幻想郷:冬のある一日、藍様と
「…んー…難しいな」
紫様が作った結界と、博麗大結界のその隙間。結界の補修を行っていたのだが、なかなか難しい。
「私も苦労しているし、未だに完全な補修はできないんだよ」
「…たぶん、紫様も完全に補修できないんじゃないですかね…異様なまでに複雑で怖いくらいです」
「…そうか…」
結界の補修は、結界と結界の間にある綻びを直す事が主である。
…しかし、この結界の作り、以前どこかで見たような気がする。世界樹の意思に頼んで見ていたのとは違う。…実際に見た気がするのだ。
「…どこで見たんだっけなぁ」
「黄、行くぞ」
「あ、はい」
藍様について行って、幻想郷へと出る。
「人里で何かを食べていくか。橙とクーは一緒にどこかで遊んでいるようだし」
「そうですね。…あそこでいいですかね。いなり寿司が美味しい、」
「よし、行こう。すぐに行こう」
…相変わらずいなり寿司好きだなぁ。
◆
「…ああ、美味しかった…」
「満足そうで何よりです、ふふ」
尻尾を揺らしてご機嫌な藍様は、少し跳ねるような歩き方になっていた。
「さてと、夕餉の買い物をしてから帰るとしようか」
「ええ、藍様」
「…む、何故妖怪がここに…って黄であったか」
「あ、布都ちゃん。屠自古さんに迷惑かけたりしてない?」
「なぜ迷惑かける前提なのだ…」
「…ふふ」
藍様も立ち止まって、布都ちゃんの前に立つ。
「お、おぉ…もふもふではないか…」
「触らせないぞ?この尻尾は信頼できる相手にだけ…」
「…それっ」
「ひゃん!?…黄、何をするんだ!」
「少しくらいいいじゃないですかー。…布都ちゃん、マミゾウさんは尻尾触らせてくれた?」
「うむ、快諾してくれたぞ。…あの触り心地はいいものだった…」
「…む」
よしよし、布都ちゃん…たぶん無意識だけどナイス誘導だ。それなら藍様も…
「こっちの方がもふもふだぞ…ほら」
「いいのか?」
「私の方が確実に触り心地がいいからな!」
「で、では…おお、すごい…」
布都ちゃんはその全身を埋めるようにして、もふもふを堪能していた。…クー達と一緒だな。
「…ああ、もふもふ…」
「あ、いた!布都!こんな所で何をサボっているん…だ…」
「あ、屠自古さん」
ふよふよと飛んできた屠自古さんは、布都ちゃんの様子を見て固まっていた。…羨ましそうだな。
「…えーと…」
「ああ、ごめんごめん。布都ちゃんを呼び止めたのはこっちなんだよ」
「ん、そうだったのか…」
「ええ。…藍様、一人追加してもいいですか?」
「…むう、私の尻尾なんだけど…まぁ、一人くらいなら…」
「では屠自古さん、どうぞ」
「…いいのか?」
「藍様の気が変わらないうちに」
「…では」
屠自古さんは恐る恐る、腰掛けるようにして尻尾に乗った。すぐに、表情が緩んでいく。
「これは…」
「…たぶん藍様と屠自古さん、話合うと思うんですよねー…」
「…ん、何故だ?」
「…藍様も、屠自古さんも割と苦労してますよね」
「…それは…」
藍様は紫様のせいで。屠自古さんは神子さんはどうかは分からないけど、確実に布都ちゃんは迷惑かけてるよな…
「…今度、一緒にお茶でも飲むか?」
「…そうしようか」
屠自古さんと藍様は握手を交わす。仲良くなってくれたらいいな。
◆
「…ん、ありがとう」
「どういたしまして」
夕ご飯の後、お風呂上がりの藍様の尻尾の手入れをしてあげるのが日課になっていた。
「…綺麗な毛並みですよねー…」
「あ、こら…顔を埋めるんじゃない…」
乾いたばかりでフカフカの藍様の尻尾はとてもいい匂いがして…あぁ…
「…あ、こら…ここで眠ると風邪をひくぞ」
「…藍様の尻尾で埋まって寝たい…」
「分かったから…ほら、おいで」
「…はい」
…紫様にするようなスキンシップをしても、藍様は怒らなくなってきた。…というか最近は誘われる。…ふふ。




