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97    バーナム王国の少女

 鳩さんと別れ、シャーリーの機嫌も何とかなだめてようやくモンロウさんの家に戻って来た。

 シャーリーは本当に怒りんぼさんなんだから困っちゃう。ついつい苛めたくなっちゃうのはシャーリーの仕草が可愛いからだ。

 それはさて置き、少女と話をしなければならないので戻って来たのだ。


「ただいま」

「ただいま帰りました」

「おかえり」


 シャーリーの部屋から『トテテ』とお出迎えにやって来たユイと挨拶を交わす。

 相変わらずユイの小走りは可愛いな。

 『おかえり』と言いながら小走りにやって来た勢いのまま俺に抱き付くユイ。

 あらやだ、可愛い。何この子…食べちゃいたい…。

 冗談はこのぐらいにしておいて…。

 別にユイが可愛いのは冗談じゃないよ?本当に可愛いのだ。

 ユイを学校に通わせるとしたら、絶対に女子校だな。共学になんて通わせたら、どんな悪い虫が群がるかわかったもんじゃない…。

 お兄ちゃん、心配でもう一緒に授業を受けるかもしれない。そうだ、ユイと一緒に学校に通おう。うん、それがいい…。


「お兄ちゃん?」

「ん?ああ、ごめん。考え事しちゃってた」

「大丈夫?」


 ユイは心配そうに気遣ってくれる。

 何ていい子なんだ…。


「大丈夫だよ」


 そう言いながらユイの頭を撫でる。


「ん」


 気持ちよさそうに身を任せてくるユイ。

 天使だ…。ユイよ…その天使のまま大人になっておくれ…。


「あの、ヴェル様…私を忘れてはいませんか?」


 シャーリーが睨めつけながら語り掛けてきた。

 あれ?何か機嫌悪い?さっきの苛めた事、まだ根に持ってるのかな?あれ?

 まあ、いいか…。


「ああ、ごめん。ユイが可愛過ぎて、愛で過ぎちゃったかも」

「そうですかっ!よかったですねっ!」


 あれれ?ますますご機嫌斜めになってしまっちゃった。あの日かな?


「何だよ?」

「何でもありませんっ!」


 むむむ…。これは不味い…。今後ともいいお付き合いをする為に言葉攻め…いや、褒めて機嫌を直してもらおう。


「シャーリーも可愛いよ」

「そんなお世辞はいりません」

「ほんとだって、こんなに綺麗な金髪の長い髪がシャーリーの魅力を引き立ててるし、シャーリーの仕草が男心をくすぐってくるよ」

「~~~そっ、そんな事~~ゴニョゴニョ~。」


 顔を朱に染めつつ金髪の長い髪を先を弄りながら俯くシャーリー。


「ヴェッ、ヴェル様もですか?」

「ん?勿論だよ。シャーリーは可愛いよ。抱きしめたくなっちゃうよ」

「~~~~~~~」


 更に顔が赤くなるシャーリー。尖がった耳の先まで赤くなっている。

 よしよし、不機嫌さは無くなったな。ちょろいな、シャーリー。いつか悪い男に騙されなければいいが…。

 騙されてあんな事やこんな事…。だめだ…想像したら腹が立ってくるな。

 何でだ?まあ、いい…。


「ところでユイ」

「ん?」

「あの子は起きたかな?」

「まだ」

「そっか、ちょっと様子を見に行こうか」

「ん」


 ユイを連れてシャーリーの部屋に向かう。


「ヴェル様?」

「ん?」

「あの子が起きない事をいい事に変な事しませんよね?」

「しないよっ!」


 どんなゲスだよっ!俺にはそんな趣味はないよ…。ホントダヨ?ホントニヘンナコトナンテシナイヨ?

 シャーリーの目が怖い。凄いジト目だったからだ。シルヴィ達もそうだが、俺ってそんなに信用ないの?


