1 プロローグ
初めて小説を書いた処女作です。誤字脱字が多くあると思いますが優しく見守って頂けると幸いです。読んだ感想があればお聞かせください。小説の更新は不定期になるかもしれません。※2016.5.10 改稿しました。
3メートル四方の小さな部屋の中央に荒い息遣いの少年がベッドに横たわっていた。
白い天井、白い壁紙、白い医療機器達に囲まれて、見た目15歳程の少年が苦しげな表情で虚ろな瞳をしている。
少年の傍らには、少年の両親が祈る様に少年の手を握りしめながら『神よ、どうかお救い下さい』と何度も漏らすように呟いている。
両親のベッドに横たわっている少年への悲痛な願いが、少年の命の灯が残り僅かであると物語っていた。
そんな両親と共に、今にも天に召されようとしている少年を横目に、白衣に身を包んだ看護師、そして医師が重苦しい空気の中、控えている。
――世の中は不公平であり、不平等である――
そう感じた事はないだろうか?
体躯に恵まれた力のある者、容姿に恵まれた美しい者、家が裕福な者、才能が有り成功を収める者……。
これに対して、生まれつき体の弱い者、容姿が醜い者、貧困な家庭に生まれた者、才能に恵まれず悩む者……。
前者が勝ち組とするならば、後者は間違いなく負け組である。
そして……、
……俺は負け組である……。
貧困な家庭に病弱な肉体で産まれ出でた事に、抗う様に生きて来た。何度も入退院を繰り返し、その度に両親の悲しそうな表情が忘れられない。
そんな俺でも両親は愛してくれた。素直に愛してくれた事に感謝もしている。しかし、その反面で入退院を繰り返す事による治療費……両親に対して後ろ目たさも感じていた。
だから、少年は強く願った。
――強くなりたい――
どんな病気もしない強い肉体が欲しいと……。
もし、生まれ変わる事が出来るのなら、どんな困難にも負ける事のない強い肉体が欲しいと……。
高い生命力と精神力を兼ね備え、力強さと束縛される事のない命を、自分が生きてきた証を、名を、歴史に刻み込めるような男になりたいと……。
そんな少年の願いと悲痛な面持ちで少年の傍らで神に祈る両親を他所に、悲しい機械音が部屋中に響き渡った。それは少年の死を、その存在をこの世から消えた事を意味していた。
享年15歳
本が好きで、様々な知識をその小さな頭に詰め込みながらも、世に役立てる事も出来なかった少年の短く、儚い生涯である。
しかし、少年は目を覚ました。否、意識だけを取り戻したと言って良いのかもしれない。
何故なら、体が思うように動かせないからだ。まるで、金縛りにあったかのように意識だけははっきりとしていて、体だけが動かないからだ。
意識だけが彷徨う暗い闇の中で、少年はこれまでの事を思い出していた。
もう助からないと思っていた。幾度となく命の灯が揺れる中で、何度も諦めかけた時もあった。それでも、やっぱり諦めきれなかった。生きる事への執着がそうさせたからだった。
暗い闇の中、過去を思い出しては懐かしさと辛い記憶が蘇る。
そんな中、ある事に気が付いた。いや、ある存在だった。小さな光が揺らめきながら近づいてくるのだ。
これは何だ?いつからあった?と思った時、小さな光はまるでこちらに気付いたかのように速度増して近づいてくる。
そして、光が自分の体に触れた瞬間、輝きを増していった。目も眩むほどの強い光が発せられた時、不意に意識は消失した。
少年は再び目を覚ました。そして少年は気付いた。先程まで居た体の自由が全く効かず意識だけの世界ではなかった。
目の前に移る光景は見知らぬ天井、見知らぬ壁紙を見て、実際は死んで天国に来たのかもしれないと思った。
困惑する中、少年の体は不意に浮かび上がった。いや、違う。抱き抱えられたのだ。少年は、誰かの手によって腕の中に抱き抱えられたのだ。
目の前に抱き寄せたであろう人物が目に映る。美しい女性だった。少年よりも年上であろうと思わせる、落ち着いた雰囲気を漂わせ、透き通る様な蒼い瞳の色。
美しい女性は、金髪の長い髪を揺らしながら優しく微笑みかけてくる。
少年は思った。この人は女神様なんじゃないだろうか、と……。
貴方は誰?と少年は聞こうとしたが声は出ない。まるで喋り方を忘れた様に口や舌が動かないのだ。まだ、金縛りが続いているのだろうと少年は思った。しかし、次の瞬間、少年は絶句した。
目の前に映る小さな手、小さな腕、そして小さな足……。まるで、赤ん坊の体の様に小さかった。ついさっき産まれたばかりの赤ん坊の様な体……。
いや、違う。これは赤ん坊の体なのだ、と少年は理解した。神様に祈った願いが聞き届けられたのだ、と……。生まれ変わったのだ、と理解した。
驚きと戸惑いの最中にいる少年に、目の前の美しい女性は語りかける様に囁いた。それは、とても優しい笑みを浮かべてとても優しい声で……。
「#$%&$&#、&&%$#%&&%$&。」
何語だよっ!
少年は、いや、赤ん坊は心の中で突っ込みを入れた。
金色の髪、蒼い瞳の色、外国人なのだから言葉が分からないのは当然だ。しかし、突っ込まずにはいられなかった。
先程まで死にかけていた筈の、いや、実際は死んだのだろうが、突然願いが叶ったのかの様に生まれ変わり、しかも赤ん坊からの再出発である。
動揺と困惑を抱え込みながら、どうする事も出来ない状況に混乱しているのだ。だからこそ、赤ん坊の次の行動は分かり易かった。
(おしっ!寝よう…。)
現実逃避だ。
今までのは全て夢なのだと思い、寝なおして夢から覚めようとしたのだ。
しかし、現実は無常である。
眠りから目覚めた赤ん坊は、これが現実であると思い知らされる事となる。
新しい人生の始まりと共に…。