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105   非力な男たち

お待たせしました。なかなか時間が取れなくて、こんなにも時間が掛かってしまいました。

 歴史を感じさせる絵画、きめ細かな彩色が施された天井や壁、歩き出せば弾むような分厚い絨毯、室内を明るく照らし出す魔道具が、室内の煌びやかさをより一層際立たせている。

 部屋の中央には長方形の大きな机の上に豪華な食事が並べられている。いつも通りのペースを乱さず、いつも通りの優雅さで食事を取っている国王と王妃。

 いつもなら此処で食事をすれば、優越感、満足感を得られるだろう。しかし、今日は違った。やけに重い空気が室内を支配している。

 カチャカチャと決して大きくはないが、食器が擦れ合う音だけが聞こえる。本来、食事は静かに音を立てないように食べるのがマナーであるが、会話のない室内にはやけに響き渡って聞こえる。

 それは、国王と王妃の一挙手一投足に注意深く見つめている使用人やメイドたちの感想だ。

 そんな様子を使用人、メイドたちは何かあったのか?喧嘩でもしたのか?とピリピリと緊張した顔で見守っている。

 しかし、国王と王妃は違った。昨日の夜の痴態を息子であるアレックス王子と娘であるシルヴィア王女に目撃された事を、どの様に切り抜けるかで一杯だったからだ。

 アレックス王子は朝から急用で、シルヴィア王女は気分が優れないとの事で朝食には来なかった事に、内心ホッとしている国王と王妃。しかし、次に会った時に何と声を掛ければいいのか躊躇われる。

 感情の浮き沈みの激しい中、顔には決して出さないのが流石である。国王と王妃は知っている。ポーカーフェイスの重要性を。

 長く王族として、国王として、王妃になるべくして鍛えられた証拠だ。どんな状況下であっても、ポーカーフェイスで切り抜けてきたのだから。


 そうこうしている内に、食事の時間が終わり国王は執務に、王妃は部屋で休むと事で別れた。

 国王は「逃げたな」と内心、王妃に恨めしくも思いつつ、謁見の間に足を運んだ。謁見の間に入ると「おはようございます。陛下」と重鎮たちに囲まれたファーバー宰相が出迎える。


「うむ。おはよう、ファーバー宰相。昨日の事、考え直してくれたかの?」

「はい。昨日はどうかしておりました」

「それは重畳じゃ。突然に宰相位を返上したいと言いおった時は、驚いたぞ」

「申し訳ありませんでした。陛下」

「よい。こうして宰相に留まってくれたのだからな。昨日は頑なに理由を言わなかったが、何かあったのか?」

「いえ、その……シルヴィア様に……」

「うっ、うむ。そうか……すまなかったな」


 シルヴィアと聞いて、ドキッとした国王は咄嗟にファーバー宰相の言葉を制して謝罪した。


「いえ……」


 昨夜の痴態を見られた事に動揺を隠せていない証拠だ。しかし、よくよく考えてみれば、ファーバー宰相が辞めると言い出した後の事だから動揺しても仕方がない。

 思った以上にショックを受けているのだな、と心を落ち着かせてから玉座に腰を下ろした。


「それでは、本日の公務を始めたいと思います。本日はアレックス王太子殿下が緊急に謁見を申し込んでおりますので、先に謁見を始めます」

「うっ、うむ」


 アレックスと聞いて内心ドキリとしたが、シルヴィアの時よりも落ち着いて聞けた事に、漸く耐性が出来たか、と思い安堵した。

 それとも、息子に見られるよりも娘に見られた事の方がショックが大きかったか、と自問自答し始める。


「陛下、どうかされましたか?」


 何かを考え込んでいる国王の表情を見て不審に思ったファーバー宰相は、心配して声を掛けた。


「何でもない。謁見を始めよ」

「はっ!」


 国王の言により、謁見は開始された。


「おはようございます。陛下」

「うむ、おはよう。それで?如何なる要件か?今朝は朝食にも顔を出さなかったようだが?」

「モンシア軍務卿と軍の出陣準備を進めておりました」

「何!?出陣の準備じゃと??何故じゃ?」

「はっ!昨日、ヴェルに、コホン……ヴェルナルド伯爵から報告を受け、可及的速やかに軍の派遣をしなければならないと判断しました。陛下に於かれましては、事後承諾になった事について平にご容赦を願いたく思います」


