100 決断の時
「お座りください」
「はい」
モンロウさんに睨まれたまま座布団に正座する。
視線が怖い…。
「今回、お呼び立て致しましたのは、これからの事に付いて意見を伺おうと思ったからです」
「意見ですか?」
「はい」
女王が部外者である俺に意見を聞くか…。何か迷っているのだろうか?
「女王!このどこの馬の骨とも知れない小僧に意見を聞くなどエルフの恥ですぞ!?」
モンロウさんが声を荒げて女王陛下に意見する。
「お黙りなさい」
しかし、女王陛下は即答で制した。
女王陛下の鋭い視線がモンロウさんに突き刺さっている。
こえぇ…。女王陛下ってあんな人だったっけ?さっき会った時と雰囲気が大分違う気がするのは気のせいかな?
「しかし、女王…」
鋭い視線で制されたモンロウさんを庇うかのように今度は違う男が異を唱える。
「お黙りなさい」
しかし、それも即答で答え鋭い視線を向けると黙り込む男。
「女王陛下…」
他の幹部らしき男も女王陛下に言葉を掛けると…。
「お黙りなさいと言っているのが聞こえませんか?」
鋭い視線を幹部連中に向ける。
正直、怖い…。黒い着物、優雅な立ち居振る舞い…そしてこの胆力…。
極道か?女王陛下はそっち関係のお方ですか?
「「「…御意…」」」
そう答えて、睨みつけられた幹部連中は口を閉ざした。
そして幹部連中の鋭い視線が俺を襲う。エルフ組の構成員達の胆力…マジっぱねぇッスよ…。
やっぱりここは極道屋さんの組事務所ですか?俺をどうする気ですか?俺、何かした?何もしてないよね?
…シャーリーの事は謝ります。どうか許して下さい…。
「ヴェルナルド伯爵…」
「はい。あね…ゴホン…女王陛下…」
危ない危ない…。ついうっかり義姉さんと言ってしまうところだった。
もし言ったら後戻りはできなくなりそうだ…。俺も構成員の仲間入りするところだったよ。
「今後、バーナム王国との戦は回避する事は可能だと思われますか?」
いや、無理だろ?もう攻められてたじゃん。
「無理でしょうね…」
「では、この戦に勝てると思われますか?」
いや、無理だろ?数が違いすぎると思いますよ。それに魔族の男もいるから厳しいと思うよ…。
「…やり方次第では勝てるかもしれませんが、今のところ勝算は厳しいものでしょう…」
「やはり、そうですか…」
分かってるなら聞かないでほしい。構成員の方々からの無言のプレッシャーが…。
はっ!まさかこいつら全員ニュータ○プ!?オールドタ○プの俺では勝てないかも…。せめて、せめて強化を下さい…。
「ええ…」
女王陛下は何かを考えるように瞳を閉ざした。
「女王!ここは一族全て玉砕覚悟で戦に臨みましょう!」
馬鹿かお前は!?お前は旧日本軍か!?玉砕してどうするんだ!?負け確定じゃないか…。ちょっと幹部の意見じゃないと思うよ…。
「いや、ここは結界を盾に籠城で…」
籠城してどうすんだよ…。あの大砲の威力見ただろ?いつまでも結界を当てにするな。
「そんな事では勝てませんぞ!?」
そりゃそうだ…。籠城じゃ絶対に勝てない。かと言って玉砕するってのも愚の骨頂だ。
「女王!ご決断を!?」
「「「女王!」」」
幹部達も必死だな…。それも無理はない話だ。自分達の命が係ってるんだもん…。当たり前だよね?
