのに、頭を上下に動かしながら謝罪いしているシャーリー。

 抓っているのに頭を振るなんて余計に痛いだろうに、と思いつつ、ふうっと溜息を吐いてからシャーリーを解放する。


「シャーリーにはいつも通りに接してくれないと、俺、悲しくなっちゃうよ……ぐすっ」


 ヴェルの眼から涙が流れる。


「ヴェル様っ!ごめんなさい!そう言うつもりじゃなかったんです」


 詰め寄りながら、謝罪を述べている。

 心から謝罪しているように、頭を何度も上下にしながら許しを得ようと必死だった。


「うっそぴょ~ん!」


 両頬に花を咲かせる様に両手を開きつつ、シャーリーに視線を送る。

 一瞬、何が起こったのか理解できずにいるシャーリーは口を広げたまま固まっている。

 時間は5秒、10秒と経ち、漸く自分が揶揄われた事に気付いたシャーリーは、ヴェルの左頬にきついビンタをお見舞いする。

 ヴェルからしてみればビンタの一つぐらい躱すのは容易だったが、ここは素直に受け入れるべきだと判断したヴェルは、ばちんと脳にまで響く音と共に訪れる痛みを噛み締めていた。


「もうっ!ヴェル様のバカっ!」


 そう言って、ずかずかと歩き出して行った。

 仮にも一国の姫だろ?そんな歩き方は止めなさい、と思いつつも、どんよりと曇った表情だったシャーリーより怒った表情のシャーリーの方がまだマシかと思っていた。

 左頬を擦りながら、「おお、痛ぇぇ」と呟いてはいたが、ずかずかと歩き出すシャーリーの表情が笑顔だったのを見て、「それでいい」と心から思ったヴェルだった。

次回の更新もなるだけ早く更新したいと思っていますが、会社の書類と日々格闘中……。

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