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4話

 焼け残った宿場から歩くことさらに一時間。街道から少し離れたとこにその村はあった。


 世帯数は五〇にも満たない小さな村。元々はもっと人がいたのだろうけど人が住んでいなさそうな空き家がちらほらと見えて過疎化が進んでいることが容易にうかがえる。


 遠目から見る限り住民の生活は苦しいようで着ている服はボロボロというよりボロを纏っているといった方がいいほどに擦り切れている。目もどこか虚ろで生気が感じられない。


 ……大丈夫かここ?


「何か嫌な感じがしますね」


 まこちゃんが村を見てそんな感想をこぼす。


「しかしここ以外に寒さを凌げる場所はないですからね」


 栞那が仕方ないといった表情で言う。


 二人の言いたいことはよくわかる。けどとりあえず寝床を貸してもらえないか村人に交渉してみないとな。俺達は村へと足を踏み入れると近くにいた村人に話しかける。


「すいません」


「んだ?」


「突然で申し訳ないけど今晩寝床を貸してもらえないだろうか?」


「旅人だべか?」


 村人が警戒するようにこちらを見る。


「ああ」


「……」


 俺の返答を聞くと村人は怪訝そうに俺を上から下まで観察してくる。あんまりジロジロ見られるのは気持ちのいいものではないな。でも向こうからしたら俺らは得体の知れない人間なわけだし警戒するのは当たり前か。


「村長を呼んでくるべ。待ってけろ」


 観察を終えた村人は無愛想にそう言い残して村の真ん中にある大きめの家の中に入って行く。あそこが村長の家だろうか。


 それから待つこと数分、家の中から四〇代ぐらいのおじさんが飛び出してくると俺達の元へと駆け足でやってくる。


「これはこれは旅のお方。私が村長です」


 村長は俺達の前までやってくると恭しく頭を下げる。過疎っている村の村長だけあって頭も過疎っていた。苦労は顔に出るというけど頭にも出るんだな。


「宿泊を希望していると聞いたのでよろしければ私の家をお使いください」


「いいのか?」


 予想外の申し出に驚く俺達。


「俺達は適当なあばら屋で十分だけど」


「いえいえ、旅の方こそ長旅でお疲れでしょう。どうか我が家をお使いください」


 こうまで言われると断りづらいな。栞那が村は閉鎖的だと言っていたから煙たがられると思っていたのに意外だ。念のためにどうするか三人に目配せをする。


 栞那とまこちゃんは警戒しつつも好意に甘えるべきだと目で訴えてきた。まあ何かあっても栞那がいれば村人程度簡単にのせるしな。


 一方のまだらは興味深そうに村長を見ていて俺の目配せに気付いていない。そんなに村長の過疎化が気になるのか?


 まあとりあえず野宿するよりはましか。


「じゃあお言葉に甘えて泊まらせてもらうか」


「ええ、どうぞどうぞ」


 と言って村長に家まで案内される。


 村長の家はさすが村長が住む家だけあってそれなりの大きさだ。当たり前といえば当たり前だが俺がこの世界に来た時に住んでいた長屋とは大違いだ。とはいっても部屋は一つしかなく部屋の大きさは二十畳程度で部屋のみで真ん中に囲炉裏がある。


 村長は家まで案内すると俺達の分の食事まで用意してくれた。食事といってもご馳走と言うには程遠いがこの村の現状からみればそれなりにいい食事とも言えた。食事を終える頃には日がすっかり暮れて腹が膨れたまこちゃんは少し眠たそうな顔をしていた。


 そんなまこちゃんを見て村長が寝床を用意してくれたがさすがに俺は嫁入り前の男女が一緒の部屋で寝るのはまずいと言って近くにあった空き家を案内してもらう。


「ここでしたら最近まで人が住んでいたので問題なく一晩過ごせるかと思います。私は近くの家にいるので何かありましたらお呼びください」


 村長はそう言って家を後にした。


 俺はちゃちゃっと囲炉裏に火を起こし部屋が暖まるのを待つ。


 ……。


 …………。


 ………………。


 それからどれくらい経っただろうか。


 辺りは静まり返り聞こえる音と言えば風を受けて戸がカタカタと揺れる音と囲炉裏に組んだ薪がパチパチと弾ける音のみ。


 そんな誰もが寝静まった時間に俺は寝ることもなく意識を覚醒させ辺りを警戒していた。


 あの村長はどうも胡散臭い。あの頭のせいで胡散臭く見えるのだろうか? とにかく何か仕掛けてくるなら今夜だろう。


 しかしこうも何もないと自分の心配は杞憂だったのかとあくびをかみ殺していると、家の前に誰かの気配を感じた。


「誰だ」


「やあ、僕だよ」


 そんな緊張化もない飄々とした声で家の中に入って来たのはまだらだ。


「何の用だ」


「夜這いに来たのさ」


「帰れ」


「つれないなぁ。僕も女の子なんだからそんなことを言われたら傷つくよ」


 まだらは唇を尖らせ拗ねたように言う。


「だったら友達の家に遊びに来たみたいに気軽に言うな。色気もクソもない」


「なるほどなるほど、確かにそれもそうだ。次からは気を付けるよ」


「次なんてなくていい。それよりも何の用だ」


 こいつのことだ。ただそれだけのためにきたわけがない。


「実は君に話したいことがあってね」


「話したいこと?」


「ほら、昼間に見た宿場のことさ」


 宿場というとあの焼け残った宿場のことだろう。


「あそこがどうかしたのか」


「ちょっと気になることがあってね。調べてみたら焼死体があったんだ。切り傷とかあったから誰かに殺されたんだと思うよ」


「何が言いたいんだ」


「ここまで言えば君なら理解できるだろ?」


 まだらは俺を挑発するように言う。


「……」


 ここに来るまでに焼かれていた宿場。それもただの火事ではなく殺されたということは、何者かの手によって意図された出火ということだろう。そしてその宿場から近くにある村は旅人を歓迎するように出迎える。


「つまりこの村に旅人を泊まらせるために誰かがあの宿場を燃やしたってことか」


「ご名答」


 まだらがそう答えると家の外でガタッという物音が聞こえた。


 俺はその音を聞いて慌てて外に出るとそこにいたのは昼間俺達に襲い掛かって来た盗賊もどきの少年が倒れていた。


 少年はなぜかあちこちに暴行を受けた跡がありボロボロだった。俺にやられた怪我ではない。


「おい! 大丈夫か。何があった」


「あんたは……」


 俺が少年に駆け寄って声をかけると少年は服を掴んで懇願してくる。


「頼む! 仲間を助けてくれ!」


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