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Forgotten Saga  作者: 水夜ちはる
第八章・闇の中の我が身焦がせし焔
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第4話

斜陽の王国に祭上げられた『英雄』の少女。

剣と銃と魔物と陰謀のダークファンタジー!


第八章・「闇の中の我が身焦がせし焔」

冤罪により反逆者の烙印を押され、牢獄につながれたレルシェル。

その闇の中で彼女が見たものとは――?

「ふう……今日はこんなところかしらね?」

 まるで少女のように勢いよく椅子に身体を投げ出し、ディアーヌは背伸びをした。

 王宮における彼女の私室、本来王妃である立場の彼女の部屋は絢爛豪華であるべきだが、事実上彼女の執務室となっており、その部屋は質実剛健でバラの香りはおろかインクと紙の匂いしかしない。それもそのはず彼女の前にある大きな机の上には無数の書類が積み重なっている。

 左の山が彼女の決済を待つ書類であり、右の山が彼女の決裁が済んだ山だった。

 今は右の山がかなり高くなっているが、毎朝それは逆転し、その日の夕刻にはさらに逆転すると言う周期を辿る。

 セリオスが政治を放棄している今、王の決裁権が必要な行政上の書類を彼女が一手に担っているのだ。通常、王の代理人たる大臣が代わりに決裁を行なうものがほとんどだが、それもすべて彼女は担当している。これが並み居る大臣が束にかかっても彼女の処理能力に追いつくことが出来ず、それでいて正確な判断の元決済が進むので誰も文句が言えない。彼女は行政処理の鬼才であった。もし彼女がいなくなればたちまちその行政処理は滞り、フェルナーデは動脈硬化を起こしかねない。

 ディアーヌはベルを鳴らした。侍女を呼ぶためである。

 ほとんど間をおかずして、侍女が一人だけで現れた。彼女はディアーヌのたった一人の侍女である。彼女は書類の山を見つめ、尊敬と呆れを混ぜ込んだ顔でため息をついた。

「今日の仕事はおしまい。お茶を淹れてくれるかしら?」

 ディアーヌは柔らかに微笑んで言った。

 国の財政は逼迫しており、多数の侍女を雇う余裕はないと言って彼女は一人を残して皆解雇してしまった。彼女自身、深窓の令嬢とは程遠い育ちで身の回りのことは何でも出来たし、逆に言えばその程度のことしか出来ない侍女など要らないという実利主義に基づく考えだった。

「はい、ただいま。ですが王妃様、フィルマン男爵がお見えになっていますが、お会いになるのはお茶の後にいたしますか?」

 侍女の言葉は淡々としていたが、要件だけはしっかりと伝える女だった。ディアーヌははっとした顔で侍女を見た。

 職務のあと、カミール・デ・フィルマン男爵との会合を予定していたことを彼女は思い出した。

「もうこんな時間だったのね。ここにお通しして。お茶は二つね。客人だからお菓子も忘れずに」

 ディアーヌの言葉に侍女は眉をひそめた。

「ここにですか……」

 この部屋にも応接用のソファとテーブルがある。辛うじてソファは手付かずであったものの、テーブルの上には書類がたっぷりと積まれている。その他にも何処かしこに書類や資料が山積みされたこの部屋は男爵号を持つ貴族を向かえられる場所ではない。

「そのテーブルの書類はもう処理済なのよ。まったくいつまで経っても取りに来ないんだから。明日にでも各所に連絡して取りに来てもらうわ。とりあえずどかしておくから、あなたはお茶の用意と男爵を連れてきていただけるかしら?」

 彼女はそう言うと立ち上がり、軽快な足取りでテーブルに進むとその上を片付け始めた。と言っても、置いてある書類を他の場所に移しているだけで、整理と言うにはやや雑な方法ではあった。

