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104   やるせない気持ち

お待たせしました。毎日、仕事に追われて疲れてきってしまって、なかなか思う様に予定が進みませんでした。すみません^^;

 夕日が大地に沈み暗くなりかけた頃、廊下の端を静かに歩く人影がいる。

 両手をお腹の辺りで組みながら決して急がず、そして遅すぎない速度で歩みを進める。

 紺色の足首まである長いスカート丈を僅かに揺らしながらメイドは進む。

 向かう先はアルネイ王国第一王子アレックスの部屋。


 アルネイ王国の王族は日が沈んだ頃に揃って食事をするのが習わしである。

 勿論、絶対ではない。王や王妃、そして王族にはそれぞれに合ったそれぞれの仕事を抱えている。仕事で食事に遅れそうな時は、予め遅れる旨を連絡しておけば問題はない。


 その夕食の時刻が迫った事を告げに向かっている。メイドは扉の前まで来ると深呼吸をしてからノックをする。

 扉の前で深呼吸をしたのは、相手が王族であり次期国王と呼ばれるアレックスである事の緊張感からだ。決して気軽に声を掛けれる相手ではないからだ。王子とメイドの身分差があり過ぎるのを自覚している証拠であり、仕えている主人――国王――のご子息なのだから無礼があってはならないからだ。

 緊張した面持ちで返事を待つが、一向に返ってくる気配がない。もしかして、どちらかに出向かれたのかと思ったが、アレックス王子が自室にいると言う事は確認済みの筈だから、ノックが聞こえなかったのかもしれないと思い、もう一度扉に向かってノックとする。

 しかし、返事は返って来ない。いつもなら直ぐに返事が返ってくのだが、一向に返事が返って来ない事にどうしたものかと考えを巡らせるが、答えは出てこない。

 王宮に仕えるメイドは、下級貴族の令嬢――それも三女か四女辺りの末っ子――だ。一応最低限の教養と学識を学んではいるが、こういう時はどうすればいいのか即座には思いつかない。

 もしかしたら、部屋で人には言えない何か・・をしている可能性だってある。王子と言っても、まだ12歳の男の子だ。そういう事もあるのかもしれないと興味本位に考えたが、いつまでもこのままではいられない。王族揃っての食事の時間に遅れてしまうからだ。

 そう思って、意を決して行動に出る。


「アレックス様、夕食のお時間で御座います」


 出した答えは、扉の前から声を掛けるだった。

 しかし、いくら待てども返事は返ってこない。メイドは再び決断を迫られる。扉を開けてもよいものか、と。

 部屋の主人の言葉を聞かずに扉を開けるなどあってはならない事だ。それも相手が王族で次期国王なのだから、不敬罪に問われても仕方がない事だ。


 メイドは逡巡する。


 いつもならノックをしたら直ぐに返事が返ってくるが、返事がない。もしかしたらいない可能性もあるのだが、何か問題があって返事ができないのかもしれない。このまま扉を開けて、先程考えていた事を目撃して不敬罪に問われるか、このまま一旦戻ってアレックス王子が何処にいるのかを再確認してから、もう一度夕食の時間だと告げに来るかを……。

 しかし、ここで戻ってアレックス王子の居場所を確認していたら、間違いなく夕食の時間には間に合わないだろう。間に合わなかったらメイド自身が罰を受ける事になる。

 どちらにせよ、メイドにはよくない事が起こるだろう。

 仮に、前者なら黙っていると言えば咎められる事はないのかもしれない。この身を差し出せと言われるかもしれないが、それでもいいと思えるだろう。

 元々は下級貴族の末っ子であるメイドは婚約者もいない行く当てもない身の上なのだから、次期国王と呼ばれるアレックス王子の手籠めにされて寵愛を受ければ一生を安泰に過ごせるだろう。いや、もしかしたら側室や愛妾にでもなれるかもしれないと淡い期待を抱きもする。

 しかし、相手は清廉潔白と言われるアレックス王子だ。そんな事をするだろうか、との考えも過ったが、淡い期待と王子の痴態に興味を引かれたメイドは喉をゴクリと鳴らして扉に手を掛けた。