…女王陛下…どうするんだ?まさか、構成員の意見取り入れたりしないよね?信じてますよ?女王陛下…。
女王陛下の決断を待つ構成員達(バカ達)。
すると女王陛下は瞳を静かに開いて答えた。
「お黙りなさいっ!貴方達はそれでも国の重責を担う者達ですか!?ヴェルナルド伯爵をご覧なさいっ!非常時でも落ち着いて正確に物事を見ようとする姿勢、考え方を見習いなさい!」
ごめんなさい、めっちゃはらはらしてました。心の中は動揺しまくりでした…。
「「「「「っ!」」」」」
再び、|構成員達(エルフ組の)の視線が俺に集まる。
あんまり見ないで…。見透かされそうで嫌だ。
「ヴェルナルド伯爵は何かお考えがあるようにお見受けしますが、何か策がありますか?」
「その前に一つお聞きしたい事があります…」
「…何でしょうか?」
策なんてあってないようなものだ。。兵力差がありすぎるからね。でも、対抗しうる手段があるとすれば…。
「森の北東に遺跡があった。他にも遺跡があるんじゃないでしょうか?」
「…やはり…お気付きでしたか…」
やっぱりあるのか…。それが兵器なのかどうなのかはわからないが、あると仮定して話を進めよう。
「どこにあるんですか?」
「…それは…。あれは世に出してはいけない物なのです」
でしょうね。だから、遺跡に封印していたんだろう。
だってあの威力だもん。野放しにしていたらどんな事になるのか想像に難くないだろう。だからこそ、破壊しておかなければならない。
しかし、エルフの国とバーナム王国の戦力の差は歴然だ。俺は魔族の男で手一杯…。ユイには戦ってほしくないが、そうも言ってられない状況だ。戦ってもらう事になるだろう…。
「しかし、バーナム王国軍は手に入れてしまった。このまま手をこまねいていればエルフの国は亡び、地下に眠った兵器までもがバーナム王国に渡ってしまいますよ?」
「それは…。しかし…」
「女王陛下、ここは決断するしかないと思いますよ?生か死か…。バーナム王国に勝てば、再び兵器を封印できる。負ければ、あの大砲を使って世界は侵略され、数えきれない程の死人がでるでしょう。ご決断ください」
「…」
女王陛下の決断を固唾を飲んで見守る構成員達…じゃなかった重臣達。
「分かりました。お教え致しましょう。遺跡の場所を…」
女王陛下の決断に重臣達は『おおっ』とざわめきたった。
「ありがとうございます。英断に感謝します」
「ヴェルナルド伯爵…。必ず勝つとお約束ください」
え?いや、それは分からない…。勝つ為には必要な兵器だが、どれほどの兵器かは分からない。
「…最善を尽くします」
「…今はそれで十分です」
俺の心を察したのか、了承してくれた。
これはもう勝つしかないな。勝つ為に最善を尽くそう。シャーリーの為に…。
…あれ?何でシャーリー?まあ、いいか…。
「では、ご案内しますのでこちらへ」
そう言って静かに立ち上がり、女王陛下が今まで座っていた所へと呼び寄せる。
…って、そこ?そこは女王陛下が座っていた所だよね?マジで?そこに通路があるのか?まあ、行って見れば分かるか。
女王陛下の元に行くと、女王は後ろを向いた。
「こちらです」
そう言って壁に手を当てると、壁がくるっと回転して女王陛下は壁の向こう側へと消えて行った。
回転扉、だとっ!?ここは忍者屋敷か!
マジで?ここ、極道屋さんじゃなかったの!?忍者の極道屋さんか!?それってどんな職業よ?
いや、問題はそこじゃない。
俺の中のエルフのイメージが…イメージが…音を立てて壊れていく。どこをどう見ても異世界じゃない。どこをどう見ても和だった…。
がっくしと膝を床に付いてうなだれていると壁を半回転させた女王陛下が顔を覗かせ…、
「どうされました?」
どうされましたじゃねぇよ!俺のイメージを返せよっ!訴えてやるっ!…どこにどう訴えればいいのか分からないが、訴えてやるっ!
「…いえ…、何でもありません…」
でも、辞めとこうと思う。後が怖いからな…。
「そうですか、では参りましょうか」
こうなったらどこへでも行ってやるさ。
忍者極道の女王陛下でも美人は美人だ。
嬉しいとも…。そう、嬉しい筈なんだ…だけど、嬉しいと思えない自分が…いや、何でもない。強く生きて行こうと思う…。
「…はい…」
壁を回転させて女王陛下の後を追う。
心なしか、壁を回転させる時に掌に憤りのない怒りが加わった気がしたが気にしないでおこう。
壁の奥には通路が続いていた。
女王陛下に続いて足を進めると…、
コツコツ
ペタペタ
コツコツ
ペタペタ
聞き覚えのある足音が聞こえてくる。
…何か着いて来る…。これって…あいつだよね?って、あいつしかいないよね?
「女王陛下…」
「何でしょうか?」
「何か着いて来てますね…」
「そうですね」
足音の正体はあいつだよね?
「クルッポゥ!」
やっぱりお前か!?
「…何しに来たんだ?鳩さん…」
「クルッポゥ」
「…女王陛下…何て言ってます?」
「遊んで…と…」
遊んでる場合じゃない。って言うか、どんだけ暇なのよ?鳩さん、それでいいのか?
「鳩さん…、今は忙しいからまた後でな…」
「クルッポゥ…」
頭を垂れてがっくりしている鳩さん。
いや、がっくりじゃないよ。時と場所を考えてよ。
そう思いながら、女王陛下に目配せすると…、
「オホホ。よほど気に入られたのでしょうね」
オホホじゃなねぇよ。それでいいのか?女王陛下…。って言うか鳩さん、どこから沸いて出たんだよ?
「到着しました。ヴェルナルド伯爵」
そんな事を考えていたら、いつの間にか到着していたらしい。
到着と言っても何もない部屋だった。ここどこよ?
