102 アレクの長い一日
お待たせいたしました。あまり更新できずに申し訳ありません。
時は少し遡る
アルネイ王国王宮内の一室に、老人と少年が肩を並べていた。
「~であります」
「なるほど。よく分かりました」
「少し、休憩と致しましょうか。アレックス様」
休憩か…正直、有り難い。内乱が終わってからと言うもの、忙しい毎日だから疲れた…少し根を詰め過ぎたかもしれないな。
「そうですね。ありがとうございます。ファーバー宰相」
「次期国王と成られるアレックス王太子殿下の頼みとあらば、このファーバー尽力は惜しみませんぞ」
ファーバー宰相も内乱後の今が一番忙しい筈なのに協力してくれて助かる。
「忙しい中、ありがとうございます」
「いえいえ。しかし、12歳で国政を学びたいとは感服致しました。アルネイ王国の未来は明るいですな」
「いえ、僕はまだまだです。もっと国の事をよく学ばなければ国を治める事なんて出来ません」
「いやはや、ご立派ですぞ。それでこそ、次期国王と成られるお方の器ですな」
そうだな。僕は次期国王だ。こんなところで弱音を吐いている場合じゃないな。少しでも国政について学ばなければならない。
「精進します」
「頼もしい限りですな。時に、急に国政を学びたいと仰られた時は驚きましたが、何か理由でもおありですかな?」
理由か…理由ならある。僕にはどうしても肩を並べて行きたい相手がいる。
「そうですね。負けたくないからでしょうか」
「負けたくない?何にです?」
「ヴェルにですね」
「ほう…グナイスト伯爵殿にですか」
そう、ヴェルにだ。ヴェルに負ける訳にはいかない。
「はい。ヴェルは凄い。僕より1つ年下なのに強力な魔法を巧みに扱う魔法使い。それだけでも尊敬されて凄いのに、もっと凄いのはその知恵です」
「確かに…。グナイスト伯爵は内乱時11歳と幼いにも関わらず、戦術、軍の指揮、魔法士達の軍事教練…そして何よりも軍の士気を上げる際に見せた…その弁舌…。将来が末恐ろしくなりますな」
確かに…ヴェルの将来はどんな人物になっていくのか非常に興味深い。でも、それだけじゃない…ヴェルの凄いところはそれだけではないのだ。
「ええ、そうです。しかも、それだけではありません」
「商才でしたかな?」
「それもあります。ヴェルはこの国にない魔法の知識で新しい魔道具、美術品等で成功を収めています。それはもう周知の事実ですが、ヴェルはそんな事を気にもしていません。そして、資金的に苦しい孤児院を助けてほしいと頼んだら、悪徳商会の摘発をして治安をよくしてくれた。僕が頼んだのはここまでだった」
「と、言うと?」
「僕が救ってほしいと頼んだのは、孤児院の借金と弱みに付け込む商会の排除。しかし、ヴェルは孤児院の将来の事まで考えて行動を起こした。そればかりかスラム街の雇用問題まで解決した。ヴェルはいつもいつも予想を遥かに上回る結果を出している」
「だから、負けたくないと?」
「そうです。これからも対等の友達として付き合っていきたい。その為にも、僕はこのままじゃいけない。少しでも追いつけるように…追い越せるように成長しなければならない。それは…引いては王国の将来の為にも繋がると信じています」
「ふむ…。よきライバルですな。」
ライバル…そうかもしれないな。僕の先にはいつもヴェルがいる。だからヴェルを目標に…いや、ヴェルを超える男にならないとだめだな。自己研鑚ではなく、相互研磨できる関係にならなければならない。
「ライバル…そうですね。僕は、ヴェルのライバルに成りたい。親友とも呼べるヴェルと共に歩いて行けるようにね」
「では…頑張りませんとな」
「そうですね。負けてはいられませんね。続きを始めましょうか」
「その意気やよし…と言いたいところですが、お疲れのご様子ですぞ?あまり根を詰めても身には付きますまい。もう少し体を休めてから再開致しましょう」
確かに、ファーバー宰相の言う通りだ。最近は忙しい日々が続いている。学業、生徒会、内乱後の王国の内政と今後の見通し予測。そして国政の勉強…根を詰め過ぎだな。部屋で少し休むかな。
「分かりました。では、少し部屋に戻ります」
「畏まりました」
自室にソファーにドカッと腰掛ける。
やはり、疲れが溜まっているようだな。体がやけに重く感じる。ハァ…やっぱり自分の部屋はいい。ここ最近は、ずっとあちこちに出向いていたから体が悲鳴を上げている気がする。色々と忙しかったからな…。
ヴェル…エルフの国に向かってから連絡がないけど、大丈夫なんだろうか?こちらから連絡をするにも気が引けるし、もし不味い状況だったら不味いしな…。まあ、連絡がないなら大丈夫なんだろうと思う。ヴェルだしな…何とか上手くやっているだろう。
『プッ、プルルルルル』
何だ!?この音は!?