 キィィィィとゆっくりと音を鳴らしつつ部屋の中を覗き込むが、部屋の中は暗く、やっぱりいなかったか、と安堵する気持ちと少しだけ残念だと思う気持ちに肩を落としつつ、立ち去ろうとしたが部屋の中央付近に人影らしき影を目撃した。

 メイドは一瞬、ぎょっとしたが、相手は座り込んで動こうともしていなかった為、気持ちを落ち着かせて恐る恐る近づき、人影の正体を確認するとメイドは驚いた。

 そこには正座したままの姿で気を失っているアレックス王子だったからだ。


「あっ!アレックス殿下!」


 しかし、返事が返ってこない。

 自分は何て馬鹿なんだ。いかがわしい事をしていたんじゃない。ご病気で倒れたんだと考えを改めてアレックス王子に触れる。


「アレックス殿下!アレックス殿下!」


 アレックス王子の肩に手を置いて揺さぶり始める。


「ん……、誰だ?」

「よかった!アレックス殿下、お気づきになられましたか?私です。メイドのマリューシャです」


 返事が合った事に安堵したメイドは続いて声を掛ける。


「どうされました?何かあったのですか?ご病気ですか?それなら早く治癒を扱える魔法士を呼んでまいります」

「……ああ、いや、大丈夫だよ」

「本当ですか?」

「大丈夫だ。今は何時だ?」

「夕食のお時間でございます」

「……そうか」

「ご気分が優れないのであれば、お食事を運ばせますが?」

「いや、それには及ばない。夕食には行けないと伝えてくれ。僕は行かなければならない所がある」

「畏まりました。ですが……よろしいのですか?」


 メイドはアレックス王子の顔色と力ない素振りに心配した表情で尋ねる。


「ご病気でしたら、治癒魔法を扱える魔法士を呼んでまいりますが……」

「いや、大丈夫。ありがとう。でも、心配は無用だ」

「畏まりました」


 手を払いのけるようにメイドに退室を促し、アレックス王子はよろよろと立ち上がった。


「それでは、失礼致します」

「ああ……」

「くれぐれもご無理はなさらないで下さい」

「気を付けるよ」


 メイドの心配に気遣うように答え、退室するメイドの後姿を確認してからアレックス王子は呟いた。


「あ、足が……ジンジンする……」






 足をよろめかせながら廊下を歩く。


「マリューシャに悪い事をしたかな?……しかし、シルヴィとエマ、カナにやられました、なんて正直に言えないしな……。後で謝っておくか」


 しかし、あの場で正直に言えば『はぁ?お前、部屋で何してんの?って言うか何したの?』なんて思われたくもないし、王子としての威厳が……ないかもしれないけど、それでもやっぱり体裁が悪い気がする。

 そんな事はさて置き、今はやるべき事をしなくてはならない。一刻も早く、モンシア辺境伯に連絡して軍を動かさなければならない。


 雷に打たれたような痛みを我慢しつつ、麻痺して重く感じる足を進めながら軍の詰め所に向かう。


「これは、アレックス殿下!ようこそお出で下さいました」


 詰め所前を警備している兵士がアレックス王子に気付くと慌てたように敬礼をしながら出迎える。


「うん。モンシア軍務卿はいるか?」


 未だ痺れが取れない足を気丈にも奮い立たせて兵士に尋ねる。


「はっ!まだお帰りにはなっておられません」

「そうか。では、面会を申し込む」

「はっ!畏まりました!少々、お待ちください」

「うん」


 額に汗を浮かべながら、足から感じる雷の衝撃をひたすらに耐える。


「お待たせ致しました、アレックス殿下。こちらへどうぞ」

「うむ」


 詰所から出てきた秘書官に相槌を返し、足に鞭打って歩き出す。


(ぐぬぬ……あ、足が……このままでは耐えれない!何か!何か他に集中できるようなものはないのか!?)


 そう思ってきょろきょろと辺りに視線を向けると、一際光り輝く存在に目を奪われた。


(こっ、これは……。なんて綺麗なヒップラインなんだ!)


