心配はいらない
「クー、これ持ってて」
「…ん」
「フラーウムは…そうだな、人里から出たし、もうちょっと大きくなってても大丈夫そうだな」
「そうだね。…クー、ありがとうね」
「どういたしまして」
フラーウムは、クーの帽子から飛び降りながら、僕が最初に見た時と同じサイズになり、着地した。
人里で幾つかの買い物を済ませて、湖へと続く道(とは言っても、草が無く土がむき出しになっている程度)を歩いている。
クーを狼の姿に戻して背中に乗ったり、空中散歩でも良かったんだけど…最初くらいはちゃんと地上からの様子を歩きながら見てみようと思ったからだ。
「…主様、この速度だと着くのは夕方になっちゃうけど」
「ん、でも…吸血鬼って大抵夜に活動するみたいだから、その方がいいかなと思って」
「…そうかも」
紅魔館への道のりとして、まずは湖を目指す。人里から湖へと着いたら、霧深い湖の対岸にぼんやりと紅い館が見えるそうだ。
「…うーん、吸血鬼って血を吸うんだよね?黄は吸われたりしないのかな?」
「そのあたりは大丈夫って紫様から聞いてるよ。まず飲む量が少ないみたいだし。それに、血液は十分確保してあるとか」
「…確保、って…」
あ、クーの顔が青くなった。大丈夫だよ、可愛らしい吸血鬼だから。
「ん、なんだろうあれ?黒いのがふわふわ浮いてる」
フラーウムが指す方を見ると、確かに黒い塊がふよふよ浮いている。
「…あたっ」
「あ、ぶつかった」
「…たぶんあれ、ルーミアだよなぁ…」
フラフラと木の根元に黒い塊が落ちて、その場で小さく呻いている。
「おーい、大丈夫か?」
「いたた…ん、誰かな…?」
闇が晴れて、金髪の女の子が出てきた。…間違いなくルーミアだな。
「あれ、人間だ…あなたは食べてもいい人間?」
「いや、食べてもらっちゃ困る。…っつー訳で、クー。あれを」
「はーい…」
クーが袋から取り出したのは、お弁当だ。人里で僕たちの分と、余分に一つ買ってきてあった。
「よかったら、一緒に食べるか?」
「…いいの?」
「うん。今後会っても食べようとしないって約束できるなら」
「…ん、いいよー」




