自らの謎を知る
奥に通され、座らされる。
「…そんなに珍しいかしら、この部屋が」
「見たことが無いものばかりで…」
「あら、そうなの?…おかしいわね」
紫さんが何か呟いた気がするけど、詮索するのはやめておこう。
「紫様、お茶をお持ちしました。…?彼は?」
「ああ、彼は…貴方の名前を聞いていなかったわね。…まさか、自分の名前すら覚えていないなんてことは」
「…そのまさか、だったりするんですよね、あはは…」
「えー…」
もふもふとした尻尾を何本もくっつけている女性は、呆れたような顔をしていた。
覚えていないものは覚えていないんだから、仕方ないじゃないか。
「困ったわね、呼びにくいわ。…手がかりになりそうなのは、その服と…腕輪くらいかしら。ちょっと見せて」
手を掴まれ、ドキッとする。紫さんの手袋越しに、温もりが伝わってくる。
「……」
「…バーコード?それに…『被験者ナンバー001』?…何かの実験台、だったのかしら」
何かの実験台?…覚えが無い。
「あ、ここ見て。『kou』って書いてある」
「本当ですね…名前、なのかな?」
「或いはコードネームみたいなものかもしれないわね。ま、とりあえず貴方の事はコウ、と呼ぶわ」
「…ええ、お願いします」
「それと…一度お風呂に入っちゃいなさいな。その状態だとみっともないわ」
確かに、顔だけは川で洗ったが…服は泥で汚れているし…。あれ、でも服はどうしたらいいんだろうか。替えの服なんて持ってないけど。
「藍、ちょっと人里まで行って服を調達してきなさい。夕餉の買い物のついででいいから」
「わかりました。それではすぐに行ってきます」
…心配はなさそうだ。