108 恐ろしい陰謀
お待たせしました。調子に乗って……ノベルコンテスト「モーニングスター大賞」に応募してみました。
まあ、無理でしょうと予測してますw
室内にふわぁと間の抜けた音が木霊する。
「お疲れの様ですね」
「あ、すみません。満腹になると急に眠気が襲ってきてしまって……」
遺跡にて、一晩中歩き回り戦い続けたのだ。食事を取り、人心地着いた事で極度の疲労感が漂っていたのだ。
「午後から重臣たちと会議がありますので、それまでの間はお休みください」
「はい、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいますね。実は、もうへとへとで……」
「まあ、うふふ。寝床を用意いたしますので、ごゆっくりどうぞ」
「はい」
「でも、」
女王は一拍を置いて、言葉を続ける。
「会議には出席してもらいますからね」と可愛らしくウィンクをして答える。
その可愛らしい仕草に、この人歳は幾つなんだろうか?と頭を過る。
「何か、失礼な事を思っていませんか?」
――エスパーか!?
「い、いえ、決してそんな事は!」
早口だった。
女王は微笑んではいたが、背後に黒い何かがゴゴゴゴゴと音を立てて揺らめいているのが見えた気がしたからだ。
背中に流れる大量の冷たい汗を感じながら、エルフが住まうこの森の奥にひっそりと埋められるんじゃないだろうか、と恐怖していたのだ。
「……期待していますね」
「あ、はい……」
女王の何とも言えない圧力を全身に浴びながら、そっと目を閉じた。
何故、この世界の女性はこんなにも怖いのだろうか、と震えながら真剣に考えるのだった。
女王が用意した寝床で瞳を閉じ、疲れ切っている体を休める為に眠りに就こうとしているが、眠る事ができないでいる。
静かな室内に二つの息遣いがよく響く。
一つしか敷かれていない布団に女王とヴェルの姿があった。
――おかしい……、どうしてこうなった?
女王が用意してくれた布団に入り、おやすみなさいと挨拶を交わして眠ろうとした所に女王が潜り込んで来たのだ。
何だ?何が狙いなんだ?と頭を捻らせていると女王の息遣いが耳に当たる。
女王の様子を伺おうと横を見ようと振り向けば、今にも唇と唇が触れそうになる程の距離にヴェルは息を飲む。
――近い近い近い近い!
うなじの綺麗な大人の色香を纏った絶世の美女に密着され、今にも唇と唇が触れそうになる距離。
ヴェルの心臓はドクンドクンと鼓動が早まる。
女王から漂う甘く、爽やかな香りがより一層鼓動を高まらせる。
――いい香りだ。これは……桃の香か?
桃は、確かバラ科の植物だったか?と考えながら、女王の香りを楽しむヴェル。
古来、日本でも水菓子などでも重宝されてきた桃がエルフの国にもあったのかな?と高まる鼓動を制するように別の事を考え始める。
桃の効能は、心を落ち着かせるリラックス効果がある。他にも、便秘改善、疲労回復、がん予防、高血圧の予防などだ。
カリウムも多く含まれている事から、むくみにも効果がある。そして、肌もしっとりとさせる効果もあるとか……。
更には、桃特有の香り成分にピーチアルデヒドがあるから幸せな気分にしてくれる。
他にも、クリサンテミンが肌や内臓の老化防止を助け、ナイアシン、ペクチンなどが血行やデトックス効果を促す成分が含まれている。
――確か、若返りの効果もあるらしいとか聞いた事があったな。……女王も苦労しているのかな?
女王の職務は非常に重責だ。エルフの国、引いてはエルフとしての種の存続が掛かっているのだから、ストレスもかなりのもだろう。
だからこその桃なのかもしれない。
――リラックス効果、便秘改善、疲労回復、がん予防、高血圧予防、肌や内臓の老化防止。……そして、若返りか。
女王の……いや、女性の涙ぐましい努力が垣間見える。
――女性は大変なんだな。
と、すっかり冷静さを取り戻したヴェルは女王の顔に視線を移すと目が合った。
寝ていたと思っていた女王と視線が合ったのだ、ヴェルは驚きでひぃぃぃと離れようとしたが、右腕は女王に抱きしめられて逃げる事も敵わずだった。
「眠れませんか?」
あなたの所為でね、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「ええ、少し考え事をしていました」
「……そう、ですか」
「「……」」
部屋に沈黙が訪れた。
いや、何か言ってよ、と頭を過った後、女王はおもむろにヴェルの頭を撫で始めた。
「ちょっ!」
咄嗟の事に、驚いて言葉を漏らすヴェルに「いいから」とヴェルを制する女王。
ゆっくりと、それでいて優しく撫でる女王に安らぎを感じ始める。
――気持ちがいい。
疲れた体に、甘い爽やかな香り。そして頭を撫でる手が心地よく睡魔を誘う。
「女王は、ご結婚されてないんですか?」
ヴェルは心地よい睡魔を我慢しつつ、気になっていた事を尋ねる。
「……以前は、しておりました。でも、今は独り身ですよ」
「そう、ですか……」
やはり、結婚していたのか、と少し残念な感情が押し寄せるが、今は独り身ですよ、の言葉に疑問を感じた。
以前はしていた……つまり、結婚していた。だが、今は独り身?これは、死に別れたか離婚をしたと言う事。
前者ならば、夫に先立たれて、と言う筈だが、今は独り身ですよ、と言った事で離婚した可能性が高い。
「だから、一人寝の夜が寂しくて……」
「っ!」
――これは、あれか?誘ってるのか?俺を?まだ、子供ですよ?女王はショタですか?
