玉の懇願
「…なるほどね。それで…熊を武器で食べた後に出てきたのがこれね」
紫様が手のひらに乗せていたのは、黄色い玉。
「…これ、とてつもない力の塊なのよ」
「…うわ、本当だ。疲れ切っててちゃんと見てなかったからなぁ…」
玉にはこれでもかと土属性の魔力が詰まっている。
「…うーん、精霊玉の可能性が高いわね。…でも、あの熊と戦った覚えがあるんでしょ…?」
「そうなんですよね。ってことは…僕の居た世界にも魔法が存在していた可能性が…」
「あり得るわね」
となると、僕が居た世界についてはこの幻想郷の外では無いという線が濃くなったようだ。
紫様から聞いた話によると、外界は科学というものが発達していて…魔法というものはフィクションとして親しまれていたりするらしい。まじないの類は形式こそ残ってはいるけど、魔力を込めたりの手順が吹っ飛ばされててあまり意味は無いとか。
…そういや、精霊玉ってなんだ?
「精霊玉っていうのは、名前の通り…精霊が封じられたものの事よ。大昔に小さな精霊を宝石に封じたりしていたらしいのだけれど…ここまで大きいのは見たことが無いわ」
「へぇ…」
紫様から玉を受け取り、眺めていると…
ーー早く、出して
「…?誰か、何か言いました?」
「いや、何も?」
「私には何も聞こえなかったです」
「まだ疲れてるんじゃ…」
紫様はともかく、聴覚が鋭い藍様や橙も何も聞こえなかったという。
…だとすれば、今のは…まさか。
ーーここ、狭いんだよー…早くー
…ああ、やっぱりか。
僕が思い切り玉を握ると、意外なほどあっけなく砕けた。
「…!黄、何を…!?」
黄色い靄は、ゆっくりと形を成し…橙と同じくらいの背の男の子がそこに立っていた。
「だ、誰だ貴様…!」
「や、やめてよー…僕はただの土の精霊だって」




