紅魔館:観察し、監視され
「そ、それで…この棚を拭く時はこっちを、使うんです」
「うん、分かった。…教え方が丁寧で分かりやすいよ、ありがとう」
「…いえ、その…いつも怒られちゃうから、ちゃんと覚えなきゃって思って…」
フロア長の一人、紫陽花に仕事を教えて貰いつつ…その様子を観察する。
…おそらく怒っているのは、咲夜さんではないだろう。だとすれば…他のフロア長だろうか。
「次は何をすればいいかな?」
「え、えっと、お掃除が終わったら…」
教えてもらっている間、背後から感じる視線に僕は気づかないふりを続けた。
◇
「さてと。どう?」
「…間違いなく、怯えていますね。ずっと視線も感じていましたし…視線の感じがちょくちょく変わったので下っ端の妖精メイドを使って監視しているんでしょうね」
「…なるほどね。あくまで自分達は何もしていないように見せる、か。…まったく、それで仕事が増えるのは私なのに」
はぁ、とため息をついて紅茶を飲む咲夜さん。
現在、僕たちは使用人用の休憩室で一息つきつつ報告をしている。
「赤月と雪青はずっと自分達の仕事場に居たし…その間に他の妖精メイドと二言、三言会話をしていたけど、表面上は怪しい感じでは無かったのよね。…表面上は」
「やっぱりその時に報告やらしてたんでしょうね」
「…大変なんですねー…」
一緒に紅茶を飲んでいた美鈴の呑気な発言の直後、頭にナイフが刺さっていた。
「いったい!?」
「大変、なんてものじゃないわよ。やっと妖精メイドのまとめ役ができたと思ったらこれだもの…」
「…大丈夫です、なんとかしますよ」
「…ありがとう。そういえば、報酬ってまだ決めて無かったわね」
「ああ、それなんですけど…」
あるメモが書かれた紙を渡す。
咲夜さんは、それを見て…すぐ理解したようだ。
美鈴はナイフが刺さったままそれを覗き込んでいる。
「…ああ、そういう事ですか。でもなんでこれを?」
「…分かったわ。小悪魔に頼んでおくから」
「あ、小悪魔が作ってたんだ…」
「あの子、紅魔館にいる子達のも作ってるからね。…そっちがメインになりつつあってパチュリー様に怒られてるけど」
「えー…」
◇
依頼として受けている間は、泊まり込みで勤めることになっている。
割り当てられた部屋に入って、着替えてベッドに入る。
「うわ、ふかふか…寝心地良さそうだなぁ。ベッドもたまにはいいかな…」
夜の間は、メランを僕の代わりに監視を行ってもらう。…精霊には睡眠が必要無い。
「…さてと、寝よう…」
目を閉じて、脱力しつつ…感覚はそのまま覚醒した状態にする。微かな物音も逃さないように。
直接僕に何かを仕掛けて…紫陽花がした事にしてもおかしくないように思えたからだ。
そして、夜がすっかりと辺りを覆い尽くした頃。
僕の部屋に誰かが侵入してきた。




