過信は禁物
「ふー、ごちそうさま。美味しかったわ〜」
「お粗末様でした、幽々子様」
食事が終わった頃には、皿の上には肉や野菜の欠片一つも残って居なかった。八割ほどは幽々子様のお腹に収まっている。
「んー…片付けが終わる頃にはまだあの子達は来てないわね」
「それなら、来るまでの間に手合わせを…」
「そうね、それが良さそうだわ」
この後、また別の人たちが来るようだ。それまでの繋ぎで僕と妖夢さんの手合わせを眺めるらしい。
「じゃあ、さっさと片付けないとね」
「はい、じゃあお皿を重ねていいので…こっちに持ってきてください」
「うん、分かった。…クーはそのままでいいからね」
「…ごめんなさい」
何故か幽々子様に対抗しようとしたらしく、ハイペースで食べた結果が僕の隣に転がっていた。顔色が悪い。
「…うぅ」
「無理に動こうとしないの。ゆっくりしてて」
「…はい、主様…」
ちょっとでも動かしたら戻しそうだしなぁ。無理に動かさない方がいいだろう。
「じゃ、片付けますか」
「はい」
「へぇ、紅魔館でそんな事が…」
「おかげで自分の力の強化にもなったんですけどね。魔法に関してはまだ実戦で使えるレベルじゃないので、今からやる手合わせには使いませんけど」
洗い終わり、泡をすすいだ皿を二人で拭きながら話をする。
内容は、先日の紅魔館に行った時のことだ。
「しかし、そうなると…黄さんはまだ六段階強くなる可能性がある、ということですよね…」
「精霊の数がちゃんと合っていれば、だけどね。全てがこちらに来ているとは限らないし、取り込んだとしても…使いこなすには練習が必要だから、すぐに強くなるわけでもない。だから、訓練は必要だよ」
「なるほど…あ、でも記憶の中に戦い方も含まれていたら、思い出した時点で一気に強くなる可能性もありますよね」
それは確かに考えてはいたが…
「その記憶の中の自分と、今の自分が同等の力を持っているとも限らないから、過信は出来ないかな」
「そう…ですね、確かに…」
…ふむ、なんだか強さにこだわる性格なのかな、妖夢さんは。
「…妖夢さんは、どうして僕と手合わせしたいと思ったんですか?」
「え?…あー、えっと…私、剣での実戦経験は少ないんです。幻想郷での勝負と言ったら、今はスペルカードルールに則った弾幕ごっこですから」
「あー…剣と剣での実戦経験を積んで、強くなりたいってことですか?」
「そうです。黄さんだって…記憶が無いのですから、経験は必要になりますよね」
「…確かに、双方に利益はあるね。…なるべく本気でやるから」
「はい、負けませんよ!」
さて、会話の区切りでちょうど皿も拭き終えた。…気持ちを切り替えよう。




