95 女王との謁見
シャーリーの案内でエルフの国の女王陛下の住まいへと向かう。
後ろには何故か着いて来る鳩…じゃなくて、風の精霊様。
ペタペタと足音を鳴らしてぴったりと着いてくる。俺達がコツコツと足音を鳴らす後ろでペタペタと足音が響く。
コツコツ。
ペタペタ。
コツコツ。
ペタペタ。
「…なあ、シャーリー…」
「…何でしょうか?」
「…何で着いて来るの?」
「…風の精霊様に気に入られたんじゃないですかね?」
「…」
餌付けしちゃったからかな?それとも、暇なのかな?
そう思って後ろを向くと、鳩も後ろを向く。
いや、おめぇだよ!
「何で着いて来るの?」
俺の質問に鳩は、左の翼の先っぽで『僕?』とでも言いたげに鳩自身を翼差す。
「他に誰がいるんだ?」
「クルッポゥ?」
そう言って、再び後ろを向く鳩。
だから、おめぇだよ。馬鹿にしてんのか…。
「クルッポゥ!」
「…シャーリー…」
「…何でしょうか?」
「何て言ってんの?」
「…ヴェル様の傍に居たいと…」
「何で?」
「分かりません…」
ふむ…。傍に居たいのか…何でよ?豆が気に入ったからか?それとも、遊んでもらえるからか?まあ、いい…。
「そりゃ!」
魔法の袋から豆を取り出し、後ろに投げ放った。鳩は豆を追い掛けて食べ始める。今だ!と思い走って木の陰に隠れる。
鳩は豆を食べ終わるとキョロキョロと周囲を見渡す。俺を探しているようだ。
「ふふ、探してる探してる」
鳩の様子を眺めているとシャーリーの視線に気づく。
「ばかっ!シャーリー、こっちを見てると居場所がばれるだろうが…」
「クルッポゥ!」
「うわぁ!」
びっくりした。シャーリーに気を取られている間に、鳩が俺の後ろに移動していたようだ。むむむ…、気配を消して近付くとは鳩のくせになかなかやるな…。
「鳩さんよ…」
「クルッポゥ?」
「…暇なのか?」
「クッ、クルッポゥ…」
暇なんだな。目が泳いでるぞ、鳩さんよ。風の精霊が嘘はいかんよ嘘は…。
「図星だな?」
「クッ、クルッポゥ!?」
右足を一歩後ろに後退させつつ両翼を広げて口を開け放つ。その仕草は、さならがら『何故、ばれた!?』と言いたげだった。
暇じゃなきゃこんな事やらんだろう…。
「鳩さんよ…」
「クルッポゥ?」
「結界が大変な事になってるけどいいのか?」
「クルッポゥ!」
よく分からんが、大丈夫らしい。たぶんね…鳩さんが暇そうだから、たぶん大丈夫なのだろう…。
鳩さんを連れてシャーリーの元に戻ると…。
「ヴェル様…」
「何かな?シャーリー」
「だから!風の精霊様で遊ばないで下さい!」
「遊んでいる訳じゃないのよ…。結界が大変な事になってるのに鳩、じゃなくって風の精霊様がここにいて大丈夫なのかと試してただけだって…」
「本当ですか?」
「…ホントウダヨ?ヴェルナルドサン、ウソツカナイ…」
「…目が泳いでいますよ…」
「そっ、そんな訳ないじゃないか…ははは、シャーリーは疑り深いなぁ…、あはは」
シャーリーのジト目が半端ない。
お遊びはここまでにしよう…。今度やったら本当に怒られそうだ。
再び、コツコツペタペタと足音を鳴らしながら女王陛下の屋敷に着いた。
門の前にいる警備のエルフ達にシャーリーが話すと、怪訝な顔をされたが中に入る事ができた。
勿論、身体検査はされたが…。俺だけね…。
シャーリーにはなかった。一応、戦士長の娘だから信用されているんだろうな。
「ヴェル様、こちらです」
「うん」
女王陛下の屋敷は、和風の屋敷だった。石垣でできた塀、池や滝がある庭園、重行きのある木造で建てられた屋敷。
どこからどう見ても日本家屋だった。え?何これ…。女王は日本人か?
「ヴェル様…」
「ん?」
「ここからはお一人でお願いします」
「え?何で?」
「女王陛下がお二人でお会いしたいと仰っております」
「まじで?」
「はい」
いいのか?何か警備的な問題はないのだろうか?重臣達とかから反対する声は上がらなかったのだろうか?