ああ、ヴェルから貰った遠距離通信機アルフォンからだ。
ん?ヴェルは緊急用と言っていたな…。もしかして…何かあったのか!?危機的状況なのか!?
慌ててアルフォンに手を伸ばし、覚悟を決めて通話ボタンを押した。
「どうした!?ヴェル。何か問題でもあったか?」
「アレクの女ったらし!」
何でだよ!?緊急だと思って心配したのに、第一声がそれか!?ふざけてるのか!?それとも何かの暗号なのか?一体、どう言う意味なんだ!?って言うか女ったらしの暗号って何?それよりもヴェルには言われたくないなぁ。
『プッ』
切りやがった!あの野郎、切りやがった!…言葉が汚かったな…。言いなおそう…、あのボケ様はお切りになりやがりました。…あれ?僕、動揺してる??
『プッ、プルルルルル』
「はい、もしもしぃ?」
雑!雑に返答しやがった!このボケ様は…。
「いきなりなんだよ?ヴェル。それに何か棘のある返事だな?」
「何でもないよ…。ちょっと女ったらしのアレクに話したい事があってね」
どの口が言いやがりますか!?僕が女ったらしだったら、ヴェルは何なんだ?天才ジゴロか?好色王か?ああ、そう言えばヴェルの二つ名にも好色王ってあったっけな…。
「ヴェルに言われたくないよっ!って言うか何だよ?」
「何でよ?」
本気で言ってる?…ヴェル、それはないよ…。シルヴィ、エマ、カナ、それにユイちゃんもだな。好色王の名は伊達じゃないね。
「…胸に手を当てて考えてみれば?」
「…ごめんなさい…」
「分かればよろしい…」
本当に分かってるのかね?ヴェルは頼りになるけど、そっち方面ではダメダメだからな…。
「実は、バーナム王国の動きが分かった」
っ!本当か!?
「何っ!?どう言う事だ?」」
「バーナム王国は世界征服を企んでいるようだ」
「っ!それは本当か!?」
世界征服…だと…?本当なのか?信じられない…。いや、ヴェルの言う事だ…嘘じゃないと思う。しかし、俄かには信じられない。王国に攻めてくる可能性は高いと思っていたが、まさか世界征服を目論んでいたとは驚きだ。たった一国だけで世界征服何てできる筈がない。もしかして、裏で他の国も絡んでいるかもしれない。
「ああ…。至急、国境の警備を固めてくれ。それといつでも軍を動かせるようにしておいた方がいいかも」
そうだな…。ヴェルの言う事が本当なら、これは由々しき事態だ。直ぐにでも軍を動かさなければならなくなるかもしれない。しかし、国境に軍を配備すればバーナム王国に攻める口実を与えるかもしれない…。これは慎重に成らざるを得ない。モンシア辺境伯に相談しなければならないな。
「わかった。モンシア辺境伯に伝えておく」
「後な…アレク…」
まだ何かあるのか?これ以上頭の痛くなる事は御免だけど…仕方がないな。
「何だ?」
「バーナム王国の裏で糸を引いている男のがいた」
裏で糸を引いている男だと?そいつがバーナム王国を唆した?いや、一人でバーナム王国を動かせる筈がない。他国の間者か?
「何者だ?」
「魔族だった」
「っ!大丈夫なのか!?」
魔族!?魔族が裏で絡んでいる?内乱の時と同じじゃないか…。魔族の後ろ盾があれば世界征服に踏み切るのも頷ける。これはきな臭くなってきたな…。
「分からない…。でも、何とかするさ」
何とかするって…ヴェル、まさかまた一人で相手にするとか言うんじゃないだろうな?危険すぎる…。内乱の時の魔族もかなりの強敵だった筈だろ?また無茶をするつもりだな?
