夜雀の屋台
確かにそこに屋台はあった。
屋台を見て、『幻想郷縁起』の内容をようやく思い出した。
「夜雀の屋台、ですね」
「ん、知っていたのか」
「暇な時に、幻想郷縁起で次にどこに行こうか調べたりしてたんで」
「なるほど。…おーい、ミスティア」
「はーい、って虚空さんお久しぶりですね」
「まだ準備中だったか?」
「はい…でも、昨日仕込んだやつもありますからそれなら」
腰掛けつつ、調理の様子を見る。
「…あれ、確か…」
「八雲黄です」
「ああ、あなたがそうだったの…なんで虚空さんと一緒なの?」
「妹紅さんに道案内を頼もうとしたら居なくて…ちょうど虚空さんが居たんです」
「あー…朝からずっと戦ってるみたいだよ…それでびっくりして起きたんだから」
「あいつら…他の住人に迷惑はかけんようにと言ってるのに…」
…いつもなのか。虚空さんが頭を抱えている。
「道案内…って事は、ここでは食べていかないんですね?」
「ん、そうだな…持ち帰りで。蒲焼を…そうだな、五本もらおうか」
「はーい、じゃあ少しだけ待っててね」
屋台の主ーーミスティアさんが、焼けた角で炙るような形で蒲焼を焼いていく。いい匂いが漂い始めた。
「…そういや、リグルは今日は手伝いに来てないんだな」
「あー…今日は別の用事があるって言ってましたから」
「そうなのか」
いつの間にか目の前にはお茶が並べられていた。啜りながら、二人の会話を聞く。
「最近の調子はどうだ?」
「んー、ぼちぼちって感じですねー。常連さんはいつも来てくれますし、それについて来る人がまた来てくれたり…ふふ」
「ま、半数以上はミスティア目当てなんだろうな」
「またまたー、そんなー」
…謙遜はしているけど、たぶん当たっていると思う。飲食店に行く目当てっていうのは…そういう理由だって事も多いだろうからなぁ。
「はい、できましたよー。代金は…いつものでお願いしますね」
「ああ…はいよ」
「え、林檎?」
「はい、虚空さんの林檎ってすごく美味しいし…私は人里まで買いに行けませんから」
「あー…そっか」
「ふふ…二人とも、また来てくださいね」
「ああ」
「わかりました、ではまた…」
…あ、虚空さんに払わせてしまった。いいのかな?




