浄喰『聖域の顎』
薙ぎ払いを繰り返しながらこちらへと突進してくる。
届きそうになった腕を避け、武器の先を向ける。
「…この、武器で…」
構えながら、狙いをしっかりと定める。
と、熊はいきなり咆哮をあげ…魔力を放出し始めた。
周りの瘴気が一気に濃くなる。
「ぐっ…急がないと…!」
構えたまま、一気に近づく。
そして、スペルを発動。
「浄喰『聖域の顎』!」
武器の境目が、バキバキと音を立てて変形していく。
上顎が白、下顎が黒の龍の首が出来上がり、熊に対して牙を突き立てた。
熊は、その太い六本の腕で必死に抵抗するが、浄化の力は触れている部分からすぐに始まり…腕は触れた部分から砂へと変わっていく。
力の均衡が失われて、顎は一気に閉じられた。
熊が完全に龍の顎に封じられ、周辺の瘴気が嘘のように引いていく。
「成功、か…っ!?」
武器の持ち手部分から、熊の瘴気が僕に向かって流れ込んできた。…あいつ、抵抗してやがる!
「ぐ、っ…乗っ取らせてたまるか…おとなしく、してろっ!」
腕が、浅黒く変色していく。侵食、されている…!
「…っ、ぁぁぁぁぁあ!!」
こちらも、力を流し込んで…僕の力で、抑え込まなければ!
持てる力を、武器の中へ押し込むように、力を流す。
変色した腕が元通りになっていく。
「…っ、はぁ、はぁ…」
どれだけ経っただろうか。ようやく、あの熊の存在を武器の内側から感じなくなった。そして、別の何かの存在を感じる。
武器が再び裂け、中から転がったのは小さな玉だった。綺麗な黄色だ。
「…なんだ、これ…っ、う…」
拾い上げた所で、目眩がしてその場に倒れこむ。
ぼやける目が捉えたのは、銀色の大きな狼と、それに乗る心配そうな藍様の姿が最後だった。




