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98    事情

 シャーリー達との会話で少し打ち解けたセシリア。

 落ち着いただろうか?


「それで、セシリア…」

「…はい?」


 俺がこれから聞こうとしている事を察知したのか、真剣な表情だった。しかし、その表情からは先程感じた不安は薄れているようだった。


「セシリアは何で殺されそうになっていたか、話してくれないか?」

「…分かりました…」


 セシリアはそっと瞳を閉じて、話しはじめた。


「私が兄のする事を辞めさせようとした事が癪に障ったのかもしれません…」

「癪に?」

「はい。兄は…変わってしまいました」


 確かに、あの時に見た王子の姿は狂気に触れていた様に思える。

 あの男の言葉、行動、その全てがおかしかった。あれは初めからではなく、変わってしまったからか。

 もしかして、魔族の男に操られているのか?いや、あの男には自我があった。

 となると、心の隙を突かれたか?ベハインド公爵の時もそうだが、操られていたのではなく本人の願望を増幅させたのかもしれない。


「何で変わったのか、わかるかい?」

「はい。大砲を手に入れて、その威力を目の当たりにしたからだと思います」


 王子は、もともと世界に対して野望があったのかもしれない。しかし、現実的には不可能だと諦めていた。

 でも大砲を手に入れ、その威力を見てから実現可能なのではと思うようになった。だからこそ、掌を返したかのような対外政策に出たと言う事か…。


「大砲を手に入れた経緯はわかるかい?」

「いえ、わかりません。でもあの男がやって来てから全てが狂い始めたのだと思います」


 あの男?魔族の男の事か…。魔族が裏で暗躍すればいい事はない。アルネイ王国の内乱がいい例だ。


「魔族の男だね?」

「魔族…そうですね。あの男がやって来てからしばらく経ったある日の事…お元気だったお父様が急に倒れられたのです」

「病か何かですか?」

「分かりません。治癒魔法士に見てもらっても症状は治まりませんでした。政務を執れなくなったお父様は全権をライオネスお兄様に委ねました。すると、あの男がライオネスお兄様とよく一緒にいるところが目撃され始めたのです」


 毒を盛られたか呪詛を掛けられたか…。どちらにせよ、今は生きていないのかもしれない。仮に生きていたとしても言葉を話せる余裕はないだろう。


「それから、どうなったの?」

「小さな地震が起きた後、あの男とお兄様は兵達を連れてどこかに向かわれました。しばらくして帰ってくると何かを組み立て始めました」

「それが大砲だったと?」

「そうです。大砲を試射してからお兄様は変わられました。今まで尽くしていた家臣を遠ざけ、代わりにあの男を近くに置いて世界征服をすると言い出しました。お父様の側近達が反対されたのにも拘わらず実力行使に出ました」

「実力行使?」


 きっと軍の掌握と反対する者達への報復だろう。あの大砲があれば、軍事力が相当強化される。恐らくは軍の幹部達を取り込んで権力を盾にやりたい放題しているのかもしれないな。


「お兄様の言う事に従わない者達を罷免して罰するようになりました。私も反対しましたが言う事を聞いてくれませんでした。そこでお父様にこの事を伝えようとしてもお父様の部屋の前には兵達がいて通してくれません」


 やっぱりか…。


「ふむ…」

「何度、お兄様にお父様に会わせてほしいと言っても聞く耳を持ってくれませんでした。しばらくすると反対する者達もいなくなり、私だけとなりました。それでも考え直してもらえるように話をし続けると私を拘束してあの遺跡に…」

「なるほど…」

「そして、最後まで反対していた私を…」


 セシリアは震えていた。布団を掴み、必死に耐えようとしていた。

 辛いのだろう…。辛いけどよく話してくれた。俺と同い年ぐらいのセシリアにここまで辛い事をさせるとは…バーナム王国、いや、ライオネスと魔族の男が許せない。

 後は俺がやる。


「わかった。辛い事を話してくれてありがとう。後は俺達に任せてゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます。でも…他人事にはできません。私も兄を止めたいと思っています。だから…協力させて下さい」


