世界樹は意思を伝える
真っ暗闇の中。僕はもう一人の僕と…何故かテーブルを挟むようにして座っていた。
「…ここは?」
「よう、やっと会えたか」
見てみれば、もう一人の僕は幻想郷に来たばかりの格好をしている。
「俺は腕輪に封印されていた…そうだな、世界樹の意思というかなんというか」
「世界樹の意思?」
「まぁそんなところだ。本来ならあの場所で、精霊をお前の中にいっぺんに突っ込んだところで俺と入れ替わって、瘴気を祓うはずだったんだが…」
「え、入れ替わるって!?」
「元々そういう計画であいつらは話を進めていたらしいぜ。お前は人柱になる予定だったんだ」
…頭が付いていかない。
「まぁ、人柱になったらなったでお前は英雄になってたんだが…結局失敗したしな。あの世界は滅んだよ」
「なんで、封印されてたのにそれが分かるの?」
「世界樹ってのは他の世界樹と深層心理の海で繋がってる。それこそ隣接する世界だとか、そういう垣根すら越えるんだ。…まぁその辺は今から体感する事になるだろうしな」
言葉にならない混乱をよそに、彼は話を続ける。
「で、お前はこの…幻想郷か。ここに落ちた訳だが、運が良かったみたいだな。俺を介さずに、意識を保ったまま世界樹の能力の一部を使えるようになってるし」
「…もしかして、あのスペルカード…」
「ああ、あのカードか。確かにあれがトリガーになって、俺が持ってたはずの能力をごっそり持って行かれたしな。今の俺はほぼ抜け殻、中身の品物が無い状態だ」
解放『ユグドラシル・ブラッド』。
あれは、その為だけに作られたイレギュラーだったようだ。
「まぁ、驚きはしたが…お前にとっては、自らの意識がある状態のままだから良かっただろうな。…恩人が想い人なんだろう?」
「…まぁ、ね。とても可愛いんだ」
「…くく。俺としてはやきもきしてるのを眺めるのも楽しかったがな」
「あー…全部見られてる訳かー…」
「そういうこった。…さて、俺もそろそろ存在意義が厳しくなってきたな…」
彼の姿が、いつの間にか薄くなってきている。
「精霊を全て宿した今、世界樹の能力は全てお前に譲渡された。後は他のお節介な世界樹が教えてくれるだろうよ」
「…ありがとう。…そうだ君の名前は?」
「俺に名前なんか…いや、そうだな。中身が空っぽ、何も無い…無品、なんてどうだろうな」
「…うん、ありがとう無品」
「ああ。じゃあ元気でやれよ」
そう言って、彼の姿は完全に消えた。
背後から、強い光が射してくる。
ーーさあ、目覚めて安心させてやりな。