 ……アレクも男の子である。


(キュッと引き締まっているが、プリッとした丸みのある形!正に、理想のヒップラインだ!)


 ……もう一回言おう、アレクも男の子である。


 秘書官の男を誘うようなプリッとした綺麗なお尻が動きを止める。

 一瞬、見ていたのがバレたかと思い、秘書官を見るが、コンコンと扉をノックしている。

 内心、ホッと安堵の溜息を漏らすが、秘書官とモンシア軍務卿の応答の後、立ち去ろうとした秘書官の表情がアレクを氷漬けた。

 口元を綻ばせながらにこっと笑う秘書官の顔が『お見通しですよ?』と物語っていた。


(あれが……大人の女性か……。何か凄いな。大人の女性としての余裕か?シルヴィ達にはない魅力だな……)


 そんな事を想いながら、秘書官の後姿に視線が離れない。


「アレックス様?如何なさいましたか?」

「いっ、いや、何でもないよ」


 一瞬、ドキッとしたが、何とかモンシア軍務卿に言葉を返した。


「さぁ、中にどうぞ」

「はい。うがっ!」

「どうされました!?足が生まれたての小鹿の様ですぞ!?」


 忘れていた……。足が痺れていたんだった!


「いっ、いや……ちょっと……何でもないです……」

「そっ、そうですか……。肩をお貸しします」

「ありがとうございます」


 モンシア軍務卿の肩を借りて、漸くソファーに腰を下ろすと先程のヒップラインが輝くほどに美しい秘書官がお茶を持ってくる。

 内心、ひやひやさせつつ、秘書官を見ると……くすっと笑顔を見せて、ごゆっくりどうぞ、と答える。

 その表情に心を奪われそうになりながらドキドキした気持ちで答える。


「あ、ああ。ありがとう」


 いえ、と相槌を打って退室する秘書官を見送るとモンシア軍務卿が答える。


「アレックス様も男の子ですな」

「なっ!」


 妙ににやにやした表情のモンシア軍務卿の顔に言葉を詰まらせてしまう。


「べっ、別に何も疚しい気持ちでは……」

「分かっておりますとも……。よく、婿殿も見ておられますからな」

「っ!」

「それも……食い入るように……」


 ああ、ヴェルは正直に生きているからな、と納得した。


「女性は視線に敏感ですからな……。アレックス様もお気をつけて……」

「……はい」


 やっぱり……気付かれてたか……恥ずかしい……。


「それで?今日はどうされました?」

「ああっ!そうだった!!こんな事をしている場合じゃなかった!!」

「どっ、どうされました!?」


 急に大声を出した事に驚いたモンシア軍務卿にヴェルからの連絡が合った事を報告した。


「~~~、と言う事で緊急事態になっているようです」

「……なるほど……世界征服ですか」

「そうです。それでどうすればよいかを相談しようと思って……」

「これは、不味い事になりましたな……」

「至急、軍を動かさなければなりません」

「ええ、そうでしょうな……。しかし……未だ攻められていない状況では国境に兵を送る事はできません」

「敵対行動になるからですか?」

「その通りです。今現在の状況で国境に兵を増員すれば、立派な敵対行動と見做されてバーナム王国に攻める口実を与えてしまう事になるでしょう」

「なら、どうすればいいんです?このままではいつ攻められてもおかしくない状況ですよ?そうなれば被害が拡大し、民たちが犠牲になってしまいます」

「分かっています」

「だったら、すぐにでも軍を動かさないと!」

「まあ、落ち着いてください。軍を動かしにしても直ぐには無理です。準備が要りますからな。それに、国王陛下のご許可も頂かねばなりません」


 そうだった。少し熱くなっていたみたいだ。父上の許可なくして軍を動かせるわけはない。


「父上なら、僕が理由を説明して許可を貰います。だから、モンシア軍務卿は軍の準備を早急にお願いします!」


 じゃないと僕の命がヤバい!大至急、シルヴィ達から離れないと……。


「分かりました。では、準備に取り掛かりますが、軍は国境には向かいません。その手前にある商業都市アシュクルまでです」