桃には、もう一つの効果もある。
セ○クスレスや結婚への焦りを和らげてくれるリラックス効果もあるそうだ。
潤んだ瞳、上気した頬、荒い息遣い……、そのどれもが誘っているようにしか見えなかった。
「じょ、女王……」
「ヴェルナルド伯……」
ヴェルの顔が女王に近付く。
「私も、こんな息子が欲しかったですわ」
「っ!」
ヴェルは自分の行動に恥ずかしくなり、視線を逸らした。
何だ……息子が欲しかっただけなのか、と少し残念に思いつつ、女王の顔に視線を戻した。
女王はクスクスと笑い、自分が揶揄われた事に気付く。
「~~~~~~~~~~~~~~」
今までの自分の行動に恥ずかしくなり、顔を真っ赤に染め上げるヴェル。
その姿を見た女王は、かわいいですね、と更に追い打ちを掛けてくる。
「じょ、女王は、お子さんはいないんですか?」
恥ずかしさに耐えきれなくなったヴェルは逃げるように話題を変えた。
「いえ、いるにはいるんですが……お転婆な娘で困っています」
「そ、そうですか。ちなみにお幾つですか?」
「80歳になりますね」
――80?おばあ……
「エルフの寿命は人間種よりも長いんですよ?」
「そ、そうですよね。あはは……」
心を見透かされたように答える女王に、苦笑いを浮かべて答えた。
「人間種で言えば、丁度20歳になりますね」
――4倍か。人間種の寿命が70として、エルフなら270歳!?そんなにも寿命が違うのか。
「そ、そうですか」
「はい」
「「……」」
再び、部屋に沈黙が訪れる。
沈黙が痛い、と思いつつ、何か話題を考えていると女王が爆弾を投下する。
「だから、お婿に来ませんか?」
「ええ!?」
「ヴェルナルド伯は可愛いですし、気に入りました。それにアルフォード様の意思を受け継ぐヴェルナルド伯にエルフの将来を任せたいと思います」
「いっ、いや、それは……ちょっと、何て言うかですね。ありがたいお話なのですが、俺にはもう婚約者が3人も居てですね」
「あら、3人もいるのなら、もう一人ぐらい増えてもいいではありませんか」
それは困る、とヴェルの額には冷たい汗が流れ始める。
――これ以上増えたら、シルヴィたちに何て言われるか……。いや、それだけじゃ済まないな……絶対に殺される……。
ここで了承してしまっては、未来の自分が意図容易く想像できる自分に恐怖した。
全身に走る奇妙な悪寒と震え、命の炎を灯す蝋燭に息を吹きかける行為だ。
「おっ、お断り、させて、いた、頂きます」
声も震えていた。
男とは弱い生き物だと理解した瞬間だった。
「残念ですわね……。でも、まだ諦めませんよ?」
――諦めて下さい。
そう思った時だった。
「女王様、失礼いたします」
ガラッと襖を開けて、中の様子を伺う金髪の長い髪が美しい美女、シャーリーだった。
「「「あっ……」」」
三人同時だった。
シャーリーは口をパクパクさせ、女王は悪戯が見つかった子供の様な顔している。
ヴェルはヤバいと表情を青くする。
室内に三度目の沈黙が訪れる。しかし、最初に沈黙を破ったのはシャーリーだった。
「ヴェ、ヴェル様!何をしているんですか!?」
全身をプルプルと震わせ、キッと睨みを聞かせて言い放った。
「い、いえ、ナニもしてないよ!ほんとにまだナニも!」
「まだ!?これからやるつもりだったんですか!?」
「あら、それは残念でしたね」
――ちょっと女王!変な事言わないで!
「お母さんまで何やってるんですか!?」
「これはヴェルナルド伯を我が家にお迎えする計略ですよ。シャーリーもその方が嬉しいでしょ?」
悪びれもせずにシャーリーに応える女王。
女王の言葉を聞いたシャーリーは顔を朱に染めつつ「そ、それは、その……」ともじもじしている。
――何で恥ずかしがってるんだ?シャーリー。いや、その前に計略って……。女王……恐るべし……。いや、その前に女王がお母さん!?え?え?え?じゃ、お父さんはモンロウさん!?女王とモンロウさん、夫婦だったの!?
何だか聞いてはいけない事聞いてしまった感じがするヴェルは頭を抱えつつ身悶える。
「こうやって既成事実を作って、この国にヴェルナルド伯を釘づけにして済崩しに取り込もうとしている最中です。シャーリーは下がっていなさい」
――ちょっ!変な事言わないで!……既成事実って……そう言う事だよね?
「ヴェル様!」
キッと睨むシャーリー。まるで親の仇を取る子供の様に凄んでいる。
「は、はい!」
「まさか、お母さんにまで手を出そうと……?」
「ちょっ、変な事言わないでよ。そんな事しないってば……」
「ふ~ん、へ~……」
凄いジト目だった。
あれは丸っきり信じていない目だった。
「なっ、何よ?シャーリー」
恐る恐るシャーリーに声を掛ける。
「お手が早い事で……」
「ちっ、違……」
「流石はヴェルナルド伯。もう、シャーリーにまで粉を掛けるとは、流石ですね」
おいっ!変な事言うなよ、と続けて、女王の顔を見るとニヤニヤしていた。
――くっ、まさか……ここまで読んでの計略か!
いや、そんな事をする前にエルフの国が置かれてる状況を何とかしろよと言いたかったが、それどころではなかった。
シャーリーが、勝手にすれば!フンっ!、と言い残して部屋を出て行ったからだ。
ヴェルはニヤニヤした女王を部屋に残し、慌ててシャーリーの誤解を解こうと追いかけて行ったのだ。
その日、ヴェルは重臣たちとの会議まで休む事は出来なかった。
応援よろしくお願いします。