 侍女は無礼にも大きくため息をつくと、一礼をして何も言わずに命じられたことをしようとした。

「あ、フィルマン男爵と会うのは私的な目的ですから。誰にもしゃべってはだめよ」

 ディアーヌは書類を持ったまま、含みのある笑みを浮かべ侍女に言った。侍女は軽く驚きの表情を浮かべたが、わずかに苦笑を浮かべるとゆっくりと頷いた。

「はい、心得ております。王妃様――」

 この侍女は若く淡白で無礼なところがあるが、聞き分けが良く機転が利くのでディアーヌのお気に入りであった。



 ディアーヌは元々は下級貴族のオルティアナ家出身の官僚である。貴族の女性が官僚になるなどあまり良い目で見られなかったが、彼女の父は彼女の才能を見出しており、十六の年に父の推薦状と共に宮廷官僚となった。すぐさま彼女の能力は知れ渡るところとなり、財務と司法に関しては右にでる者がいなくなった。彼女は異例の出世を遂げて宮廷内で立場と大きな発言力を持つようになる。

 その彼女の活躍は宮廷を離れていたセリオスの耳にも届くようになる。

 無論宮廷内では突出した能力を持つ彼女を快く思わないものも多く存在した。若年であり、女性と言う差別も当然のようにあった。強力な後ろ盾を持たない彼女は、宮廷政治の中で孤立していた。このままでは謀殺されかねないと見たセリオスは彼女を王妃として迎え入れることを宮廷に提案した。

 官僚たちは泡めきたった。王族たちも同様だった。下級の貴族の娘が、官僚としての働きを認められて王妃に迎えられるなど前代未聞だった。

 しかしその提案は意外にも大きな反対もなく受け入れられることとなった。特に宮廷官僚からは賛成の声が多かった。

 セリオスは政治を放棄した状態だったため、その王の妃となるのならば王妃が王の権勢を牛耳ることはなく、ディアーヌを行政の場から体よく追い出せると考えたからだ。

 しかしその目論見は外れた。

 ディアーヌはセリオスの求婚のときに、これまでの官僚としての職務を継続すること条件にしていたのだ。

 彼女はセリオスの優しさや愛を十分に理解していたが、彼女はそれ以上にしたたかで合理性を持った女性だった。

 王妃の立場を得た彼女は自らの権限、裁量権を拡大して行った。権力の集中は他の権力者からの非難を受けたが、民衆からは広く受け入れられた。公正で適切な彼女の行政処理は、王国にとってその流れは正の方向へ導かれたからである。

 『官僚王妃』などと影で噂されるのにもさほどの時間はかからなかった。ただ、決して彼女を侮蔑するものではなく、畏敬と尊敬を集めた結果の二つ名だった。



 フィルマン男爵は王妃の私室に招かれて、その光景にしばし唖然とした。しばらくしてなるほどこれが『官僚王妃』の私室と言うものかと何とか納得したものである。

 能力からすればディアーヌの仕事ぶりは官僚の歴史に名を残すほどであろう。その彼女をもってしてもこの王国の落日を緩やかにすることは出来ても止める事はできていない。人間で言えば一つの器官が健常でも体全体が老衰していては死は免れないと言うことかとフィルマンは思った。

「おひさしぶりですね、フィルマン男爵。いえ、今はフィルマン将軍とお呼びするべきでしょうか?」

 ディアーヌとフィルマンは旧知の仲であった。ディアーヌが王妃となる前、軍部に対する予算配分を担当していたとき、フィルマンは第十九師団の参謀で師団に配分される予算について宮廷内で言い争ったことがあった。

「いや叔父上の御威光の賜物だよ。私の能力を正当に評価されたわけではない。それに出世と言うならばあなたのほうだ……おっと、今はあなたは王妃陛下でしたな。これはとんだご無礼をお許しください」

