桃よりも甘い空気
「…へー…便利ね。あんたも紫と同じような事ができるんだ」
「完璧に使いこなせてはいないんですけどね。…素早く出したり、幾つも同時に出すってのは出来ないですから」
天子さんの家で、桃を摘みながら精霊魔法の事を話す。ちなみに、この桃は下界にも数は少ないけど売っていたりするらしい。
天人が食べる方の桃は別に大量に作ってあるのだとか。
「…あんたが完璧に使いこなすようになったら、なんでも一人でできるようになるわね」
「…ふふ、紫様の役に立てます」
「…はぁ、あんた…本当に好きなのねぇ。それと…そういうのに耐性無かったのね〜、紫?」
「うるさいわよ。…その、こういうのって初めてなんだから…」
うつむいて赤面する紫様を見て、にやけてしまう。天子さんもニヤニヤしていたが、いきなり飛び上がった。
「ぎゃっ!?いきなり脚になんか刺さないでよ!」
「にやけるあんたが悪いわ」
「黄だってにやけてたでしょうに!」
「…だって、黄は…その…」
「ああもう、空気が甘ったるいわね…!」
桃を食べつつ、二人のやりとりを眺める。
…ふと思いついた事を、衣玖さんに尋ねてみた。
「天界には迷宮は出てないんですか?」
「迷宮、ですか?…出ていませんね。以前、総領娘様も参加した迷宮異変の際にも、天界には出ませんでした」
「ふむ…迷宮の線も消えたか。となると、突然出てくる可能性が一番高いな」
湖底の戦いのように、唐突に現れる瘴気の獣。…天界にいきなり出現したら確実にパニックになるか?
「…危ないかもしれないですね。天人の皆さんって僕たちの言う事を聞いてくれますかね?」
「…少し、難しいかと」
「でしょうね…うーん、できれば一ヶ所に集まって避難してて欲しいんですけど」
仕方ない、出現した際に言えば流石に逃げてくれるだろう。




