妖怪の賢者の告白
腕の中で、何かが動く感触で目が覚める。
まだ眠かったけど、ええと、確か昨日の夜は…
「……えっ?」
「あ、紫様…」
「え、なんでこんな状況に…」
「…もしかして昨日の夜の事を覚えていないんですか?」
「…覚えていないわ…頭が痛い…」
…記憶が飛ぶほど飲んでたのか昨日は。
とりあえず…伝えるべきだろうか?
「…黄、教えなさい。なんで私が貴方に抱きしめられて眠る状態になったのか」
「…分かりました」
◇
十数分後、僕の部屋の中には…困り顔の僕と、顔が茹で上がったようになった紫様が居た。
「私そんな恥ずかしい事言ってたの…」
「えーと…なんかすいません。そもそもの原因は僕ですから…」
「…私、なんであんなに飲んでしまったのかしら…黄が帰ってこないくらいで…」
「…本人を前にしてその言い方はどうかと思いますが」
「あっ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」
「わかってますよ」
「…ねえ、黄。私は覚えていないかもしれないけれど…」
「…なんですか?」
「…たぶん、その時に言った事は、本心だと思うのよ」
今にも煙を出しそうになっている紫様からの一言。…思考が一瞬停止した。
「…それは…」
「…なんでかしらね。貴方は人で、私は妖怪なのに、貴方を近くに置いておきたいと思ったのよ」
「……」
「…黄、私は…おそらく、黄の事が好きなのだと…思うわ」
「…紫、様」
…ああ、なんだろう。凄く嬉しい。
「…ねえ、黄。これからもずっと一緒に居てくれるかしら?」
「…返事は聞くまでもないと思いますよ、紫様」
「ふふ、ありがとう…」
ぎゅっと、今までの中で一番に優しい抱擁。僕も抱きしめ返す。
「…ふふ、嬉しい」
「僕もです」
「「………」」
紫様の顔が、だんだんと近づいてくる。距離が縮まって…
「…黄、辞世の句の準備はできているか?」
「えっ?」
距離がゼロになると思われた次の瞬間、あまりに冷え切った声が僕と紫様の間に刺さる。
「…え、えっと、藍様…」
「…黄、表に出ろ!戦争だ!」
「うわぁ…たぶんこれ話聞いてくれないだろうなぁ…」
…おとなしくボコられるべきかなぁ、と思っていた矢先に、更に冷えた呟きが聞こえた気がした瞬間。
藍様の姿が畳に開いた裂け目に吸い込まれた。
「ぎゃーっ!?」
「…藍、いつから貴方は私を差し置いて意見を言える立場になったのかしら…?」
…今日は屋敷の中が冷えた空気になるだろうなぁ、と僕は取り残された気分で思うのだった。
やっとだよ!
っつー訳で、書きたかった部分やっと書けた…長かったなぁ。




