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106   希望

お待たせです。今回は短いです。

 光魔法によって照らされた通路をコツコツと足跡が響く中、「ああ、疲れた」と瞼の上を親指と中指で押さえながら呟く。

 誰もいない通路で先程までの戦闘を思い出すヴェルは、少しでも疲れを癒そうとしている。

 身に纏ったローブの端々は切れ切れとなり、薄汚れている。

 それが、幾度となく戦闘を潜り抜けてきた証拠である。


「それにしても、何だったんだ?あの悪寒は……」


 ヴェルが気になったのは、戦闘中に何度か・・・凄まじい程の寒気を感じたからだ。

 背中と額に流れる大量の冷たい汗。

 悪寒が走る度に動きが止まり、攻撃を受けていた。

 「病気なのかな?」と不安に駆られるが、寒気の正体はアレクが引き起こしていた事を、ヴェルはまだ知らない。

 不安を払拭するかの如く、首を大きく左右に振って忘れる事にした。


「しかし、次で幾つ目だ?」


 始めはアイアンゴーレムたちが守護する部屋だった。

 次いで、ミスリルゴーレムたち、オリハルコンゴーレムたち、そして何やら得体の知れない粘体状の骨格のない生物、スライムたちだった。

 アイアンゴーレムたちとの戦闘は楽だった。

 全体の動きを見て把握し、肉体強化と魔族の男が使っていた技を使用して勝利した。

 ミスリルゴーレムたちとオリハルコンゴーレムたちも同様にして戦った。

 アイアンゴーレムたちと比べ、動きはほぼ同じ、違うのは強度と数だった。

 守護者たちの部屋に進むにつれ、四体から八体、八体から十六体と倍増して行った。


「ちょっと待て!増えてんじゃねえか!」と突っ込みを入れつつ「よくもまあ、貴重な金属を集めたものだ」と感心していた。と同時に、ヴェルの頭の中には貴重な金属に対する価値観と商人顔負けな金銭欲が素早く計算を始め、口の端を綻ばせている。


