神霊廟:狐と狸の関係性、そして季節は移りゆく
…後半、ちょっとコーヒーが必要かもなぁ…
「むう、まさか私が呼びに行ってる間に異変が解決してるなんてー…」
「霊夢が異変を解決するのは半日以内とかだからな。動き出したらすぐに終わるんだよ」
命蓮寺の境内、ごろんごろんと寝転がりながら愚痴るぬえと一緒にお茶を飲んでいた。
「…しかし、まさかぬえがそうやって協力してくれるとは思わなかったな」
「…自衛手段が欲しかっただけだよ」
「ほほう?いざとなったら儂を盾に逃げるつもりじゃったのか?」
「ち、違うし!」
突然後ろから声をかけ、ぬえに絡んできたのは…ぬえが外界から呼んできた二ッ岩マミゾウさんだ。…柔らかそうな尻尾がゆらゆらと揺れている。
「せっかく駆けつけてやったのに、いきなりあの巫女にボコられるし…あ、黄じゃったな。治療の礼に尻尾を触ってもよいぞ」
「え、いいんですか?」
「ずっと気にしておるようじゃったからな…ほれ」
マミゾウさんが横に座り、更に尻尾を僕の足の上に置いてくる。…おお、藍様やクーのもふもふ具合とは違う柔らかさ…
「抱き枕にしたらちょうどよさそうな…」
「む、儂の寝ている時の姿、何故バレた」
「あ、そうやって寝てるんですか…」
「うむ、こうやって…む?」
自分の尻尾を抱きかかえたマミゾウさんの表情が曇る。…やっぱりまずかっただろうか?
「…黄、お主のそばに狐はおるか?」
「狐?…ああ、従者の先輩で藍様…九尾の狐が紫様の式神として居ます」
「やはりか…一瞬狐の匂いを感じたのでな。なに、触られたのが嫌というわけではないんじゃよ」
そういうと、マミゾウさんは尻尾をこちらにまた戻した。…ああ、柔らかいな。
「…そうだ。式神『クー』」
「…むう、主様…おやつ食べてたのに」
「ん、すまん…」
「…?知らない妖怪…」
「マミゾウさんだよ、挨拶して」
「…クーです、初めまして」
「うむ、初めまして。…可愛いのう、狼の子か」
「ええ、僕の式神です」
クーを抱えて、膝の上に乗せて…その上に、マミゾウさんの尻尾がぽふんと乗る。
「…ふわぁ…」
「どれ、気持ちいいか?」
「…藍様とは違う柔らかさ…」
もふもふ、すりすり。クーは身体中で尻尾を堪能…羨ましいな。
「ふむ、向こうと比べてどうかのう?」
「…比べられない…」
「あー、やっぱりか…藍様は尻尾の本数が多い分、包まれるような柔らかさで…」
「ふむ、なるほどのう。…儂の尻尾だと本数が多くても圧迫感が強いからの」
「…でも、こうやって抱えられるの…気持ちいい」
ぎゅーっと、抱きつくようにしているクーの表情は嬉しそうだ。
「…ふふ、いつでも遊びに来てもよいぞ」
「…うん、ありがとうマミゾウさん」
「ふふ…いい式神じゃの」
「自慢の可愛い式神ですからね」
…式神自慢になっちゃったかな、ふふ。
◆
屋敷に帰ると…藍様が僕とクーの匂いを嗅ぐ。
「…狸の匂いがべったりついてるんだが、何をしていたんだ…?んん…!?」
「こっ、怖いですよ藍様!?」
「…うぅ」
凄い形相だな…来たばっかりの時に橙と戦った後にブチ切れした時以来かな…
「あ、新しく来た妖怪の所に行ってきただけですよ」
「だったらなんでこんなに…」
「…藍様、怖い…」
「っ、あ…すまない…」
「匂いがついた経緯はちゃんと今から説明しますから…」
◆
説明したら僕だけ怒られました。
「まったく、藍は…」
「…うー、紫様…」
「はいはい、よしよし」
最近、僕から紫様の部屋に行くことも増えてきたような気がする。
現に、僕は紫様の部屋で布団に入り、後ろから抱きしめてくる紫様に撫でられている。
「…よく働いてくれるから、嬉しいわ」
「…そうですか…僕としては紫様と一緒に居る時間が長い方がいいんですけどね…」
「…私はほら、もう少ししたら…」
「…冬眠、ですか」
季節が移り変わってきて、気温も低くなっている。
冬になると、紫様は冬眠し…僕が居ない時は藍様一人で結界の修復などを行っていたようだ。
「…ふふ、私が寝ている間のお世話は藍に任せるけど、ご飯は黄が食べさせてね?」
「…了解です、紫様」
完全に冬眠する訳ではなく…数日に一度、栄養を摂るために起きるらしい。
…寝ぼけている紫様にご飯を食べさせるのは大変だろうなぁ。
「…失礼な事考えてなかった?」
「そんな訳ないじゃないですか…あいたたたた」
「…ふふ。…黄、冬の間…よろしくね」
「…わかってますよ」
「うん。…今日も冷えるわね、あたためて…」
「…はい、紫様」
今度は僕から、紫様を抱きしめて密着する。
紫様の体は、ほんのり暖かくて柔らかくて、いい匂いが…
「…あいたたたた」
「…もう、顔に出てるから」




