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17話

 天竺にたどり着いた亜希は城へと向かうとそこで身柄を拘束された。


 そして今は牢屋に閉じ込められていた。牢は牢でも座敷牢ではなく地下牢。罪人を閉じ込めておくための牢屋だ。


「ったくうちがせっかく出向いてやったちゅうのにこの扱いの悪さはどういうことやねん。少しは歓迎したらどうなんや」


 地下牢に閉じ込めらた亜希は不服そうに文句をたれる。もちろん捕まったら地下牢に閉じ込められるとはわかっていたがそれでも虚勢を張らなければやっていけなかった。


 そんな亜希が閉じ込められている地下牢に誰かがやってくる足音が聞こえた。


 コツコツと詰めた石畳を叩く音。これは足音ではなく杖の音だ。そして亜希はその杖の持ち主のことをよく知っていた。


「出おったな妖怪爺」


 地下牢にやってきたのは腰の曲がった老人――原田弾正だ。そして原田弾正の傍には護衛が何人かいた。その護衛の中に亜希の幼馴染であった白露の姿もあった。白露は無表情で亜希を見ていた。


「妖怪とは失礼な。私はまだ人間じゃぞ」


 弾正はどこか愉快そうに答える。


「はっ! あんたのやることは人間のやることやない。外道のやることや」


「はて? 何のことやら」


 心当たりがないと言わんばかりに眉根をあげてとぼけた表情を浮かべる弾正。


「とぼけても無駄や。あんたやろ。こんなことしてうちをはめたのは」


「はめたなんて人聞きの悪い。わしはただこの国に潜む危険要素を摘もうとしたまで。何も悪いことなどしとらんよ」


「よう言うわ! うちが来んかったら本当に村を攻めるつもりやったんやろ。この天竺に向かって兵が集集まっとるのを道中で見かけたで。民を守るべき国が民を攻撃するやなんて本末転倒やないか」


「何をおかしなことを申すのだ。国に仇をなす者をあぶりだす為なら民には犠牲になってもらうまでのこと。私とて心苦しいが大勢の民を思うてのことだ」


 やれやれとあきれた口調で述べる弾正。その言葉に亜希はカッとなる。


「何が心苦しいや! わざと民に重税をかけて払えんかったら奴隷に落として海の向こうの国に売っとるくせにどの口がほざくんや!」


 そう亜希は弾正が民を海の向こうにある大陸に民を奴隷として売っていることを知っていた。そしてそれを突き詰めようとしたところで亜希は弾正にハメられ、主君暗殺の疑いをかけられてお家断絶をくらったのだ。


 主君であるひよりにそのことは事実無根で逆に弾正の行っている所業を何度も訴えたが信じてもらえなかった。ひよりは摂政である弾正のことを信用していたし、弾正のやっている奴隷売買の確固たる証拠がなかったのだ。それに加えて亜希は冤罪とはいえ暗殺を画策したと思われていたのでなおさらまともに取り合ってもらえなかったのだ。


 そのため弾正の罪を裁くことができなかった。


「どうせ村を攻めたら民を奴隷に落として国外に売るつもりやったんやろ! ずる賢いあんたがやりそうなことやな」


「さあ? 何のことだかな? 私にはさっぱりわからないな」


「おどれは!」


 あくまでしらをきる弾正に怒りのあまり喰ってかかろうとするが手枷と足枷、そして檻が邪魔して何もできず亜希は不様に地面を転ぶ。


 弾正はそれを見て愉快そうに顔を綻ばせる。


「仮に。私が奴隷に落ちた民を国外に売っていたとしてもその民達にとっては幸せかもしれないがな。大陸の向こうの方々はこちらの国の黒髪がとても珍しいようだからの」


「なわけあるか! 家族と離れ離れにされて言葉の通じない国外で奴隷として売られて幸せになんかなれるかいな!」


「見解の相違だな。お前ももっと賢ければ長生きできたものの。その点、お前の家臣だった白露は賢いぞ。お前を見限って私についたのだから」


「……っ」


「……」


 亜希は白露と目が合うが白露は感情を感じさせない表情で亜希を見ていた。


 亜希にはどうして彼女が自分を裏切ったのかわからなかった。


 白露が裏切らなければ自分は主君暗殺の疑いなどかけられなかったというのに……。もしもあの時白露がでたらめな証言をしなければ冤罪をかけられることはなかった。


 もしかしたら弾正に何か脅されて証言した可能性もあった。だから亜希はお家断絶の判決が下った後に白露に確認しにいった。


 だが白露は何の弁明もしなかった。それどころか弾正の家臣になっていた。


「どうして……どうしてうちを裏切ったんや白露……」


「……」


 亜希の問いに白露は答えない。ただジッと亜希を見つめているだけ。


「みっともないな。お前がそんなんだから家臣に見限られたんじゃないのか」


「……」


 返す言葉もない亜希。だがそれは数か月前だったらの場合だ。大和と出会う前ならそのまま絶望に押しやられていただろう。しかし今は違う。亜希はニッと笑みを浮かべる。


「……はっ。おどれがそう言っていられるのもいまのうちや。時期におどれの命運も終わりやからな」


「見苦しい。実に見苦しい。敗者の戯言ほど見苦しいものは。近いうちに死ぬのだ。せいぜい処刑まで己の過ちを後悔して死ぬといい」


 弾正は嘲笑すると地下牢を後にした。


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