 セシリアは震える声でそう言った。


「いいのか?」

「…はい…」

「兄を殺す事になっても?」

「…罪もない人達が死んで行くのなら仕方がありません…」

「分かった」


 ある程度の覚悟はあるのだろう。今はそれで十分だ。


「それはそうと…セシリア…」

「…はい?」

「ライオネスに殺されそうになった時に誰かの名前を呼んでいなかったか?」

「えっ!?…あっ、はい…」


 セシリアは驚いているようだった。

 もしかして、好きな人かな?


「それは、セシリアの想い人?」

「っ!~~はい~~。」


 セシリアの顔が朱に染まっていく。

 こんなに美少女に想われて羨ましい限りだ。


「よかったら名前を聞かせてくれないかな?」

「アレックス様です。」


 アレックス様?

 アレックス…アレックス…。俺の知ってるアレックスは一人しかいない。そしてバーナム王国の姫であるセシリアが様付けするとはセシリア自身と同じ身分以上の人だと言う事だ。

 アレクしか心当たりがないな…。


「アルネイ王国の王太子?」

「~~~はい~~~」


 両頬を手で覆いながら恥ずかしそうに答えるセシリア。

 アレクも隅に置けないな…。


「シャーリー、この子を頼む」

「あっ、はい。分かりました」


 シャーリーにセシリアを任せてモンロウさんの家を出る。

 『プッ、プルルルルル』とアルフォンを鳴らしてアレクを呼び出す。


「どうした!?ヴェル。何か問題でもあったか?」

「アレクの女ったらし!」


 『プッ』と通話を切った。

 アレクに一言、言ってやりたかったのだ。あんなにも可愛い美少女を惚れさせるとはアレク・・・もなかなかやりおるわ…。

 え?俺も?そんな事はない。俺は女性を口説いた覚えはない。した事もないよ。いや、まじだって…。

 『プッ、プルルルルル』とアルフォンから通話音が鳴った。相手は勿論アレクだった。

 アルフォンを渡してある人物はアレクとモンシア辺境伯しかいないからこのタイミングでアルフォンに掛けてくる人物はアレクしかいないだろう。


「はい、もしもしぃ?」


 雑に返事すると…。


「いきなりなんだよ?ヴェル。それに何か棘がある返事だな?」


 当たり前だ、この野郎…。あんな可愛い子を惚れさせるとは、うらや…けしからんっ!


「何でもないよ…。ちょっと女ったらしのアレクに話したい事があってね」

「ヴェルに言われたくないよっ!って言うか何だよ?」


 何で俺に言われたくないのよ?


「何でよ?」

「…胸に手を当てて考えてみれば?」


 右手を胸に当てて考えてみる。

 俺は誰か口説いた事はない。これは本当だ。…でも…シルヴィ、エマ、カナ、ユイ?が婚約者だ。


 屈託のない笑顔で尽くしてくれるシルヴィ…。


 優しい笑顔で夫をたてるように寄り添うエマ…。


 元気一杯の笑顔で楽しい気持ちにさせてくれるカナ…。


 愛くるしい姿で可愛くはにかむユイ…。


 思い当たる節が…節が…ありまくる…。


「…ごめんなさい…」

「分かればよろしい…」


 アレクの癖に、アレクの癖に、アレクの癖に、くそー!