 フィルマンはそう言うと膝をついてディアーヌに対して敬意を示した。その態度にディアーヌは苦笑すると、席に座るように促す。

 フィルマンは彼女に従い、席に着くと辺りを見渡して表情を緩めた。

「相変わらず仕事の虫のようですね。王妃様の仕事ぶりは軍の末端まで聞こえておりますよ」

「あら、これでも仕事が残っていようがいまいが時間には切り上げるようにしているのですよ。陛下との時間も仕事と同じように大切です。特に陛下のような心に傷を負っている方には家族の支えが必要なのですから」

 ディアーヌはそう言うと、侍女が運んできた紅茶を口につけて微笑んだ。

 ディアーヌとフィルマンは軍予算について論争した過去があるが、ディアーヌの緊縮策に対し装備の維持に疑念を持ったフィルマンの反論は正当に的を得たものであり、ディアーヌを納得させるに十分なものであった。逆に二人は結託し、流用されていた軍部の予算の不正を突き止め、一部を改善させたこともあった。

 二人の間柄は能力と人格を認め合っており、良好な関係だった。

「今度はルテティア防衛の司令官の任に就かれたそうですね」

 ディアーヌの切り出しにフィルマンは肩をすくめてため息をついた。

「我ながら貧乏くじを引かされる宿命なのですかね」

「貧乏くじ? 総勢十二万の大軍の司令官が?」

 リシェール率いるレオンの反乱軍は破竹の勢いで進撃し、ルテティア近郊まで迫っていた。その途中、降伏させた兵や彼らに同調する諸侯や師団などの軍事勢力を糾合し、その数は八万まで膨れ上がっていた。対する王国軍はルテティア周辺に常駐する師団と王都の騎士団、臨時の召集をかけて十二万の兵力を擁して迎え撃つ体勢を整えていた。

「名誉なことだと思いますよ。大軍を率いて強敵に当たる。武人の誉れです。しかし、歴史の転換点の旧い勢力の敗軍の将。そんな形で歴史に名を残すのは貧乏くじ以外の他にありますかね?」

 フィルマンは自虐的に笑って言った。

 彼の傘下の兵力は十二万、反乱軍の兵力は八万余であり、またルテティアの高い城壁を頼りにすれば防衛側としてはかなり有利な条件と言える。その上でフィルマンは負けると言った。歯に衣を着せぬのがこの男の性分であった。

 王国軍は数は多いが反乱軍に対して敗北を重ねておりその士気は低く、反対に反乱軍の士気は高い。また王都や各地方の民衆には革命の気運が高まっており、王国よりも革命政府を支持する動きが目立っている。王国軍の基盤は安定したものではなかった。彼我の戦力は数字の他の要素を加味し、また歴史の潮流が王国側にないことを彼は言葉にしたのである。

 ディアーヌも戦争を専門としないが、そのことを理解していた。

「ではこの戦いは負けると?」

「そうです。仮に私が勝ったとして、時流は変わらんでしょうな」

 フィルマンは運命論者ではない。敗北主義者でもない。それは彼が手に入れた情報を合理的に解析し導き出した答えだった。

「この人事、テオドール公直々によるものだと聞きましたが?」

 ディアーヌの質問にフィルマンは首を縦に振った。

「よくご存知で。これは叔父上が差配した人事です」

 フィルマン家はテオドール公爵家に繋がる一族である。言わば彼はテオドール公の一派に含まれる人間だった。

「叔父上には感謝しておりますよ。三十になるころには師団長、そして今数個師団を預かる大軍の司令官なのですから」

 フィルマンの口調は皮肉をこめたものだった。

 彼は現在三十二歳。高位の貴族であれば師団長クラスになっていてもおかしくはないが、多数の師団をまとめる一軍の将には若い。テオドールの権威があってこそだ。ディアーヌの評価では彼はその地位にあってもおかしくない能力と人格を持っていて、優れた指揮官となりうると考えていたが、テオドールがその地位につけたことは彼女の評価とは若干違った意味合いを持つ。