「ここは?」
「ここは遺跡の入口である封印の間です」
「封印の間?」
「はい。人魔大戦が終結した頃より、世界中に散らばった兵器を回収してここに封印してきました」
「なるほど…」
魔人大戦は世界各地で繰り広げられていた。勿論、ここで開発された兵器も世界中で活躍していたんだろう。
魔人大戦終結後はその兵器の威力を危険視した者達によって集まられ、ここに封印したのかな?
じゃ、森の北東にあった遺跡の大砲は何だったんだ?何であの大砲だけ回収されていなかったんだ?
「じゃ、あの大砲は何で森の北東の遺跡にあったんですか?」
「以前は、あの場所も森だったのです」
「森だった?」
「はい。我々エルフが住む大森林も一万年前は今よりも大きかったのです。ですが、永き時の中で少しづつ地形が変わって今のようになってしまいました」
なるほど、あの森の北東もエルフの国の一部だった。
一万年か…、そりゃそうか…。そんだけ永い年月も経てば、森は枯れ果てるのも無理は無い話か。
「なら、森が無くなる前に大砲を回収しとけばよかったんじゃないんですか?」
「我々、エルフは封印する事だけしかできません」
「だけしかできない?」
「契約があるのです」
「契約?」
何の?誰とよ?
「はい。この遺跡を造った方との契約…。この遺跡を秘匿し、兵器を封印する役目を仰せつかっているのです」
「封印するんなら、あの遺跡にあった大砲も回収しておいた方がよかったんじゃないんですか?」
「我々エルフは遺跡の内部から兵器を持ち出す事はできないのです。我々の役目は未来永劫、遺跡の場所を秘匿し、兵器を封印してこの世に出さない事が契約…」
え?でもあの大砲は世に出てますが?封印しているエルフ自身が世に出す事ができないって事か…。ん?じゃ、エルフはあの兵器を使う事はできないのか?もし、そうだとするならば絶対に勝ち目なんてない。
「じゃ、兵器を利用できないって事ですか?」
「いえ、我々エルフが世に出す事ができないだけであって、使えない事はないのです」
よかった…。使えないのかと思っちゃったよ…。それで?この部屋でどうするんだ?
「今から遺跡の封印を解きます」
「分かりました」
そう言って女王陛下は風の精霊と目配せをした後、壁の方に右手を掲げた。
鳩さんも壁の方に向かって右の翼を掲げている。
すると女王陛下と鳩さんの体から淡く光を発した。その淡い光は女王陛下と鳩さんの体を覆っている。
「我が主との盟約に従いしエルフ族の女王が願う。世界の混乱を鎮め、今こそ世界に平穏を…」
女王陛下が発した言葉の後、『ゴゴゴ』と音を響かせながら壁が二つに分かれていく。
どうやら封印を解いた事で仕掛けられたからくりが作動したようだ。
「ヴェルナルド伯爵」
封印を解いた女王陛下が振り向いて答えた。
「はい?」
「これより先は、我々は入れません」
でしょうね…。封印するだけが仕事だもんね…。
「はい」
「後は、ヴェルナルド伯爵がお一人で行く事になります」
「そうですか…」
せめて道案内だけでもしてほしかったな。
「中には侵入者を阻む罠や守護者が道に立ち塞がる事になるでしょう…」
やっぱり、そうなるか。遺跡っていったらやっぱり罠とかその部屋を護る守護者がいるよね?戦う事になるんだろうな…。
「はい」
「どうか、無事でお帰りになる事を祈っております」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言い残して、遺跡内部へと足を進めた。
遺跡内部は光魔法を使用していたのか、通路は明るくなっていた。
これはいいな。真っ暗の中を進むよりは明るい方がいいだろう。仮に真っ暗だったとしても魔法で明るくすればいいわけだが、通路全体を明るくするわけじゃない。
それにしても、もう結構歩いたと思うけど、まだ先は続いている。
そう言えば、罠があるとか言ってたな…。物体察知魔法で遺跡内部の状況を把握しておくか。
そう思って遺跡内部に魔法を巡らせて地形や構造を把握した。罠は至る所に功名に仕掛けられていた。
天井が落ちてくる仕掛けや、落とし穴、矢やら槍やら飛び出してくる罠等々…。
出てくるわ出てくるわ罠の数々…。
熟練した冒険者でもなかなか突破できない程の罠の数にびっくりだが、どこに罠が仕掛けられているか把握できた俺には容易く突破できた。
しかし、問題がある。
このまま進めば守護者と思しき者が守護する部屋に続きそうだ。数は全部で4体。恐らくゴーレムタイプだ。
この部屋を回避する通路はないし、進むしかないようだ。面倒だが戦うしかないな。
そう思って刀の柄を握ろうとしたが、刀が無かった。
「あっ、そっか…。あの男との戦闘で折られたんだった…。結構高かったのにな…仕方ないか」
魔法のみで戦う事になりそうだ。
さてさて、どうなるか…。自分の実力を再確認する意味でも魔法だけでやってみようかね。
覚悟を決めて、守護者が守護する部屋に足を踏み入れた。