「それで構いません。よろしくお願いします」

「畏まりました」


 その後、軍の行動予定を打ち合わせてから国王である父上と王妃である母上の部屋に向かった。






 灯りを灯す魔道具に光が差す室内に王と王妃はベッドに腰掛けていた。


「のう、ファーリシア」

「何ですか?あなた」

「子供たちはいいのう。実に生き生きとして可愛いものじゃ」


 唐突に言葉を掛ける王の顔には言いにくそうに眼を泳がせていた。


「そうですわね。孤児院の子供たちも可愛かったですわね。……それが何か?」


 孤児院の子供たちを思い出し、その仕草、愛らしさに胸を躍らせながら答える。


「う、うむ……その……子供は可愛い。どうじゃ?その……もう一人ぐらい……いてもよかろう?」


 そう言った王の視線は王妃の瞳を真っすぐに見つめている。


「まあ、あなたったら……私はもう、こんなに年を取りました。子を産むには些か遅いように思いますわ」


 突然のお誘いに驚きつつも体をもじもじとくねらせて恥じらう王妃。


「何を言う!其方は美しい!そして、こんなにも若いではないか!?」


 そんな王の言葉に、真っすぐに瞳を見つめてくる姿に久しく忘れていた女の部分が疼き出す。


「そんな……子犬のような目をしないで下さい。火照ってしまいますわ。」

「よいではないか。愛しているぞ、ファーリシア」

「嬉しい事を言ってくれますね。それに……こちらも随分とお元気ですわね」


 そう言って王の股間に手を添える王妃の瞳には、久しぶりの行為に期待と興奮の色を浮かべていた。

 王のヤル気が十分に満ちた頃、勢いよく扉が開かれる。


「父上!」

「「……」」


 室内が凍り付いた。

 室内にいるのは三人。この国の国王、王妃、そしてアレックス王太子。その誰もが固まったかのように身動き一つせずにいた。

 それもその筈である。国王は王妃の服を一つ一つ流そうとしている。

 王妃は王妃で国王の国王を愛おしそうに触れているのだから……。

 そんな状況を目の当たりにしたアレックス王太子は後悔した。ノックすればよかった、と……。勢いよく扉を開けるんじゃなく、ノックしてから入室の許可を取ればよかった、と……。

 何故、勢いよく扉を開けて入室したのかには理由がある。妹であるシルヴィアだ。食事が終わったシルヴィアはアレックスを捜していたのだ。

 国王と王妃の部屋を訪ねようと向かっていたアレックスは、それを察知したのだ。またお説教を受けるんじゃないか、と恐怖し、逃げるように隠れ潜み、歩を少しずつ進めていたのだ。

 しかし、シルヴィアの勘はニ○ータイプを思わせる程、正確に追跡してくるので、いたたまれずに慌てて飛び込んだのだ。


「なっ、何か用か?アレックス……」

「……い、いえ……明日にします……」

「うっ、うむ……そうしてくれ……」

「……はい……父上……それでは、失礼します。おやすみなさい、父上、母上……」

「うむ……」

「はい……」


 そう言うとアレックスは奇怪な動きをしつつ、静かに退室して行った。


「「……」」


 暫くの沈黙の後、何事もなかったように再び始めようとする国王。

 すっかり萎んでしまった国王の国王に優しく愛撫し始める王妃。

 十分に熱くなり出した国王の国王に逞しさを感じる王妃の元に再び魔の手が忍び寄る。


「お父様!お母様!ここにアレク兄様が……」

「「……」」


 再び勢いよく開け放たれた扉に、室内が静寂に包まれた。

 そして、シルヴィアは静かに扉を閉じた。


「……今日は……もう、寝ようか……」

「……そうですわね……」




















 その後、王宮では礼儀作法を強く徹底する事を厳命された。

 ……特に、扉の開け方を……

率直な意見、ご感想をお待ちしています。時間の都合上、返事は返せるか分かりませんが、時間が掛かってもなるべく返そうと思います。

皆様の応援、よろしくお願いします。

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