 内乱が終わり、治安回復や経済、町の復興と仕事が山積みで忙しい中、軍の派遣と聞いて眉間に皺を寄せる国王。


「ふむ……許す。可及的速やかにとは、穏やかではないな。訳を申してみよ」

「バーナム王国は世界征服を企み、侵攻を開始したようです」

「世界征服じゃと!?本気で言っておるのか!?証拠は?証拠はあるんじゃろうな?」

「はっ!ヴェルナルド伯爵の報告では、既にエルフの国に攻め込んだ模様です。しかし、ヴェルナルド伯爵の手によって迎撃に成功したようですが、いずれ軍の再編がなされた後に再び侵攻を開始するかと思われます」

「ふむ……」

「しかし、それだけではエルフの国との交戦が開始されただけで、我が国に攻撃を仕掛けてくると言う事にはなりますまい」


 国王がどうしたものか、と考え込んでいる間にファーバー宰相が口を挟む。


「ええ。勿論、それだけではありません」

「他にも何かあるのですかな?アレックス殿下」

「あります。まず、我が国は内乱発生時よりバーナム王国との国交が途絶えておりました」

「その通りです。だから、内乱終結した今こそ、何度も国交を回復させるべく使者を派遣しているのです」

「それで?その使者たちは帰って来ましたか?」

「い、いや……」

「使者たちが帰って来ない理由、それは我が国に攻め込むつもりがあるからでしょう。それに、密偵の話ではバーナム王国軍の動きが慌ただしいようです」

「それはエルフの国に攻め込むからでしょう?」

「いえ、それでは我が国の方角まで軍を動かすのは些か変かと思われます。ですから、我が軍は防衛の為として軍を可能な限り進軍させて駐留させておいた方がよいかと思われます」


 その後、ファーバー宰相と重鎮達との質疑応答を何度も交わすも、最終的に「あい、分かった。進軍を許可する」との国王の許可が下りた。


「っ!しかし、陛下……」

「もう、よい。ここで議論してても仕方がなかろう。それに、ヴェルナルド伯爵が現地で見聞きした事を報告してきたのだ。信じる他あるまい」

「確かに、ヴェルナルド伯爵は我が国に多大なる貢献を果たしました。しかし、それだけで信用するのも早計ではないでしょうか?それに、一貴族が陛下に対して何の断りもなくエルフの国に赴き、剰え戦争をしているなど言語道断。これは立派な背信行為ですぞ」


 そう答えたのは、貴族院議長ワイフマン侯爵だった。

 貴族院議長、貴族の取り纏め的地位に就くワイフマン侯爵は、反ヴェルナルド派の貴族のトップに君臨する重鎮貴族だ。

 内乱時、男爵であったヴェルナルドが功績を挙げていく中、あまり功績が挙げれずに報奨が少なかった事から不満を抱き、他の功績が挙げられなかった貴族を取り込んで反ヴェルナルド派を立ち上げた。

