5話
「助けてくれって……何があったんだ?」
仲間を助けてくれと言う少年から詳しい事情を聞いてみる。
「盗賊に襲われたんだ。おれたち家族を殺した盗賊に。みんなはおれを逃がすためにやつらに捕まった。だからあんたに仲間を助けて欲しいんだ。あんたなら出来るだろ」
「ふーん。昼間僕らに襲い掛かったくせによくそんなことが言えるね。それとも自分のやったことを忘れたのかい?」
まだらは少年に侮蔑の眼差しを送る。
「わかっているさ。けど家族を殺されて住んでいた場所も燃やされたうえに周りは誰も助けてくれなかったからおれたちにはあれしか生きていく方法はなかったんだよ」
少年はただ自分の無力さを怨むように嘆く。
「そんなのただの言い訳だね。そんなに助けて欲しかった――あたっ。何をするんだい大和」
頭にチョップを喰らったまだらが不機嫌そうに俺を見上げる。
「お前こそ何してんだ。ガキをいじめんなよ」
「苛めてるわけじゃないさ。こうやって恩を売って君のために動く忠実な手駒を増やそうとしただけだ」
「んなもんいるかよ。だいたいお前だって敵だったくせにずけずけと一緒にいるじゃねーか。人のこと言えねーだろう」
「だって僕は許嫁だからね」
と言うまだらを無視することにして俺は少年に話しかける。
「それで、その盗賊ってのはどこにいるんだ」
「……」
少年が俯きながら首を横に振る。
「しょうがねーな」
「おや? どこにいくんだい?」
「決まってんだろ。居場所を知ってそうなやつのところに聞きに行くんだよ」
「なるほど。村長達ならあそこの家にこそこそと集まってたよ」
「そうか……って何で知ってんだよ」
いつの間にそんなことを調べたんだ。
「珠に調べさせたのさ。君が寝ていたら彼らが下手なことをしないようにお仕置きをしてあげようと思ってたからね」
「そうか。ありがとうな」
「……僕の言うことを信じてかい? もしかしたら君を殺す算段を企てていたかもしれないよ」
「そん時はそん時だな。第一お前は俺の許嫁なんだろ」
「……はぁ。君と話していると調子が狂うなぁ」
とまだらは俯きながら眉間に指を当てる。こいつにしては珍しい反応だ。もしかしたら自分から言うのはいいけど俺から言われると恥ずかしいのか? こいつの考えはよくわからんな。
ともかく俺はまだらの教えてくれた家へと近づく。
近づくと家の中から声が漏れてきていた。
「もうこんなことやめたほうがいいべ」
「そうだべ。こんなことしてもやつらのいいように使われるだけだべ」
「わしだってやつらの言うことなど聞きたくないわ。おかげで心労が祟ってこの通り毛がごっそり抜けたんだぞ」
「いや村長の毛は元々……」
「しかしやつら逆らえば宿場で働いていた連中のように殺されるだけだ」
「それは……」
どうやら村の連中もグルっていうわけではなく脅されているようだ。通りで身なりもよくはないうえに目が死んでいるわけだ。共犯ならそれなりに見返りをもらっているはずだもんな。それと村長の毛は心労ではなく遺伝だろう。
「おい」
「あんたは……。もしや今の話を聞いていただべか」
俺が家に入るとその場にいた村人は警戒するように俺を見る。
「ああ、聞かせてもらった」
「なんだと!」
「まさかわしの毛の秘密も……」
村人たちが敵意をむき出しにこちらを見てきた。秘密を知ったからには殺すと言わんばかりだ。村長の毛は秘密でもなんでもないだろ。
「別にあんたらとやりあうつもりはない。それよりも盗賊がどこにいるのか教えろ」
「そんなことを知ってどうするつもりだべ」
「盗賊どもをぶっ倒すんだよ」
「盗賊を倒すだと!? そんなのできるだべか。盗賊は三〇人以上いるだべ」
「ああ」
俺の返答に村人たちはざわつく。本当にできるのか疑っているようだ。
「じゃあ攫われた娘たちも帰って来るのか?」
「ああ」
「わ、わしの毛も返ってくるのか!」
「それは無理だ」
「がーん」
「ど、どうするべ」
一人激しく落ち込む村長を無視して村の連中は協力するかどうか話し合う。しばらくかかると思ったが結論は思ったよりも早く出たようだ。
「盗賊の隠れ家を教えるけんど力を貸すことはできないけどいいだべか」
「構わない」
むしろ俺の言葉を素直に信じて居場所を教えてくれるだけで十分だ。
「じゃあおらが案内するべ」
と名乗り出たのは最初にこの村に話しかけた村人だ。
「おらの娘も盗賊に捕まっただ。あんたの言うことが本当なら一刻も早く助け出すたいだ」
「わかった。すぐに出発するから頼むぞ」
「い、今からだべか」
すぐに出るとは思わなかったのか村人が驚く。
「当然だ。時間がないからな」
捕まったっていう子供が心配だからなるべく早く助け出したい。盗賊にしてみれば子供なんてお荷物でしかないからな。殺すか奴隷として売り飛ばされるかのどっちかだろう。早いに越したことはない。
「わかったべ。少し待ってけろ」
そう言うと村人は準備のため家から出ていく。
俺も栞那とまこちゃんをそのままにしておくわけにはいかないから一度村長の家に向かう。
村長の家では栞那とまこちゃんが寄り添うようにぐっすりと寝ていた。こうしてみると仲のいい姉妹みたいだ。
このまま寝かしてあげたいけどこの村に残しておくもの不安だし起こすことにする。
「栞那、栞那」
「んっん」
栞那を揺さぶり起こそうとすると栞那は甘い吐息をもらす。服の隙間からはだけた栞那の胸が目に入り目のやり場にこまる。
「おい栞那」
さっきよりも強く揺さぶると栞那もゆっくりとだが意識を覚醒させる。
「ん……やま……と。どうしてここに大和が?」
ぼんやりとした目で栞那が俺の顔をまじまじと見ると次の瞬間顔を真っ赤にする。
「ま、待て大和! 夜這いなどまだ早い! まだ心の準備が……いやでも大和が求めるのなら……」
「あれっ? 大和さん」
栞那がわたわたと慌てるとその騒ぎを聞いてまこちゃんも目を覚ます。
「やっぱ駄目だ大和! まこ殿が見てる前でするなど破廉恥すぎるぞ!」
「落ち着け栞那。お前が思ってることは一切ない」
とりあえず変な誤解をしている栞那を宥める。そして栞那が落ち着いてきたら事情を説明する。
「盗賊退治ですか。あなたやるというのなら付き合いますが、人質がいるとなると厳しいですね」
「わかっているさ。いくつか案は考えてある」
「さすがですね」
と栞那は言うがどこか機嫌が悪い。寝起きだからか?
「あの……わたしも一緒にいっていいんですか?」
まこちゃんが不安そうに訊ねてくる。
「うん。何かあった時にそばにいてくれた方が守りやすいしね」
「わかりました」
まこちゃんはそう返事をすると出発の準備を始める。
そしてみんなの準備が終えると盗賊退治に出発する。