103 今日は終わらない
僕は一体何をしているんだろうか?アルネイ王国の第一王子……次期国王として、アルネイ王国の良き統治者になる為に国政の勉強をしていた筈なのに………どうしてこうなった!?
目の前に仁王立ちで酷くお冠の我が妹…シルヴィ。
そしてその横に笑顔を崩さないエマさん……でも……その笑顔がとても冷たい……。きっと、蛇に睨まれた蛙はこんな気持ちなんじゃないだろうか?
カナさんに至っては、ひしひしと伝わり漂う魔力のオーラ……目を合わせたら石化するんじゃないかと考えが過る……。
頼みの綱のファーバー宰相はさっさと白旗を上げて部屋を出て行くし……取り残された僕はまさに四面楚歌……孤立無援状態だ。
仮にも、あの内乱を戦い抜いた筈の僕でも、この戦況を覆す事はできない。まあ、戦い抜けたのはヴェルが居たからなんだけど、それでも戦争の経験を積んだんだ……何もできないわけじゃない。
そう思いたいが、思える空気じゃない……。
「聞いてますか!?アレク兄様!」
「はいっ!聞いております!シルヴィアさん」
「ヴェル様の浮気の片棒を担いだんじゃないですわよね?」
「滅相もございません!ヴェルはエルフの国を救いに行ったんです。エマさん」
「怪しい……」
「本当です!信じてください。カナさん」
「本当の本当に?」
凄い疑われてる…。
「本当の本当にです」
「本当の本当の本当に?」
しつこい…。
「本当の本当の本当にです」
「本当の本当の本当の本当に?」
だああああああ!本当だって!信じてよ!
「本当の本当の本当の本当にです!」
しまった!少しイラついて声が大きくなり過ぎた…。
「アレク兄様…何ですか?その態度は?ご自分の立場が分かってらっしゃらないようですね?」
「いっ、いえ、決してその様な事は御座いませんです。はい」
「私の親友に何て物言いですの?見てみなさい!カナさんが怯えてらっしゃるじゃないの。ああ、カナさん…お可哀想に……」
「うぅ……アレク君、酷いよぅ……か弱い女の子に大声を出すなんて……」
嘘つけ!白々しい……何だそのあからさまな反応は!?涙を拭う振りをしないで……。
「申し訳ありません。私の不徳と致すところで御座います」
そんな事は、当然言える訳もなく謝罪するしかない。
何たって僕は一人……相手は連携の取れた三人だ……当然、勝てる訳もなく……。
ヴェル……これが三人一組の新戦術なんだな……予想以上の効果を発揮しているよ。だから、あの内乱でも有利に事を進める事ができたんだな……。
「分かればよろしいんですのよ。カナさん、大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫……グスン…」
だから、嘘泣きは止めて……嘘と分かっていても心が痛むから……抉られるから……。もう既に僕のHPはレッドゾーンに突入してるから追い込まないで下さい。
「それで……アレク兄様」
「何でしょうか?シルヴィアさん」
「その……アルフォンでしたっけ?」
「はい。ヴェルから預かった非常用遠距離通信機アルフォンで御座います」
「貸して頂けま「勿論で御座います」すか?」
僕はシルヴィにアルフォンを早急に、即座に手渡した。それも自分の限界を超えたんじゃないかと思うほどの速度でだ。
『プッ、プルルルル』
何で使い方知ってるの?それも手慣れた感じで、さも当たり前のように使いこなしている。
シルヴィって……すげぇ……。
「はい?」
「ちょっとヴェル様!」
うはっ!第一声から雷が落ちた。
「なっ、何でしょうか?シルヴィアさん…」
「これは一体どう言う事ですか!?」
「えっと…、何がでしょうか?」
「何がじゃありません!」
「はいっ!」「ひっ!」
姿勢を正して勢いよく返事する。
「シャーリーを送ってくるだけって言ったじゃないですか!それが何ですか!?エルフの国とバーナム王国の争い事に巻き込まれているってどう言う事ですか!?」
「はいっ!ごもっともなご意見でありますっ!」
「…どう言う事ですか?」
「はい…それはですね…えっとですね…」
「はっきり言いなさいっ!」
「はいっ!」
……ヴェル、すまない。
人生って……時には辛く…時には嶮しく…時には……人間としての無力さに打ちのめされる。男って、弱い生き物だと痛感するよ。
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……あれ?今、チャンスじゃね?シルヴィはヴェルとお話し中……エマとカナはシルヴィの言葉に相槌を打ってこちらを見ていない。
……今がチャンスだ!この閉鎖された重苦しい空気が漂う密室から脱出するのは、今を置いて他にはない!
ヴェル、骨は拾ってやる……。次期国王として……いや、親友として後で骨は拾ってやるからな。迷わず成仏してくれ……。
秘技!いつの間にかドロン!
抜き足……差し脚……忍び
「アレク様?」
っ!何故バレタ!?そしてこの声はエマ!
