輝針城:春の訪れの前に
「うーん…だいぶ暖かくなってきましたね」
「そうだね。…そろそろ紫様を起こす感覚も短くした方が良さそうだ」
厳しい寒さが続いた日々も終わり、雪も溶けてきている。…そろそろ春告精のリリーホワイトという妖精が各地を飛び回る頃だろう、挨拶をしておかなきゃな。
「…ん?なんか妙な…幻想郷に何か出てきた?」
「藍様!大変です!!」
「どうした、橙。そんなに慌てて…」
「そ、空飛ぶ逆さのお城が!」
「…えっ?」
◆
「…あー、確かに言った通りだ…逆さの城が浮かんでるし…」
「あと、人里の中でも騒ぎが起こってるみたいなんです。道具が動き出したとか…」
「付喪神かねぇ。僕はとりあえず人里に向かいます。藍様は…とりあえず他の場所、そうだな…白玉楼の様子から確認してください」
「ああ、わかった」
手分けして情報収集にあたった方がいいだろう。…おそらく、異変として霊夢も動いているだろうし…と考えながら人里へ入ると、慧音さんが誰かを押さえつけて縄で縛っていた。傍らには妹紅さんとレティさんも…って。
「…うわぁ、首が取れてる。そこまでしなくても…」
「こ、黄!?誤解だから!」
「ふふ、妹紅ちゃんが炎で吹き飛ばしたら転がったものね、首が」
「……」
「その目はやめてくれ…本当に誤解だから…」
「黄、からかうのはそのあたりに。彼女…赤蛮奇は妖怪ろくろ首でな…能力でこのように頭が分離しているんだ」
「…なるほど。で、何故妖怪が…」
「ああ…彼女も人里に住まう妖怪であったのだが、あの城が出た直後くらいに暴れだしたんだ」
「…ふむ」
何らかの影響があった、ということだろうか。…他の所でも同様の何かが起こっていても不思議ではないな。
「…ぅ、う…?」
「む、気がついたか」
「…あぁっ、私の身体が人質に取られている…」
「目が覚めて正気に戻っていなかった場合の措置だよ。…まぁ、既に正気は取り戻しているようだが。…どうして暴れだしたんだ?」
「よくわからない。けど…あの城を見た途端に力が湧いてきたような気がして…」
「…あれ、慧音さん達は影響受けててもおかしくないと思ったんだけど」
「どういうことだ?」
「…人間には影響がなさそうなので…付喪神になりかけた道具が影響を受けてたのは知ってますけど」
「…私はあまり強くない妖怪だから、ひっそりとしていたかったんだけど…」
「…ふむ、ある程度のレベルに達していない妖怪も影響を受けるのか。慧音さん、たぶん大丈夫でしょう?」
「…いいのか?」
「フラーウムを置いていきますので。何かあればフラーウムを通して連絡をお願いします」
「…わかった」
…さて、じゃあ…情報を共有した方がいいか。藍様に連絡を…
「藍様、そっちはどうですか?」
「黄、すぐに来てくれ!妖夢の使っていた刀が、うぉぉ!?」
「…すぐ行きます」




