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94    風の精霊

少女を担いでエルフの森まで全力で走った俺に声が掛かった。


「ヴェル様!」


この声は…。


「シャーリーか!?」

「こっちです!」


森の入り口付近に身を隠していたシャーリーが姿を現した。


「ばかっ!何で帰らなかった!?」

「ヴェル様が心配で…」

「…そっか…。心配してくれてありがとな。ガガイルさん達は?」

「ここにいる」


シャーリーの隠れていた所から姿を現したガガイルさん。他のエルフはいないようだった。


「他の者は、報告の為に里に帰した」

「それはよかった。魔力が弱まった原因を何とかしてきましたよ」

「それでか…。結界が元に戻ったのは…」

「ですね。でも…あの攻撃でまた消えちゃいましたけど…」


大砲から発射された閃光弾。その威力は今まで見た事のない威力だった。もし、結界が間に合っていなかったのならエルフの森は綺麗さっぱり消失していたのかもしれない。

女王と風の精霊のお蔭と言っていいだろう。


「だな…。しかし、結界が間に合ってよかったよ」

「ええ、間に合っていなかったらと考えると恐ろしくなりますね…」

「ああ…」


ガガイルさんと寒気を感じながらしみじみと会話していた。


「それで、その…ヴェル様?」

「ん?」

「その担がれているのは方はどなたですか?」

「この子は…、後で説明する。それよりも女王に話したい事もあるからすぐに里に戻ろう」

「あっ、はい」


シャーリー、ガガイルさんと急いでエルフの里に戻った。

なるべく早く戻れれるように少女に無重力魔法を掛けて運んだのだ。

幸か不幸か、未だ目を覚ます気配はない。今、起きて取り乱されても困るしな。

そうこうしている内に、エルフの里に到着した。


「シャーリー、この子をシャーリーの家で預かっててもらえないかな?」

「はい。分かりました。それじゃ、私の部屋まで運んでもらえますか?」

「ああ」


シャーリーの部屋は入ってリビングの奥にあった。部屋の扉には、女の子らしく『シャーリーのお部屋・・・』と書かれていた。

部屋・・じゃなく、お部屋・・・と書かれているところがシャーリーらしくて可愛らしい。…俺より年上のはずなんだけど、女性はいつまでたっても女の子と言う事だな。


「…。」


部屋の表札を見つめていると…。


「あわわわ。見ないで下さい!」


シャーリーは『シャーリーのお部屋・・・』と書かれている表札の前に両手を上下させて慌てふためいていた。

そして顔を朱に染め上げていくシャーリー。

年甲斐もなく可愛らしく書かれている表札に恥らっているのだろうか?絶世の美女が可愛らしい趣味があってもいいと思うけど…。それにシャーリーなら似合ってもいるからもっと堂々としていればいいのにと思う。


「早く入って下さい!」

「ああ…」


シャーリーに背中を押されてシャーリーの部屋に入る。部屋の中の光景も想像した通りだった。

ピンクのカーテン、ピンクのマット、可愛らしい猫型のぬいぐるみ…。


「女の子してるね…」

「~~~~~~~~」


俺の一言がシャーリーに止めとばかりに耳まで真っ赤にしているシャーリーがいた。


「ヴェル様…」


うげっ…。シャーリーが睨んでた。

目元には涙を浮かべて全身をぷるぷる震わせていた。恥ずかしさのあまりどこに怒りをぶつければいいのかわからない状態といったところだろうか。


「ベッ、ベッドでいいよね?」


火急的速やかに少女をベッドに寝かせて、部屋から出て行った。

…一瞬、シルヴィ達を思い出しちゃったよ…。ああ言う女性?女の子?には弱い。

それにしてもシャーリーの部屋はいい匂いがしたな。あれは花の香りかな?


「お兄ちゃん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。ユイ」


ユイの頭を撫でつつ、挨拶を交わす。


「モンロウさんはどこ行ったの?」

「わからない」

「そっか」

「ん」


まあ、結界を相殺できるほどの攻撃を受けたんだ。今頃は大慌てで会議やら何やらやっているのかもしれないな。


「お待たせしました。ヴェル様」

「おぅ。じゃ、行こうか」

「はい」

「ユイ…」

「ん?」

「シャーリーの部屋で寝ている子をよろしく頼むね」

「ん」

「あの子が起きてもしばらくは家から出ないようにしておいてくれ」

「ん」


少女をユイに任せてシャーリーと出掛ける。

向かうはエルフの女王陛下がいる所だ。

風の精霊の力が弱まった原因、遺跡内部での出来事、魔族の男の存在を報告しておかなければならないからだ。

シャーリーの案内で女王陛下のいる所に向かう途中、すれ違うエルフ達に怪訝な顔をされたが気にしないでおく。

俺は所詮はよそ者。しかも、エルフの国に攻撃を仕掛けてきた人族だから、信用されていない事は分かっている。別に信用されなくても、俺にはやらなければならない事ができた。

魔族の男だ。あのまま野放しにはできない。

アルネイ王国の時もそうだが、俺はきっと魔族と戦う運命を定められているのだと思う。

運命を否定する事はできる。でも、運命を否定したところで結果は変わらない。

俺が何度も夢に見た死の未来を…。なら、運命を変える為に行動するしかない。大切な人達を守る為に…。


「ヴェル様、ここでお待ちください」

「ん?着いたのか?」

「はい。謁見を申し込んで来ますので待っていてもらえますか?」

「分かった」


シャーリーは、そう言って女王陛下の住まう所に向かった。

広場の前に一人佇む俺は、エルフの里に取り残された気分だった。

周囲のエルフの敵意、警戒するエルフ達…。アウェー感が半端ないな。

まあ、それはいいとしてエルフの里がどうなっているのかを観察しようと思う。

エルフの住む家々は木の上だったり気の傍だったりと様々なようだ。シャーリーの家は気の傍に建てられた木造建築物の平屋だった。

しかし、流石は戦士長の家と言ったところだろう。他の家々に比べると広めの屋敷に思えた。規模は違えど、アルネイ王国で言うところの貴族的な立場なのだろうか?