「いえ、アレックスさん……どちらに行かれるんですの?」
何故、言い直す?何だこのプレッシャー……。怖い…後ろを振り向きたくはない。しかし、ここで無視できるあろう筈がない。
『ギギギ』と錆びついた機械のように首を回して後ろを振り返った。
ひっ!あわわわわわ
「おっ、お気づきでしたか……」
「私を誰だとお思いですの?ヴェル様より鍛えて頂いた結界魔法使いですわよ?舐めてもらっては困りますわ」
いつの間に結界を!?暫く見ない間に腕を上げているな……いや、それよりも余計な事をしてくれたな!ヴェル!
「もう一度、お伺いを致しますわ。ど・ち・ら・に?」
「いっ、いえ……おっ、おトイレに行こうかと……思いまして……です、ね」
「おトイレぐらい我慢なさい!殿方でしょ?我慢できますわよね?」
不味い不味い不味い……。ここから抜け出せるチャンスはないのか?いや、情に訴えれば何とかなるかもしれない。
そうだ!姑息…コホン、何も告げずに出て行こうとするからダメなんだ。素直に退室の許可を願い出れば行けるんじゃないのか?幸いにも、今はヴェルに災いが向いているようなんだし、ここは正攻法で行けば……。
「そっ、それが我慢の限界でして……行かせてもらえないでしょうか?」
「アレックスさん……」
やめて……そんな憐れんだ目をしないで……。痛い……心が痛いから、止めて下さい。
救いの女神は?救いの女神はいないのか?誰か僕を助けてくれる心の綺麗な方はこの場には居られないのですか?
カナ!君なら分かってくれるよね?お願い……助けて……。
「まあまあ、落ち着いてよ。エマ」
おおぉぉぉ!助けてくれるのか?ここに救いの女神が居たんだな。
「一応、アレク君は次期国王なんだし、ここでお漏らしさせたとか聞こえが悪いからさせてあげよう」
カナー!やっぱり持つべきものは友達だな!……ん?させてあげよう?行かせてあげようの間違いなんじゃないのか?どう言う事だ?
「はい、アレク君」
「……え?」
「これにどうぞ、アレク君」
「は?え?は?」
「どうしたの?アレク君?早くしないと漏れちゃうんでしょ?」
「……あ、あの……これ、コップ……」
「ああ、ごめんね。気付かなかったよ」
ですよね?コップは流石にないよね?ボトラーならぬコプラーはないでしょ。それもこんなに小さなコップじゃ溢れちゃうよ……。
いや、問題はそこじゃない!
ザバァ
ん?カナさん……花瓶をひっくり返して何をしておられるんですか?
「流石にコップじゃ、あれだよね?これなら大丈夫だよ」
悪魔か!お前は悪魔か!
「あの……カナさん……」
「ん?何かな?アレク君」
僕は悟った。こいつらは逃がす気はないのだと、ヴェルと同罪であると言う事だ。
「いえ、我慢します」
「そう?残念だね」
何がだ!?そして何だそのニヤついた黒い笑顔は!?こいつ……わざとだ……故意的に僕を追い込んできている。
何故だ!?何故、僕までこんな目に合うんだ?ヴェルに協力したからか?でも、それはバーナム王国の動きが怪しいからであって……いや、そうじゃないな。この方々はそれを怒っているんじゃない。
皆に内緒でシャーリーとエルフの国に向かった事、そしてそれを内緒にしていた僕に怒っているんだ。3人からすれば、これは裏切り行為に見えているんじゃないだろうか?
そうだな……覚悟を決めよう……。ヴェルもいつも言い訳をしていたが、最後の最後は諦めていたしな……。抵抗は無駄だと言う事か……。
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綺麗な夕日だな。雲一つない穏やかな天気に夕日が空を赤く染める。そして、そんな空の向こうには鳥が3羽程飛び交っている。
気持ちよさそうだな……。あれは……ワイバーンかな?いや、ワイバーンだったら王都が危ないな。じゃ、トサカトリかな?いや、トサカトリはあんなに高くは飛べないだろう。
それも、どうでもいいか……僕も鳥になりたい。鳥になって、どこまでも続くあの澄んだ大空を自由に飛び回ってみたい。
「聞いていますか!?アレク兄様!?」
「はい!勿論で御座います。仰る通り、私目が悪う御座いました。今後、このような失態を犯す事の無いように精進致す所存であります!」
「本当ですの?信じられませんわね」
「アレク君、もうしない?」
「決して致しません。あれはヴェルに脅されて仕方なく、そう!仕方なくです!もう、金輪際嘘は吐きません」
「そうですか……ヴェル様はアレク兄様を脅してまで浮気を……そうですか……あはははははははは」
くっ!怖い……。もういっその事、殺してください。
「分かりましたわ。早くヴェル様にお会いしたいですわね。うふふふふふふふふふ」
女性を敵に回してはダメだ。ヴェル……すまない……僕はもう戦えそうにない。
「仕方ないね。今日はここまでにしといてあげるよ」
今日は!?まだあるの!?早くモンシア辺境伯に話を通して直ぐにでも出陣しなきゃ!もういやだ、いやだ、いやだ、いやだ!生きているのがこんなにも辛いなんてもういやだ!あは、あははは、あははははははは……。
無言で顔を白くしている僕を置いて、3人は黒い笑顔と共に部屋を去っていった。
それと同時に僕の意識は消失した……。
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