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16話

「なんだよこれ!」


 俺は里沙の見せてきた御触れの写しとやら見て思わず紙を握りつぶす。


 亜希のやつが謀反を起こそうと画策していただと?


 あいつがそんなことするわけがない。


 だいたいなんだ! 食料を配ったから反乱を企てようとしてるってどんだけ被害妄想豊なんだよ。


 この宿場に来る前に信三から亜希が飢饉にあった村を巡って食料を配っていたというのは聞いている。それが何で亜希が悪人にされなきゃならないんだ。


 こんなのに名乗り出たら間違いなく殺されるに決まっている。名乗り出ず放っておけばいいだけだ……。


「……おい、亜希がいないってことはもしかして」


「たぶん大和の思っている通りなんじゃないかな、ほら」


 いつの間にか部屋を物色していたまだらは部屋のどこからか手紙を発見したようでその手には手紙が二通握られていた。


「なんだそれ?」


「中を見た限り愛宕家の当主が書いた手紙だね」


 手紙の中を見たってプライバシーって言葉を知らないのか。いや知らないか。


「一通は愛宕家の家臣に当てて書いてあったようだね。君らはこの手紙に気が付かなかったのかい?」


「我々に手紙だと!? 迂闊だった。亜希様がいなくなられたことばかりで手紙の存在に気が付かなかった。さっそくその手紙を読ませてもらおうか」


 と言って里沙がまだらから手紙をもらおうとするとまだらがすっと手を引いて手紙に触らせないようにする。


「その前に言うことがあるんじゃないかな? 手紙を見つけたことの感謝の言葉を述べるのが先じゃないかな」


 この状況でこんなことを要求するんなんて性格が悪い奴だなこいつ。態度の悪い里沙ってやつに腹を立てる気持ちはわからないでもないけどピリピリしたタイミングでやるか普通。


「それと君は僕の許嫁である大和に敵意を向けたよね。それに対しても謝罪して欲しいな」


 おいやめろよ。さっきから敵意をむき出しにして睨み付けられて困っていたけど火に油をそそぐな。


「……くっ! 申し訳ありませんでした。手紙も見つけていただきありがとうございます」


「よろしい。はい」


 礼を述べたことに満足して今度は素直に受け渡すまだら。さすがにこれ以上おちょくる気はないようだ。けどおかげで里沙って子の俺に対する敵意はかなり高くなった。


「こっちが大和宛だね」


 と言ってもう一通の手紙を俺に差し出す。


 俺は内容が気になり里沙の誤解をとくことをほったらかしにして手紙の中身を確認する。




『大和へ。大和がこの手紙を呼んでいるということはうちはもうこの世にいないということでしょう。大和と別れる時にけじめをつけるなんて大言を言ったけど無理でした。うちは敵の打ち出してきた策の前にあっけなく破れました。死ぬ前にもう一度大和に会いたかったのが心残りです。そんな大和にこんなお願いするのは心苦しいですがうちに代わって窮鼠の国を助けて欲しいと思っています。今この窮鼠の国は原田弾正を始めとした家臣達が利権を貪り民達が貧困しています。このままではこの国は長くはありません。家臣達にはうちが死んだ後は大和の言うことを聞くよう手紙を残しています。大和には迷惑かもしないけど……どうか……どうかこの国を救ってくれへんか……』




 その後にも何か文字が書いてあったが紙が水のようなものを吸っていて墨がにじんでいて何が書いてあるか読めない。


 何だよ。これじゃまるで……。


「遺言だね」


「……」


 そうまだらの言う通り遺言だ。


 亜希のよやつは自分の命を犠牲にしてまで民を救って守ろうとするつもりか。なんだよそれ。何で顔もよく知らないやつのために命を差し出すんだよ。それなら誰か代役でも出して自分は逃げればいいだろ。何でもっと自分勝手に生きないんだよ。バカだろ。


「どうするんだい大和? 彼女の誤算は大和がこの国にいるということを知らなかったということだ。今ならまだ彼女を救うことはできるかもしれないよ」


「……っ!」


 そうだ。まだ亜希が死んだわけじゃない。今から助けに向かえば助けられるかもしれないんだ。


「おい! 亜希がここを出て行ったのはいつだ!」


「なぜあなたにそんなことを!」


 里沙に問うとキッと俺を睨み付けながら反論してくる。


「どこだと聞いている。答えろ。亜希の手紙に俺の言うことを聞く様に書いてあったんだろ」


「だがまだ亜希様は死んではない」


「だったら早く答えろ。早くしないと手遅れになる」


「……くっ。亜希様が出て行ったのは昨日だ」


「昨日だと」


 くそっ! あと一日早く着いていれば……。


「亜希が向かった先は?」


「おそらく天竺かと」


「天竺ってのはこっからだとどれくらいかかる」


「馬を一昼夜飛ばして一日あれば着く」


「ってことはもうすでに敵に捕まっていると考えた方がいいのか。それじゃあすでに亜希は……」


「まだ殺されてはいないと思うよ」


「本当かまだら」


「彼女はおそらくおそらく見せしめにして殺されるだろう。反逆の意志を削ぐにしても敵対者をあぶりだすにも効果的だからね」


「つまり公開処刑するってことか。だがそれがすぐに殺されないとどう繋がるんだ」


「君にしては珍しく冷静じゃないね。落ち着いて考えればわかるだろ? 処刑するにしてもなんにしても準備が必要だ。見せしめとして殺すのなら事前に周知される必要もあるしね」


「ってことはまだ助けることができるってことか」


「そういうことだね。ただし、敵もそれを見越して警備は万全で来るだろう。救出はかなり困難だよ。それでもやるのかい?」


「かまうもんか。俺は一人でも行くぞ」


「そういうと思った。だったら僕も君に力を貸そう。君にはまだ死なれたら困るからね」


 まだらは楽しげに笑う。こいつがどういうつもりで力を貸すのかは知らないが心強いな。



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