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3話

 まだらが言った通りあれから一時間ほど歩くと宿場にたどり着いた。たどり着いたのだが……。


「おい、これはどういうことだ」


「うーん。これはさすがに僕も予想外だな」


 俺の問いにまだらも腕を組んで難しそうな顔をする。


 俺達の目の前にあるのは燃えカスとなった宿場の残骸。とてもじゃないが泊まれそうにない。


「状況から出火して一月か二月ぐらいってところだね」


 燃えカスとなった木材の風化ぐらいを見ながらまだらがそう判断する。


「ったく、よりにもよって火事で全焼してるとはな」


「どうします?」


 と栞那が聞いてきた。


「どうするっていってもなぁ。ここらへんに泊まれそうな場所なんてなさそうだしな」


 辺りを見回しても建物の姿は見当たらない。


「とりあえず近くの村で寝床を貸してもらうか。それがダメなら野宿だな」


「村ですか……寝床を貸してくれるか微妙かもしれませんね」


 村と聞いて栞那は苦々しい表情を浮かべる。


「そうなのか?」


「ええ、村は閉鎖的ですからね。基本的によそ者を嫌います。お金を積んでも寝床を貸してくれるかは半々といった感じですね」


「確かにそうですね。貸してくれてもいい顔はしませんし」


 栞那の意見にまこちゃんも同意する。


「そっか」


 栞那もまこちゃんも流民の時にそういった苦労があったんだろうな。言葉に重みを感じる。


「まあとりあえず行ってみよっか。万が一ってこともあるだろうし」


「そうですね。ここにいても仕方ありませんし」


「はい!」


 栞那とまこちゃんは了解してくれたがまだらのやつの返事はない。


 どうしたと思いまだらに視線を向けるとまだらのやつは焼け残った宿場の残骸を見ていた。


「何してんだ?」


「少し気になることがあってね」


「気になること?」


「それについては後で話すよ。それよりもこれからどうするんだい? 野宿でもするのかい?」


「いや。この近くの村で寝床を借りようかと思う。さすがにこの時期に野宿はさけたいからな」


「ふーん。この近くの村っていうとこの街道沿いに進むと村があったはずだね」


「じゃあそこだな」


「おや? 僕の言うことを素直に信じるんだ」


「信じるも何もそこで嘘をついてもお前に得はないだろ。野宿をしたいってんなら別だけど」


「まさか。僕だって野宿は勘弁だよ」


「じゃあ行くぞ。もたもたしていたら日が暮れるからな」


「わかったよ」


 とまだらはどこか機嫌よさ気に答える。いつもこう素直だと楽なんだけどな。


 というわけで俺達は火事で全焼した宿場を後にして近くの村へ向かうことにした。







「おい、おいってば!」


「……っ」


 自身の身体を激しく揺さぶられながら少年は意識を取り戻す。そして意識を取り戻すと同時に腹部に激しい痛みを感じる。


「いつっ!」


「だいじょうぶか伊織?」


 お腹を押さえる少年を心配して仲間の一人が声をかけてくる。


「少し痛むが大丈夫だ。それより他のみんなは?」


 少年――伊織は痛みに耐えながら仲間の心配をする。


「みんな身体が痛むみたいだけど生きてるよ」


「そうか」


 仲間が生きていると聞いて伊織は安堵する。周囲を見渡せばみんなどこからしら痛みがあるようだけど命どころか怪我すらしていないようだった。


「やっぱり僕らが盗賊の真似なんて無理だったんだよ」


 仲間の一人が脇腹を押さえながら弱々しく嘆く。すると他の仲間が反論する。


「文句を言うなよ! お前だって納得してただろ」


「……でも」


「いや、悪いのはおれだ。おれがやろうって言い出したんだから」


 ケンカをしようとする仲間を仲裁して伊織は謝る。


「やっぱおれらのような子供じゃ大人には勝てなかったんだ。それを無理してやってみんなを巻きこんじまった」


「伊織……」


「僕こそごめん」


 しゅんとする伊織を見てケンカをしようとしていた二人も思わず反省する。


 そんな仲間を見て伊織は余計に自分の弱さを実感し仲間を守れない自分に憤りを感じる。


 もっと自分に力があれば仲間を、家族を守れたというのに……。


 悔しさのあまり拳をギュッと握り締めると手の中に何かを持っていたのを感じる。


「これは……?」


 自身の手の中には二つの袋があった。


「さあ? 気がついたらお前の手の中にあったぞ。取ろうにもお前ががっちり掴んでいるせいで取れなくて中身がわからなかったんだよ」


「あっ!」


 伊織はそこで思い出す。気絶する前に自分をのした男がこの袋をくれたことを。


 伊織はそのことを思い出し袋の中身を急いで確認する。


 片方の袋の中には米が入っており、もう片方の袋の中には小判が入っていた。子供五人が一冬超すには十分な金額だ。


「すげー! どうしたんだよ伊織! 小判なんておれ初めて見たぞ!」


 袋の中身を見た仲間が大声をあげると他の仲間も袋の中身をぞろぞろと覗き込んでいた。そして小判を見てみんな驚きの声をあげる。


「すっげー、さすがあんちゃんだ」


「本当本当、さすが伊織兄ちゃん」


「まさかやられる前にくすねたのか?」


 仲間の一人が伊織に訊ねると伊織は頭を振って否定する。


「違う。俺たちをのした男がくれたんだ」


「はぁ? なわけあるかよ。何で大人がおれらにそんなほどこしをするんだよ。大人ってのは全員汚いやつばっかりだろ。おれたちがこんな目にあってるのだって汚い大人のせいだろ」


 仲間の一人が伊織の言葉が信じられず怪訝そうに言う。


「そうだけど。けどあの男はおれらにもうこんなことはやらない代わりにこれをくれるって言ったんだ」


「わけわかんねーな。そんな口約束でこんな大金くれたのか」


「本当だよな。意味わかんねー大人だよな。あんな女をはべらかしたすけこましのくせに」


「すけこましのくせにな」


「すけこましー!」


「すけこましー!」


 仲間の一人が言うと幼い二人が面白そうにすけこましと連呼する。目の前にある数日ぶりの食糧に浮かれているのかもしれない。


「で、どうするんだよ伊織? あの男の言うことを守ってやめるのかよ」


「そうだな。今回はたまたま運がよかったけど次からはみんなの命がないかもしれないし」


 伊織はすけこましと連呼する幼い連中に視線を送りながら今後について話す。


「そっか。まあおれとしてもこんな痛い目に会うのは嫌だしな。未だに痛みが引かないしな」


「そうだね。僕もこんな痛い思いは嫌だよ」


 伊織の意見に同意する仲間達。


「そうだ。この金であの宿場を再建するってのはどうだ?」


「いいね。父さんたちの後をついでやるんだね」


 金の使い道について仲間達が盛り上がっていると伊織がそれをやめるように言う。


「駄目だ。そんなことをしたらまたやつらに燃やされるだけだ」


「「……」」


 燃やされると聞いて仲間が押し黙る。仲間が押し黙る中伊織は自分たちをのして先に行った連中のことを思い出しハッとする。


「そうだ! あいつらが危ない」


 伊織は持っていた袋を仲間に預けると慌てて駆け出そうとするが、その前に誰かが伊織の前に立ちふさがる。


「おう餓鬼ども。いいもん持ってんじゃねーか」


「お前らは……」


 伊織達の目の前に立ちふさがったのは二人組の男。伊織にはその男の顔に見覚えがあった。彼らは自分達の家族を殺し居場所を奪った連中の仲間だった。

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