 まあ、それはさて置き本題に入ろう…。


「実は、バーナム王国の動きがわかった」

「何っ!?どう言う事だ?」」

「バーナム王国は世界征服を企んでいるようだ」

「っ!それは本当か!?」


 アレクは声を荒げていた。

 アルネイ王国に攻めてくる可能性があると話していたが、まさか世界征服だとは思っていなかったに違いない…。


「ああ…。至急、国境の警備を固めてくれ。それといつでも軍を動かせるようにしておいた方がいいかも」

「わかった。モンシア辺境伯に伝えておく」

「後な…アレク…」

「何だ?」

「バーナム王国の裏で糸を引いている男のがいた」

「何者だ?」

「魔族だった」

「っ!大丈夫なのか!?」


 アルネイ王国の内乱でも魔族の男がいた。その魔族の男と正に字の如く死闘を演じたのだ。

 本当に死にかけたし…。心配してくれているのだろう。


「わからない…。でも、何とかするさ」

「…ヴェル…、分かっているとは思おうが…」

「アレク達は国境を越えられない。だから無茶はするなって言いたいんだろう?」

「…そうだ…。くれぐれも無茶はするなよ?」


 分かってる…だけど、無茶をしないと勝てないだろう…。

 ここは嘘でもアレクを安心させておこうと思う。


「分かっているさ…」

「本当か?まあ、こっちはこっちで色々動いておくからこっちの事は任せろ」

「頼む…」


 そう言ってアルフォンを切った。

 アレクの言う通り、あっちの事はアレクに任せてこっちの事を考えておこうと思う。

 先ずは、バーナム王国の事だ。

 近い内に必ず攻めてくるだろう。攻めてくるのはまだ何とかなるかもしれないが、問題は大砲がまだあるかもしれないと言う事だ。

 それをどう対処するかだな…。大砲の威力は、まだ完全に力を取り戻していなかったが風の精霊の結界を相殺したほどの威力だ。それに射程距離もまだ未知数…。遠距離からの攻撃をしてくる事は確かだろう。

 さて、どうする?

 こちらの結界の強度を強化して凌ぐか?いや、それじゃ後手に回るな…。じゃ、こちらも遠距離からの攻撃で大砲を狙うか?でも相手も馬鹿じゃないだろう。

 遠距離からの攻撃に備えて結界魔法士を多数…いや、全力で結界を張って守ろうとするだろう…。

 ならどうする?

 相手の結界強度を上回る攻撃で仕掛けるか、結界を無視して攻撃できる手段を持たなければならないだろう…。

 こっちにもあの大砲があれば…。

 ん?大砲は地下遺跡にあった。エルフの森の傍だ。

 ガガイルさんは言った。

 『大昔、ここは魔道具の研究施設があったそうだ。場所は秘匿されて詳しくは分からないが、恐らくそうだろう。』と…。

 場所は秘匿されている?誰に?答えは簡単だ。

 女王陛下なら詳しい場所を知っているだろう。

 なら、話を聞きに行こう。

 そう考えている時だった。アルフォンから着信音がする。

 『プッ、プルルルル』

 着信画面を見るとアレクからだった。

 何だ?言い忘れた事でもあったのかな?


「はい?」

「ちょっとヴェル様!」


 シルヴィだった!

 やっばい…。顔から血の気が引いて行くのが分かる。


「なっ、何でしょうか?シルヴィアさん…」

「これは一体どう言う事ですか!?」

「えっと…、何がでしょうか?」

「何がじゃありません!」

「はいっ!」


 姿勢を正して勢いよく返事する。


「シャーリーを送ってくるだけって言ったじゃないですか!それが何ですか!?エルフの国とバーナム王国の争い事に巻き込まれているってどう言う事ですか!?」

「はいっ!ごもっともなご意見でありますっ!」

「…どう言う事ですか?」

「はい…それはですね…えっとですね…」

「はっきり言いなさいっ!」

「はいっ!」


 正直に話したさ。全てを話したさ。包み隠さず話したさ。話さないと殺されそうだからだ…。女性は敵に回していけないのだと改めて思ったのだ。

 シャーリーの頼みに『うん』と答えた事、シルヴィ、エマ、カナを危険に巻き込まないように置いて行った事を…。

 そして、お説教が始まった。

 2時間…。

 そしてシルヴィのお説教が終わると、エマにバトンタッチした。

 更に2時間…。

 カナにバトンタッチ…。

 更に1時間だ…。

 カナはシルヴィとエマより短い時間だったが、心に訴えかけるように諭すものだから心が折れそうになった。

 僕…しばらく戦えそうにない…。

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