「コホンッ…シャーリー、俺を信用できないのなら一緒に様子を見に行こう」

「行きますっ!」


 え?信用ない…。信用してくれなかった…。シャーリーの癖に、シャーリーの癖に、シャーリーの癖に…。

 仕返ししてやらねばなりませんな。

 シャーリー、ユイを連れてシャーリーの部屋の前まで移動する。

 扉に掛けられたシャーリーのお部屋と書かれた掛札を見て『フッ』と含み笑いをしてやると…。

 『あわわわわ』と掛札と俺の間に割り込んで扉を開ける。


「どっ、どうぞ…」

「うむっ、苦しゅうない」

「くるしゅうない」


 勝った!シャーリーの弱点は可愛いところなのだ。

 そして俺の返答を真似するユイ。

 それが止めだった。シャーリーは再び耳まで真っ赤にしている。


「まだ、起きないね」

「そうですね…」

「ん」

「もう少し待とうか」

「はい」

「ん」


 それにしてもシャーリーの部屋に入るのは二度目だが、やっぱりいい匂いがするな。


「シャーリー」

「はい?」

「シャーリーの部屋っていい香りがするね。何かあるの?」

「え?そうですか?特には何もしてませんが…」

「そっか。じゃ、シャーリーがいい香りがするから部屋もいい香りがするのかな?」

「っ!~~~~~」


 ん?どした?シャーリー。もじもじし始めたぞ。まあ、女の子らしくて可愛い仕草だ。見ていて飽きない。


「ん…」

「起きたかな?」


 少女が目覚めた。キョロキョロと周囲を見て俺と視線が合う。


「おはよう」

「…おはようございます」


 俺の言葉に面食らったように挨拶を交わす少女。


「…あのここは?」

「ここはエルフの国だ」

「エルフの国?」

「そんでもってここにいるシャーリーの家でシャーリーの部屋だ」


 少女にシャーリーを紹介する。シャーリーは少女に軽く会釈すると少女も会釈して返す。


「俺はヴェルナルド。ヴェルとでも呼んでくれ。そんでもってこっちが妹のユイだ。仲良くしてやってくれ」

「ユイです」

「あ、はい。セシリアと申します。よろしくお願いします」


 遺跡内部で兄と呼ばれる男からセシリアと呼ばれていたのは知っていたが、自己紹介も済ませていないのにいきなりセシリアと呼ぶのには抵抗があった。

 相手も嫌がるかもしれないからだ。折角助けたのに、嫌われるのもどうかと思ったからだ。

 セシリアは金髪、碧眼の少女だった。顔形は整った美少女だった。スタイルは太くもなく細くもなくスレンダーではあるが胸はドレスの胸元を押し上げるボリューム。

 エマといい勝負をしそうだな…。


「…」


 うっ、やばい…シャーリーがジト目だった。いや、決してやらしい意味で見ている訳じゃないのよ?ちょっとセシリアがどんな子なのか見ていただけなのよ?ホントダヨ…。


「ヴェル様…」

「なっ、何だい?シャーリー」

「…」


 いや、何か言ってよ…。そこまで言ったら、何か言おうよ。


「「…」」


 お願いだから沈黙は辞めて下さい。ごめんなさい…、許してください…。


「コホンッ。セッ、セシリア、喉渇いてない?」

「少し…」

「シャッ、シャーリー、何か飲み物ってある?」

「…お茶ならあります」

「じゃ、人数分入れてくれる?」

「…はい」

「ユイもシャーリーを手伝ってあげてくれ」

「ん」


 ちょっと動揺しちゃったよ。

 それにしてもシャーリー…、段々とシルヴィに似て来たな。

 何でよ?

 考えてもわからないので、シャーリーとユイがお茶の準備をしてる間にセシリアを連れてきた経緯を話しておこうと思う。


「セシリアは、あの遺跡で何があったか覚えてる?」

「遺跡…。はい、覚えています」

「じゃ、殺されかけていた事も覚えてるかな?」

「…はい…」


 俺の問いにセシリアは深刻な顔をして答えた。

 無理もない。自分の兄に殺されそうになったのだから…。


「そこを俺が助けてここまで連れて来たと言う事だ」

「…そうですか…。ありがとうございます」

「どういたしまして…」


 部屋に静寂が訪れた。

 気まずい…そして、沈黙が痛い…。


「えっと、セシリアはバーナム王国の姫だよね?」

「…そうです」

「じゃ、殺そうとしていた男は兄である王子だよね?」

「…はい」

「何で殺されそうになったか教えてくれないか?」

「それは…」


 セシリアは答えにくそうにしていた。

 ちょっと早急すぎたかな?落ち着いてから話をした方がよかったかもしれないな。


「お待たせしました」

「ん」


 そう考えているとシャーリーとユイがお茶を運んで来た。

 シャーリーがセシリアにお茶を、ユイが俺にお茶を渡す。


「ありがと」

「ありがとうございます」

「ん」

「いいえ」


 ちょっと休憩しよう。


「ああ、シャーリーとユイが入れたお茶は美味しいな」

「美味しいです」

「ん」

「ありがとうございます」


 ユイははにかんだ笑顔で答え、シャーリーは少し照れているっぽかった。


「愛が籠っているからかな?」

「ん」

「っ!」


 ユイは自信満々に返事する。シャーリーは答えなかったが動揺している。

 何でよ?


「ふふっ、お二人はそう言うご関係なのですか?」

「そうです」「違いますっ!」


 返事が被ってしまった。


「ちょっとヴェル様!誤解を招くような事を言わないで下さい」

「冗談じゃないか…。そんなに強く否定しなくてもいいんじゃない?」

「その…まだ…ゴニョゴニョ…。」


 まだ何よ?聞き取れませんが?言いたい事があるならちゃんと言ってよ。


「仲がよろしいんですね」


 俺とシャーリーの会話に笑顔を見せるセシリア。その笑顔はどことなく寂しそうだった。


「ユイもお兄ちゃん大好きだよ?」

「俺もユイが大好きだよ」

「ふふ」


 セシリアはユイと俺が抱き合う姿を微笑ましく見守っているようだった。

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