 それは彼が過去にディアーヌと共に不正を暴いたように、彼はテオドールにとって「口うるさい」甥であるためだった。

「勝つにしろ、負けるにしろ、叔父上は私を遠ざけたいのでしょうね。この戦いが終わってこの王国と叔父上の地位が維持されているならば、私は勝てば栄転、負ければ左遷と言う形で辺境の司令官か総督と言ったところでしょう」

 フィルマンは半ば諦めたような顔で言った。能力と人格において彼は優秀であるが、流されやすい性格が玉に瑕だとディアーヌは苦笑した。

「あなたも苦労が耐えませんね。それで本題なのですが、王国軍の総司令となったあなたにひとつお願いがあってここにお呼びしたのです」

 ディアーヌは表情と態度を引き締めてフィルマンと正対した。ディアーヌの雰囲気を感じ取ったフィルマンもわずかに目を細めて気を引き締める。

「お願い、ときましたか」

「そう、これは願いです。あなたの言う時流と言うものが変えられないにしても、この先、次代に必要とされる人物についてです」

「どういうことです?」

 ディアーヌの物言いにフィルマンは知的な好奇心を刺激された。

 ディアーヌは腕を組んで右手の人差し指を顎に当て、挑戦的な瞳でフィルマンを見つめた。

「レルシェル・デ・リュセフィーヌをもう一度英雄としてこの王都を救わせる。その奇跡を実現できればこの戦い、勝利を得るまでは行かなくても五分に持ち込むとは出来る」

 フィルマンはディアーヌの視線と言葉に打ち抜かれた。ディアーヌの紫紺の瞳は、知的で危うい光に満ちていた。だがその輝きは不思議とフィルマンを惹きつけて離さなかった。

「あの、レルシェル・デ・リュセフィーヌを、英雄に、ですか」

 フィルマンは驚きで言葉もたどたどしく言った。

「彼女は今、反逆の疑いで囚われているのでは?」

 それがテオドールの陰謀であることをフィルマンも感じ取っていた。それを承知の上での問いだった。

「そう彼女は今、王国に反逆したと疑いがかけられています。あの英雄もが王国を見限ったと市井は揺れています。いえ、市井だけではなく王国軍についている将兵も同じ気持ちでしょう。その彼女が……この王都の危機に救世主として現れたら。彼女が王国を支持し忠誠を誓うとしたら。民衆や将兵はどう感じるでしょう?」

 ディアーヌは挑戦的な口調で言った。それは自身でも演出過多ではないかと感じるほどだ。それでもそれはフィルマンを乗せるために必要なものだと思った。

 フィルマンは驚きの表情のまましばらく固まっていた。その後、ディアーヌの言葉を反芻した彼は含みのある笑みを浮かべてディアーヌを見つめた。

「王国を見限ったと噂されるかの英雄に、王国の危機を救わせる、か。なるほど、王都の市民は狂喜乱舞で彼女を迎えるでしょう。そして守備兵の士気もあがる。演出としては申し分ない」

 フィルマンはディアーヌの企みを正しく理解していた。それにディアーヌは満足と安堵の表情を浮かべた。

「しかし、演出はそれで良いとして、主演のほうが拒否したらどうします? 私はあのリュセフィーヌ卿が反逆など思いもよりませんが、この仕打ちに王国から気持ちが離れても仕方がないかと思いますが」

 フィルマンの意見はもっともだ。ディアーヌも間をおかず頷く。

「それはその通りですね。実はこの話、王国を助けるための策ではないのです」

 フィルマンはまたも驚きの顔をしなければならなかった。

「あなたの言うように時流は革命に向かっているでしょう。遅かれ早かれこの王国は終焉を迎えます。それに未練はありません。これはレルシェル自身を救い出し、その名誉を回復するための策なのです。公正で清廉潔白であることが彼女が彼女たる所以なのですから。王国のために力を尽くしてきた彼女に、汚名を着せて謀殺するなどあってはならない。彼女が王国を見限るというのならそれはかまわない。それだけのことをしたのです。それでも私は彼女に出来うる限りのことをしなければならないと思うのです」