「分かった…」
疑問を覚えつつ、玄関に向かって歩き出す。
玄関では予想を裏切らない女中さんがお出迎えしていた。
「ヴェルナルド様、ようこそおいで下さいました」
「あっ、はい」
着物姿だった。
黒の着物に花模様があしらわれた着物だった。まさか、エルフの国で着物姿の美女に会うとは思わなかったから少し、動揺してしまった。
金髪の長い髪を頭の後ろで纏め上げ、そのうなじからは大人の色香を感じ取れるほど魅力的に見える。ほっそりとした体つきからは考えられないほどに胸元を押し上げる大きさの胸…。
目が釘付けになってしまう。
「こちらで、お履き物を脱いでお上がり下さい」
「あっ、はい」
女中さんに促されるまま、靴を脱ぐ。
危なかった、この女中さんが俺に話さなかったら、ずっと見惚れていたのかもしれない。
女中さんの案内で後ろを付いて歩く。
後ろ姿も実に色っぽく、出るところは出て、引っ込むところはしっかりと引っ込む。そして何よりもお尻の形が実に綺麗だった。
和服姿の美女は髪が金髪であっても和服が映える。和服姿の女性は黒髪が一番いいと思っていた俺は、考え方を改めなければならないと思ってしまうほど美しかった。
シルヴィでもエマでもカナでもユイでもシャーリーでも似合う事は似合うかもしれないが、ここまで和服の美しさを体現させる事はできないだろう。
女中さんは襖の前で立ち止まり、そっと腰を降ろし正座した。襖を両手で添え、『スッ、ススス』と静かに開ける。
その綺麗な仕草に思わず見惚れてしまう。
「綺麗だ…」
見惚れすぎてしまって思わず心の声が出てしまった。
「まあ、ヴェルナルド様はお口がお上手ですね」
「あっ、いや、すみません…」
女中さんに『ふふふ』と笑われてしまった。
ちょっと恥ずかしい…。
「どうぞ、中にお入りください」
「あっ、はい。失礼します」
再度、女中さんに促されて部屋に入ると期待を裏切らない部屋だった。
床には全て畳が敷き詰められていた。部屋の最奥には一段段差があり、正に殿様が座るような場所になっていた。
ここ、エルフの国だよね?どう見ても日本の城の中のように思える。
「どうぞ、お掛け下さい」
「ああ、はい。失礼します」
そう答えて座る。勿論、正座でだ。
こう言う、畳の所で座る時って何故だか正座になっちゃうよね。
すると、頭の上に重い物が圧し掛かる。
「…」
「…」
「おぃっ!」
「クルッポゥ!」
鳩だった。鳩が頭の上に顔を乗せてきているのだ。
「顔をどけて…」
「クルッポゥ!」
『いや』と言わんばかりに首を横に振る。
頭がこすれて痛い。禿たらどうするんだ…。それに喋ると頭に響く。
「頭に響くから喋らないで…」
「クルッポゥ!」
喋るなって。
「まあ、風の精霊様はヴェルナルド様を本当にお気に召されたのですね」
いつの間にか、女中さんが殿様の席に座っていた。
女中さんじゃなかったのか…。もしかして…女王陛下?女王陛下自らが俺をお出迎えしてくれたの?
「クルッポゥ!」
だから、喋るなって…。
「女王陛下ですか?」
「はい。お初にお目に掛かります。エルフの女王、ラメラと申します」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。アルネイ王国伯爵、ヴェルナルド・フォン・グナイストです。以後、お見知りおきを…」
頭を下げようとしたら鳩の顔に邪魔されてできなかった。
鳩さん、邪魔だからどいてよ…。
「はい」
女王陛下は返事を返しながら『ふふふ』と笑っている。
俺の頭の上に鳩の顔がある。やっぱり可笑しいのだろう…。
魔法の袋から豆を取り出して横に投げると鳩はすかさず豆を食べ始める。そして再び俺の頭の上に顔を乗せようとするが、超加速で横に移動する。鳩は急に頭をどけられたので『スカっ』として顔を畳の上に落とす。
「ふっ…。まだまだだな…鳩さんよ…」
「クルッポゥ!」
鳩はむきになって何度も頭の上に顔を乗せようとするが、スカを喰らい何度も畳の上に顔を落とす。
鳩と俺の激しい攻防を何度も繰り返すと鳩は諦めたように俺の隣に座った。
勝った!と思って油断すると鳩が再び頭の上に顔を乗せる。俺の頭を下に押し付けながら器用に俺の後ろに移動する。
そして『フフン』と鼻息を鳴らす。顔は見えないが、恐らく勝ち誇った顔をしているのだろう。いい度胸だ…ちょっと表出ようか…。
「ふふふ」
また女王陛下に笑われた。
くそっ、この鳩の所為で恥ずかしいところを見られちゃったじゃないか…。
「ごめんなさい。精霊様が何時になく楽しそうにしておられるのでつい…」
楽しそう?そっか…風の精霊様だもんな…。いつもエルフ達に敬われて対等に話す事もなく寂しいのだろう。
まあ、今回は大目に見よう…。
次回からは戦争だ!
「それで、お話と言うのは?」
落ち着いたところで、女王陛下が尋ねてきた。
「はい。風の精霊の力が弱まった原因とバーナム王国軍が何をしていたのかを報告する為に謁見を申し込みました」