その頂点に立つ存在、女王の住む屋敷は見た事もないほど、大きな木の隣に建てられていた。樹齢は何千年、何万年なのかわからないな。エルフの国のシンボルと言ってもいいだろう。

そう言えば、風の精霊ってどんな姿をしているんだろうか?エルフ達が崇めるほどの力を持っているんだから、きっと威厳ある姿をしているんだろう。

会ってみたいな。


「クルッポゥ」

「うぁ、びっくりした!」


突然の声?いや、違うな…鳴き声に驚いてしまった。俺に気配を感じさせないとはやるな…。


「…」

「…」


何だこいつ?全長2m程の大きな鳥だった。グレーの大きな鳥。首を前後に動かしながら歩く姿…。

あでぇ?最近、目が悪くなったかな?いや、疲れてるのかもしれないな。目の前に大きな鳩が見えるぞ…。


「クルッポゥ」


鳩だ!間違いなく鳩だった。


「何だ、お前?どこから沸いて出たんだ?」

「クルッポゥ」


くちばしを大きな木の方向に向けて鳴き声を発する。


「ん?あの木に住んでるのか?」

「クルッポゥ」


何を言っているのかわからないが、そうだと言っているように聞こえた。

女王のペットかな?それとも、気に住んでる魔獣的な何かかな?そう考えていると鳩は俺の体に擦り寄ってくる。


「おぃおぃ、何だよ。遊んでほしいのか?」

「クルッポウゥ」

「おぉ、そうかそうか。これ食うか?」


魔法の袋から豆を取り出して嘴の前に持っていくと勢いよく食べ始めた。

やっぱり鳩には豆か?歌にもあるぐらいだしな。もっとも前世での歌だけど…。

豆を食べ終えた鳩は俺の頬に頬ずりしてくる。


「何だよ。もっと欲しいのか?」

「クルッポゥ」

「ちょっとだけだぞ?」

「クルッポゥ」


鳩に豆を食べさせているとシャーリーが駆け寄ってくる。

結構、早かったな。もう少しかかると思ってたんだが…。


「シャー…」

「ヴェル様!」


シャーリーは怒っているようだ。おかしいな?何かやったかな?


「いきなりなんだよ?」

「風の精霊様に何をしているんですか!?」

「え?風の精霊?」

「そうです!」


辺りを見渡すがそれらしい・・・・・姿は見かけない。


「どれ?」

「ヴェル様の傍にいます…」


そう言ってシャーリーは鳩に視線を向ける。

え?

これが?

風の精霊?まじで?


「これが?」


鳩に指差して尋ねると…。


「風の精霊様に指を差さないで下さい!」


怒られちゃった。これが…風の精霊…。威厳もへったくれもないな。


「まじで?」

「まじで!」

「…」

「…」

「お前…風の精霊?」

「クルッポゥ!」


よしっ!見なかった事にしよう…。


「それでシャーリー、女王陛下には会えるの?」

「え?あっ、はい。お会いになられるそうです」

「じゃ、行こうか…」

「はい」


シャーリーが先導して女王陛下の住まいに向かう。

俺達の後に続いて後ろからペタペタと足音が聞こえる。

まさかと思い、振り返ると動きを止める鳩。また歩き出すとペタペタと足音が聞こえる。


「だ~る~ま~さ~ん~が~こ~ろ~ん~」

「…」


『だっ!』で振り返ると動きを止める鳩。また歩き出すと足音がついてくる。


「だ~る~ま~さ~ん~」

「…」


『がころんだっ!』で振り返ると僅かに首が動いた。


「ぶー。あうと!鳩さんあうと!」

「クルッポゥ…」


へたり込む鳩。どうやら、悲しいようだ…。


「もうっ!ヴェル様!風の精霊様で遊ばないで下さい!それに鳩じゃないです!風の精霊様です!」

「ああ、悪かったよ。そんなに怒らないでよ…。シャーリー…」

「大体、ヴェル様は風の精霊様を敬う気持ちが欠けてませんか?」

「何でよ?」

「勝手に食べ物を与えるし、毒が入ってたらどうするんですか?」


お前、俺を疑ってるの?


「シャーリー、俺を疑ってるの?シャーリーの頼みを聞いてここまで来た俺を?」

「いえ、そうではありませんが…」

「それにシャーリー…」

「…何ですか?」

「あんまり怒ると折角の美女が台無しだよ?」

「っ!~~~~知りませんっ!」


顔を真っ赤にしてそっぽを向いて歩き出すシャーリー。

ちょっと可愛いな。絶世の美女が可愛いか。何だろう?この気持ち…。ついつい苛めたくなっちゃう。


「クルッポゥ」

「…怒られちゃったよ…」

「クルッポゥ」


元気だしなよと言いたげに翼を広げて俺の肩に翼を置く。

何だこの生き物…。でも…ちょっと嬉しくなる。

後で、豆をあげようと思う。

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