22話
翌日、俺は街の散策に出かけた。何かアイデアが思いつくかなという考えと気分転換もかねてだ。昨日はなんやかんで狭い部屋で議論をしていたから息詰まったたし行き詰ってもいたからな。
今の時刻はだいたい七時頃だろうか。早朝だが現代と比べて娯楽の少ないこの世界じゃこの時間に起きていることはそう珍しいことでもない。みんなだいたい陽が昇るぐらいに起きて日が暮れる頃には家に帰るような生活なのだから。
そんなわけでこの街は朝からすでに賑やかだった。
商人達が道行く人達に声をかけ物を売りさばいていく。こんな朝早くなのにもうすでに屋台は開いていてあちこちで空腹を刺激する美味しそうなにおいがただよってくる。
「ねえねえ、あそこの屋台が美味しそうじゃないかな」
くいくいっとまだらが俺の服の裾を引っ張りながら声をかけてきた。
「……あれはたこ焼きか。美味そうだな」
まだらが美味しそうだと言っていたのはたこ焼きの屋台だ。この世界でもたこ焼きがあるんだな……っておい。
「何でお前がここにいるんだよ」
裾を引っ張るまだらを振り払いながらまだらに問いかける。俺は一人で宿場を出たはずだぞ。
「何でって君の後をつけてきたからに決まっているだろ。朝からこそっと君が宿から出ていくから何かやましいことでもあるのかと思ったんだけどね」
なんだそれ。
「……はぁ。別にやましいことなんてあるか。みんなまだ寝ていたから起こしちゃ悪いと思ってこそっと出て行ったんだよ」
昨日は結局遅くまで話し合いをしていたからな。
「へー、そうなんだ。ってきり遊郭にでも行くのかと思ったよ」
「遊郭って……」
俺ってそんなに欲求不満そういだったか?
「だってこんなに可愛い許嫁がいるのに君は一切手を出してこないからね。色々とたまってるんじゃないかと勘繰るのも普通だと思うよ。それとも君は男色なのかい?」
「なわけあるか。俺は普通に女の子が好きに決まってるだろ」
ったくこいつは俺に何を言わせるんだか。
「つーかお前は許嫁とか言うけど別に俺のことが好きなわけじゃないだろ?」
「そうだね。僕は別に君のことが好きなわけじゃないね。君がいなければ蛇骨の国が負けることなかったし」
まだらは当たり前だよと言わんばかりに嫌味たらしく答える。
「だったら何でお前は俺に尽くそうとする? 好きでないのなら俺なんか見限ってとっとと国に帰ったらどうだ?」
「それはできない。お館様の命令だからね。お館様が君の傍にいて支えろというのなら僕はそれに従うまでだ」
「お館様ねぇ。ならそのお館様が死ねと言えば死ぬのか」
「当たり前じゃないか。じゃなければ今の僕は存在しない。僕はお館様に命を助けられた。だから僕はお館様が命じるのならそれに殉ずるまでだ。それが例え君の嫁になれと言われても変わりはしないさ」
「……」
なんだよそれ? 命を助けられたからその命令に殉ずるだと? こいつは一体何をいってやがるんだ?
「そもそも君の言う好きっていうのは何なんだい? 好きでもない相手と婚姻するなんてこのご時世そう珍しいことじゃない。僕にいまいち君の言う好きと言う感情が理解できないな」
「ああそうかい。それならお前は恋をしたことがないんだな」
と俺は投げやりに答える。
「恋?」
「そうだよ。人を好きになるのって理屈じゃないんだよ。お前みたいに理屈で考えているうちは好きがどんな感情かわかんないだろうさ」
「ふーん。それなら君が僕に恋というものを教えてくれないか?」
「はあ?」
「だって理屈じゃないんだろ? だったら僕にそう思わせてみせてくれないか」
「何で俺がお前に恋をさせなくちゃならないんだよ」
「だって君は僕の許嫁だからね」
「意味がわかんねーよ。それよりもたこ焼きを食わねーのか」
「そうやって逃げるのかい?」
「別に逃げてねーよ。純粋にたこ焼きが食いたいだけだ」
「仕方がない。今はそういうことにしといてあげるよ」
とまだらは訳知り顔で言うとたこ焼きを買いに屋台へと駆けていった。