 実の所、内乱後の報奨に二ヶ月も掛かったのは、ワイフマン侯爵がヴェルナルドの伯爵位昇爵に異議を唱えていたからだったのだ。


「いや、しかしそれは……」

「何だと言うのですか?アレックス殿下。王太子殿下ともあろうお方が、一貴族の暴挙を見過ごせと申されるのですかな?」

「……」

「もう、よい……。ヴェルナルド伯爵の罪を問うのは後にせよ。それよりも我が国が侵略を受けるかもしれない状況じゃ。今は防備を固める方が先決じゃ」

「はっ!」

「……」

「アレックスもそれでよいな?」

「はっ!」

「それでは、アレックス。お前に全てを任せる。以後、アルネイ王国軍はアレックス王太子の指揮下に置く。成すべき事をせよ!」

「「「「「「ははっ!」」」」」」

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「それで?陛下の許可は下りたのですな?」

「はい。モンシア軍務卿。軍の準備はできておりますか?」

「こちらはいつでも出陣できます。他の諸侯にも軍の編成と合流地点を認めた手紙を出しておきますので問題はないでしょう」

「分かりました。では、直ぐにでも出陣しましょう」


 早く王都を離れたい。一刻も早く商業都市アシュクルまで行かないと、何時バーナム王国軍の侵攻が始まるか分からない。

 ……それと、シルヴィたちに捕まると命の危険があるしな……。


「畏まりました」


 出陣の身支度を素早く整え、モンシア軍務卿と合流して出陣した。











 一週間後、商業都市アシュクルに到着したアレックス率いる軍は都市の手前で陣を構えた。

 バーナム王国の間者に備え、表向きは軍の演習を行うとしている為、兵士たちの訓練を行なっていた。

 しかし、その裏ではアレックスとモンシア軍務卿はバーナム王国の動きを探る為に、密かに間者を放ち情報を集めていた。

 いつ攻め込まれても対応できるようにする為だ。敵軍の数、陣容を把握しておかなければ対応できないからだ。

 アレックスとモンシア軍務卿は微に入り細を穿つように作戦を詰めていたが、アレックスにはもう一つ懸念事項があった。

 それは、シルヴィたちの事だった。

 いつもなら、ヴェル絡みであれば無理やりにでも着いて来ようとするが、一向に姿を見せなかったからだ。


――おかしい……、ヴェルが浮気していると誤解している筈のシルヴィたちが何も言わずに着いて来ない筈がない。


 何を企んでいる?と考え込んでいるとモンシア軍務卿と眼が合った。


「どうしました?」

「う、うむ……いや、何でもありません」


 モンシア軍務卿は渋い表情をして視線を逸らす。


――何だ?様子がおかしいな。そう言えば、王都を出てからと言うもの、溜息を吐く事が多くなった気がする。何か悩みでもあるのか?


 時折、深い溜息を吐くモンシア軍務卿の姿を見かける事があった。

 アレックスがどうかされましたか?と尋ねると直ぐに、何でもありません、とはぐらかされてしまう。

 何か悩みがある事は気付いてはいたが、それが何かは分からなかった。


 ……そう思う時期が確かにありました。

 幕舎の入り口が勢いよく開くまでは……。


「いつまで此処に留まる気ですか!?」


 ウェーブ掛かった美しい銀髪の長い髪が特徴的な美少女だった。

 しかし、表情には怒気が伺えた。


「げぇ!シルヴィッ!」


 アレックスは驚きと共に一歩後退る。

 此処にいる筈のないアレックスの妹、シルヴィだったからだ。

 シルヴィはつかつかとアレックスに詰め寄る。


「何が、げぇ!シルヴィ!ですか!?」


 あまりにも怒気が含んだ言葉に、アレックスは更に後退る。


「いっ、いや、シルヴィが何故ここに?」

「私がいてはいけないんですか?」

「いえ、決してその様な事は、ない、よ?」


 冷たい視線に凍り付くような声色に視線を逸らして答えるアレックス。

 視線を逸らしたアレックスの視界には、額に手を当てて天井を見上げるモンシア軍務卿の姿があった。

 どう言う事だ?と問い詰めたくなったが、今はそれどころではなかった。


「何時になったら、ヴェル様の下に行くんですか?」

「い、いや、これはバーナム王国の侵攻に備えて軍を動かしただけだから……」

「嘘を仰らないで下さい!」

「う、嘘じゃないよ。これは本当に……」

「アレックス様、嘘はいけませんわ」


 いつの間にかシルヴィの隣に金髪の長い髪と豊か過ぎる胸が特徴的な美少女がいた。

 モンシア軍務卿の孫娘、エマだった。

 とても優し気な笑顔をアレックスに向けてはいるが、眼は笑っていなかった。それどころか、背後には何やら黒い影が見える気さえした。

 背筋に冷たい物を感じながら救済を求めるようにモンシア軍務卿に視線を向けるが、視線を逸らされてしまう。


――ちょっ!お前の孫娘だろ?何とかしてよ!?


「聞いてるの?アレク君」


 エマとは反対方向のシルヴィの隣から声がした。

 茶髪のボブショートが良く似合うボーイッシュな美少女、カナだった。


「はい。聞いてます。本当です。ヴェルからの連絡でバーナム王国の侵攻に備えて軍を動かしているだけです」


 早口だった。

 よくもまあ、舌も噛まずに言えたものだと内心、自分に感心してしまったが、シルヴィたちの無言の圧力で身が凍り付く。

 暫く見つめ合った後、シルヴィ、エマ、カナは揃って舌打ちを鳴らした。


――え?え?え?今、舌打ちした?シルヴィが?エマも?カナまでも??あれ?あれれ?


 気のせいだよね?と困惑しているとシルヴィたちは無言で幕舎を出て行った。

 助かった、と安堵しつつ、モンシア軍務卿に視線を向ける。


「仕方がなかったんじゃ……」

「……何がです?」

「いつの間にか行軍に着いて来ていて……」

「何故、追い返さなかったんですか?」

「では、アレックス様は言えますか?あの三人に……」

「バーナム王国の侵攻に備えて、国境の守りに誰か派遣した方がいいと思いますが、如何でしょう?」


 話題を切り替えた。











 言えるわけないじゃないか……。

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