「…ヴェル…、分かっているとは思おうが…」
「アレク達は国境を越えられない。だから無茶はするなって言いたいんだろう?」
分かってるじゃないか…。僕達は国境を越えられない。軍を率いて国境を越えれば、こちらから戦争を仕掛けていると大義名分を相手に与えてしまう。いや、そればかりか他国を巻き込んで連合軍を組織するかもしれない。それは不味い。そうなれば、戦いは長期化する…折角、内乱が収まったと言うのにまた戦争起これば国民にどれだけの負担を強いる事になるか分かったものじゃない。それだけは何としてでも阻止しなくてはならない。
「…そうだ…。くれぐれも無茶はするなよ?」
「分かっているさ…」
本当かよ…。ヴェルは巻き込まれ体質だからな…心配だ。
「本当か?まあ、こっちはこっちで色々動いておくからこっちの事は任せろ」
「頼む…」
ヴェルは、そう言って通信を切断した。
不安だ…。ヴェルは必ず何か行動を起こすだろう。その時に何か援護できればいいんだけど…まあ、モンシア辺境伯に相談だな。
そう思ってソファーから立ち上がろうとした時だった。
「アレク兄様…」
ドキッ!とした。誰もいない部屋に声がしたからではない。いつの間にかシルヴィが部屋に居たからだ。
まさか…今のヴェルとの会話を聞かれた?不味い不味い不味いぞ…。ヴェルがエルフの国を救いに行っている事はシルヴィ達に内緒なんだ。そこでこの会話は不味い。そして何よりもヴェルとの緊急用の通信機を隠し持っている事がバレたらシャレにならない…。
動揺を抑えつつ、ポーカーフェイスでシルヴィに向き直る。
ひっ!何だその冷たい微笑みは…冷たいを通り越して極寒の微笑みだよ!ここは氷の世界で、シルヴィは氷の女王か何かか?そう言えば、部屋の温度がやけに低い気がする…。
「アレク兄様…」
「なっ、何でしょうか?シルヴィアさん…」
怖い…こんなシルヴィは初めて見た気がするのは気のせいだろうか?ヴェル…お前はいつもこんな状況に陥っているのか?よく生還できたものだな…。
「私に何か言う事はありませんか?」
何かって…まさか、アルフォンの事で御座いますでしょうか?それは言えないよ…ヴェルとの約束だもん…。絶対に言えない。緊急用に渡された通信機だよ?ヴェルとの約束は守らないと…。
「アルフォンの事で御座いましょうか!?」
ヴェル…すまん…。僕は友達を売ってしまった。だって怖いんだもん!
「そうですか…アルフォンと言うんですか…。」
「はい。その通りで御座います!」
「では、アレク兄様…座ってお話でも致しましょうか」
「…はい」
ソファーに腰掛けた。
「アレク兄様…座る場所が違いますよ?」
「…え?」
「…」
あれ?僕、第一王子だよね?次期国王だよね?シルヴィの敬愛するお兄様だよね?…………お願いだシルヴィ、敬愛してると言ってくれ!
「はい」
僕は黙って正座した。
当然、思っていた事を言える筈もなく…。
無言のシルヴィが、極寒の瞳の色をしたシルヴィが『はあ?お前どこに座ってんの?自分の立場分かってる?ねえ、分かってんの?』と言わんばかりの鋭い視線だったからだ。
僕はビビッて何かいないよ?隠し事をしていたから悪いと思って…正座…しただけだ…よ?
「アレク様…」
「アレク君…」
っ!エマ、カナいたのか…。シルヴィにビビッ…コホン、シルヴィに気を取られて気付けなかったよ。
「私達に隠し事をするとはいただけませんわね…」
はい…ご尤もで御座います。
「アレク君。僕達って友達だよね?」
はい。その通りで御座います。だからね…ちょっと落ち着いて話をしませんか?
「アレク兄様…ご説明、願えますよね?」
「はい…」
「失礼致します。アレッ…」
超高速アイコンタクト開始
0.1秒 ファーバー宰相!いいところに来てくれた!助けて!
0.2秒 何をされておられるのですか?
0.3秒 後で説明するから、今はこの状況を何とかして下さい!
0.4秒 畏まりました。
0.5秒 流石は宰相位にある人だ!この状況を何とかしてくれるなんて…。
0.6秒 ほっほっほっ。20年も宰相位として国政に携わってきましたからな。これしきの事、何とでもと申しましょう。
0.7秒 期待してます!
0.8秒 はい。では…
超高速アイコンタクト終了
「シルヴィア様、エマ嬢、カナ嬢、次期国王陛下に国の大事な話が御座いますれば、アレックス様をお借りできませぬかな?」
流石、ファーバー宰相!国の大事な話とくれば、シルヴィ達も反論はできまい!
「「「あ゛あ゛?」」」
「失礼いたしました…」
おぃいー!ファーバー宰相ー!こらっ、何処へ行く!?助けてくれるんじゃなかったのか!?
超高速アイコンタクト開始
0.1秒 いや、無理!あの目は本気です。私は死にたくありません…。諦めてください。勘弁して下さい。もう帰らして下さい。旅に出ます。探さないで下さい。では、グッドラック…。
超高速アイコンタクト終了
グッドラックじゃねえ!王太子を裏切るのか!?次期国王だよ!?助けないのか!?あっ、待って行かないで!お願い、待ってえ…。
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こうして、アレックス王太子殿下の長い一日が幕を上げたのだった。
この日、ファーバー宰相は国王陛下に宰相位を返上する旨を告げたそうだ…
次回更新日:なるだけ早く書き上げたいな…。