 戦闘が終わった後は、ちゃっかりミスリルとオリハルコンを回収するのだった。

 もし、カナが見ていたのなら、また顔が汚いと言われるんだろうなと内心では思っていたが、此処には誰もいないと満面の汚い笑顔を振り撒いていた。

 次の守護者の部屋に訪れるまでは……。


 次の守護者の部屋はスライムたちの部屋だった。

 怪しくドロドロとした蠢く粘体の物体が目に入った瞬間にほくほく顔は凍り付いた。


「え?何これ?」


 そう思ったのも束の間、スライムたちは標的を見つけたと言わんばかりに迫りくる。

 しかも、その数ざっと見繕っても百体以上。

 ヴェルの全身に戦慄が走った。


「何これ?何これ?何これ?」と連呼しながら回避、反撃をするも、このスライムたちは物理攻撃が効かない。


 しかも、部屋には魔法を阻害する魔法陣まで発動している。

 どうする事も出来ずに、ただ闇雲に殴る蹴るの繰り返し。


「キモい!キモい!キモい!」と連呼しながら攻撃するが、殴っては纏わり憑かれ、蹴っては纏わり憑かれ、そして振り払う。


 ヴェルの脳裏に自分がこの粘々したスライムたちに凌辱を受けるイメージが浮かんだ。


「っ!」


「嫌だ!嫌だ!嫌だ!」と内心で叫びつつ、シルヴィ、エマ、カナ、ユイ、そしてシャーリーの顔が頭に浮かび、叫んだ。


「初めての相手は~~~~!!」


 どこかでズッコケる音がしたような気がしたが、迫りくる貞操の危機とどこにぶつけていいか分からない怒りが込み上げてくる。

 そして、それらが限界を迎えた時、キレた。


「この野郎!」


 その瞬間、スライムの一体が爆ぜた。

 ヴェルの拳に纏った凝縮された魔力の塊が爆発したのだ。

 物理攻撃でもなく、魔法による攻撃でもなく、ただ純粋に凝縮された魔力がスライムにめり込んだ時、一気に解放したのだ。

 無我夢中で、ただ只管に目の前のスライムを弾け飛ばす。

 最後の一体を葬り去った時、漸くキレた頭が冷静さを取り戻す。


「何だこれ?」


 それはこっちのセリフである。

 部屋一面に爆ぜたスライムたちの無残なドロドロとした塊が飛散している。

 気付けば体全体にも飛び散っている。

 ムンクの叫びも顔負けな表情で「ひぃぃぃぃぃ!」と奇声を上げながら部屋を飛び出し、即座に水魔法で洗い流し、風魔法と火魔法で乾燥させたのだった。


「最悪だ……」


 通路を歩くヴェルは思い出したくもないモノを思い出して溜息交じりに呟く。


「それにしても、あれはどうやったんだ?」


「確か……、こう……」と呟きながら、スライムたちを弾け飛ばした技を繰り出す。


 その瞬間、バンっと衝撃波が迸り、空気が震え、石造りの通路がビシビシと軋み音が木霊する。


「凄ぇ……」


 戦闘中のキレた頭でうろ覚えでいても、体は覚えていたようだった。

 新たな技の破壊力に体が震えるも「あの魔族の男に目に物を言わせてやる」と闘志を漲らせた。




 魔族の男との戦いをどうやって行うか思案しつつ、通路を歩くと大きな扉が見えてきた。

 扉にはきめ細かな装飾が施され、言葉が綴られていた。


 『試練を超えし者 汝の欲する力を与えよう 願わくば弱き者の為に使われん事を』


 恐らく、師匠の言葉だろうと思いつつ、扉を開ける。

 何もない室内の最奥には祭壇が設けられ、祭壇の上には光り輝く銀色の翼が祭られていた。

 芸術を思わせる美術品の様に美しく光り輝いていた。


「これが、師匠が作った兵器……」


 ゴクリと喉を鳴らして、翼を手に取った。

 バックパックの様に背負って使う形になっており、両翼に伸ばされた翼の部分が射出出来るようになっている。

 翼の部分を構成する羽には魔石が嵌め込まれている。


「フィン・フ○ンネル?」


 恐らく、翼の部分が飛んで行って力を発揮するんだろうな、と思いつつ、試してみる事にした。


「フ○ンネル!」


 別に掛け声はいらない。ただ、何となく言わなければいけない様な気がしたので言っただけだ。

 いらない掛け声と共に射出された翼は、自由自在に宙を舞う。

 思い描いた軸線をなぞる様に飛び交う羽たち。

 考えた事をバックパックを通して羽に自情報伝達されている様だった。

 羽に結界を張る様に指示すると、四枚の羽が一斉に90度に曲がって菱形を形成し、羽の内側に結界が張られていた。

 片翼四枚からなる翼は、両翼で八枚。結界が二枚張れると言う事になる。

 しかも、エルフの森を覆う強固な結界にも似て、非常に強力な結界に見える。


 ――これなら、あの大砲の威力を防げる


 銀欲の翼を眺めつつ、直ぐ様バーナム王国軍が所有する大砲について、戦略プランを組み立てる。


 現在、エルフの森を覆っている結界は女王の姉御が風の精霊と共に張っている。

 バーナム王国軍が大砲を打って来ても二、三回程度なら持ちこたえられるだろう。

 しかし、森の北東の遺跡でバーナム王国軍の大砲を破壊したと言っても、他にいくつ所有しているか分からない。

 分からない以上、この銀欲の翼と俺の結界魔法で防ぐしかない。

 いや、ユイにも結界を張らせて塞がせて、その隙に俺が攻撃を行うかだな。

 問題なのは、兵力の差か……。

 女王の姉御に聞かなければ分からないが、人間種とエルフの種族数からして圧倒的な兵力差が付くのは当たり前だ。

 数は暴力とも言うし、兵力差を打ち破る決め手となる物が欲しいな。


 前世の記憶を頼りに、古今東西の戦術、戦略を考え、決め手となる物を見つけた。


 ――これだっ!


 これならいけると判断し、女王の元へと帰路に着いた。

次回更新日:がんばる……。

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