10話
栞那とまこちゃんが盗賊に捕まっていた人達を無事に保護し心が落ち着くのを待っていたらすでに日も高々と登りきっていた。そこから俺達は捕まっていた人質を無事に村に送っていたらもうすでに日が暮れかかっていた。結局信三の言っていた話を栞那とまこちゃんにすることなくあっという間に一日が終わってしまったわけだ。
人質を村に送り届けると村人から感謝として盗賊から奪還した食料を使って宴が催された。宴は夜遅くまで行われ一時の幸せを噛みしめるように村人は騒いでいた。
そんな中、頃合いを見計らって俺は栞那、まこちゃん、まだらを村長の家に集めると栞那とまこちゃんに信三が話していた協力について説明する。
「……というわけなんだ」
「それはつまり世直しを行うと言うことですか?」
「まあ聞いた限りそんな感じだな」
「腕がなりますね」
説明を終えると興味深そうな表情を浮かべる栞那。なんか栞那ってこういう世直しとかが好きそうだな。生真面目な委員長タイプだし秩序とか正義執行とかそんなこと言葉が好きな感じがする。
それに対してまこちゃんは栞那とは対照的に冷静に俺の話に突っ込む。
「でもその愛宕家が本当に正しいのかわからないですよね? お家断絶の逆恨みという可能性もありますよね」
「そうだね」
確かにまこちゃんの言う通り正義なんてものは宣言する人間によって変わる。愛宕家が俺達を騙して利用しようって可能性もなくはない。
なんたって俺達はこの国についてあまりにも知らなさすぎる。だから言っていることを全て鵜呑みにすれば痛い目をみることになる。俺だけならともかく栞那やまこちゃんまで害が及ぶことはなるべくさけないといけない。
にしてもこういうところはさすが元お姫様といったところだろうか。まだ一二歳なのにこういう駆け引きについてそれなりに頭が回るようだ。
でも俺の中でまこちゃんにはドロッ泥な世界には染まらずピュアでいて欲しいと言うのはワガママだろうか。
「その点に関しては心配はないよ。彼らの言ってたことは真実だから」
とそこでまだらがまこちゃんの否定し愛宕家のフォローをする。すると栞那がまだらの眉間を睨めつける。
「その言葉が真実だという証拠はあるのですか? 私は敵であったあなたのことは一切信用していません」
「別に君に信用してもらおうなんてこれぽっちも思ってないよ。僕が信用して欲しいのは大和一人だからね」
「……」
「……」
バチバチと火花を散らせる二人。なんで仲良く出来ないんだろうな……。
「大和、君にとっても僕の言葉は疑わしいかもしれないけど盗賊が跋扈するこの国の現状をみれば僕の言葉があながち間違いじゃないってわかるんじゃないかな」
さっきまで火花を散らしていたまだらだったが、ふいに俺に話しかける。
「……」
まだらの言う通り落ち着いて考えてみると盗賊の跋扈している国なんてろくでもない国だ。なぜなら盗賊が出るような国に誰が行きたいと思うだろうか? 人が来なければ流通は止まる。流通が止まれば経済が止まる。経済が止まれば生活がままらなくなる。生活がままならなくなれば犯罪に手を染める。
そんな負のスパイラルを起こしかねない不安の種を国が率先して狩っていかなければならないといけないのだ。
それなのにこの国はそれを見過ごしている。そう考えると愛宕家の言い分も間違いとは思えない。
「昨日も言ったけど僕は君の判断に従うよ。僕は色々と口を出すけど最終的には君が信じた行動を支えよう」
まるで告白にも似たセリフをまだらは恥ずかしげもなく言ってのける。
「わ、私も大和に従うぞ!」
「わたしも大和さんの判断に従いますよ」
栞那がまだらの言葉にすぐに反応して言うと、まこちゃんはそんな二人を見ながらクスリと笑いながら追従する。
「いいのか二人とも?」
「もちろんです」
「そうです。それにわたしたちに何かあっても大和さんが助けてくれると信じてますから」
栞那とまこちゃんが俺の目を見ながらハッキリと言う。
「……」
まこちゃんの言葉が恥ずかしくて思わず頭を掻く俺。そこまで信頼されているのは嬉しいが果たして俺はその時に助けられるだろうか……。
俺ってそんなにわかりやすいのか?
しっかし敵わねないなぁ。二人は始めから俺が愛宕家に協力することを前提に言ってる。
確かに俺が愛宕家に協力するメリットはほとんどないけど、この国の現状を見過ごしてはおけない。このままじゃ伊織のような子供が続々と出てくるって思うとやるせない気持ちになる。
「どうやら決心はついたみたいだね。明日は朝が早いし僕は寝かせてもらおうかな」
まだらはそう言って立ち上がると布団へと横になる。そういえばこいつは昨日から俺と一緒でほとんど寝てなかったな。眠たいのを堪えていたのかもしれない。
まだらが本当に眠かったのか横になるとそのまま寝入っていた。こうやって寝顔を見る分には可愛げがあるのにな。
そんなまだらが寝るのを見ると栞那とまこちゃんも明日に備えて寝る準備をし出す。
俺はそれを見ると家から出て行こうとする。
「大和、あなたも一緒にここで寝たらどうですか?」
家から出て行こうとすると栞那が気恥ずかしげに声をかけてきた。
「いや、さすがにまずいだろ」
年頃の女の子が寝ているとところに男が一緒に寝ると言うはな……。俺だって年頃な男なわけだし……。
「お前だって男嫌いが直ってないんだろ?」
「……確かに男性は嫌いですが……外は冷え込みますしし」
「大丈夫だ。明日も早いしお休み」
俺は温もりのある家から身震いする寒さの外へと出る。中の暖かさを思い返し後ろ髪を引かれる思いだがそれを振り切り昨日村長から案内された家へとやってくる。
俺がその家の中に入るとすでに先客がいたようでその先客は膝を綺麗に折り額を頭につける姿勢――土下座で俺を出迎える。その先客は俺の見知っているやつだった。
「お前は伊織か?」
伊織は土下座をしたまま一部の女子が聞いたから勘違いして狂喜乱舞しそうな発言をする。
「頼む! おれを男にしてくれ!」