 ディアーヌは今度は極めて冷静な口ぶりだった。フィルマンはそれを黙って聞き入れた。

 ディアーヌはしばらく間をおくと一つの書類を取り出してフィルマンに見せた。

 それは名簿だった。若手の官僚や軍人の名前が連なっていて、フィルマンにも見覚えのある名前がいくつかあった。

「これは?」

「反乱軍……いえ、レオンの革命政府に宛てに記したものです」

「……どういうことです?」

「次代を担うべき優秀な官僚や軍人を選び抜きました。仮に王国が倒れても民衆には生活があります。民衆の生活を守るには行政が滞ってはいけない。もちろん革命が起これば今まで通りとは行かないでしょうが、革命政府に力になれるものを重用して欲しいと頼むつもりです」

 ディアーヌは驚くフィルマンを横目に淡々と話を進めた。

「フィルマン、あなたも敗軍の将となれば責任を免れない立場でしょうが、あなたも次代に必要な人物だと私は見ています。もし私の願い、レルシェルを助けていただけるなら、戦いの行方はどうあれ、あなたの責任は軽いものにしてもらえるよう嘆願するつもりです」

 フィルマンはディアーヌを呆然と見つめた。ディアーヌはどこか達観したような目をして微笑んでいた。彼ははっとなってもう一度目を通す。そこにはやはりディアーヌの名前はない。

「オルティアナ……いやディアーヌ様、あなたこそ次代に有用なお人だ。何故名前がない」

 フィルマンの声にディアーヌはゆっくりと目を閉じて首を横に振った。

「革命は政治の民主化を謳っています。王政はその対極。また敗者としての王家は何かしらを示さなければならないでしょう。幸いなことに陛下は政治から離れ、民衆にもそのことは広く伝わっています。実験を握る王族のテオドール公、そして王妃の私の二つの首くらいがあれば、一定の納得は得られるのではないでしょうか」

 その声は静かで穏やかなものだった。フィルマンは愕然としてそれを聞いた。

「し、しかしそれならばやはり責任を取るのは王だ。それは陛下の役割……」

「良いのです」

 フィルマンをディアーヌは遮って言った。

「私がそうしたいのです。私は王妃となるとき、陛下を守ろうと思った。あの人の代わりとなって、あの人とこの国を守ろうと決意したのです。もし私の命で陛下を守れるなれば、それは私の本懐」

 ディアーヌの言葉は決して大きくなかった。それでも言葉の端々に彼女の強い意志が載っていることをフィルマンは感じた。

 この人も英雄だ。戦場に立つわけでもない、レルシェル・デ・リュセフィーヌのような華やかさはない、だが彼女よりもずっと前からこの斜陽の王国を影で支え続けてきた強き人だ。王政への積もり積もった民衆の不満と怨嗟を一身に受けて断頭台にあがるディアーヌの姿が目に浮かぶ。しかし敗者には敗者なりの幕引きと言うものがあり、それもこの王国の終末に必要な儀式と言えよう。レルシェルが未来に必要な人間だとしたら、このディアーヌは現在に必要な人間なのだ。

 フィルマンはソファを降りて片膝をついて首を垂れた。騎士が忠誠を誓う時の姿勢だった。それはこの部屋を訪れた時の軽々しい態度ではなかった。

「王妃よ。このカミール・デ・フィルマンがこの身命に誓ってあなたの願い、遂げて見せます」

 フィルマンは低く強い決意を声にした。騎士の誓いだった。

 ディアーヌはゆっくりと立ち上がると彼の肩に手を乗せ、満足そうな笑みを浮かべて優しい声で言った。

「頼みました。フィルマン。この国の……未来のために」

 この時、ディアーヌはまだ二十六歳。悲愴な決意を語る彼女の表情から、優美で柔らかなな笑みが途絶えることがなかった。


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