湖底の姫、懇願す
ミソウを取り込んでも、僕の記憶には変化がなかった。…深蒼に聞いてみると、
「わかりません…私もこの先が靄がかかったように思い出せないのです、ごめんなさい」
「ああ、謝らなくていいよ。…僕だって思い出せていないから」
「そうでしたか…私は主の役には…」
「いやいや、大いに役に立つよ!水の魔法が使えるようになったから、複合魔法の幅が大きく広がったみたいなんだ」
紅魔館内部の図書館に書かれていた複合魔法は、水魔法を起点とするものが結構あった。汎用性が高いのと、他の属性に比べて形状変化がらくだから、ということらしい。
「そ、そうですか!嬉しいです!」
「さてと、とりあえず危機は去ったが…」
翡翠は先程の戦いを終えて、治療の後からずっと離れようとしないのだ。
「あのー…」
「い、命の恩人が突然倒れたりなんかしてしまってはいけないだろう?それに…妾は外の世界がどうなってるか…」
「…黄、頼む」
「むぐ、虚空さんまで…うーん…」
…このまま屋敷に連れて帰ってもいいんだけど…紫様がどう思うかだな。それに…
「…翡翠、条件が…二つあるんだ。まずは、その肌の色を人らしく変えるのを許可すること。…目の色と髪の色は大丈夫なんだけど、流石にその肌では人里は歩けないかな」
「…ん、そうか…」
「ああ、人里以外だったらすぐ元に戻すから」
「って、黄が変化させられるのか?」
「うん、光魔法で…まぁ、見え方を変えるんだ。あとは水魔法とかも被せて使って…」
試しに翡翠の腕を、綺麗な青緑色から白い肌へと変化させる。
「お、おぉ…」
「これを全身にかければ大丈夫だと思う。いいかな」
「…もちろんじゃ、外の世界を見られると言うのならこのくらいは」
「うんうん。…もう一つは、その話し方を年相応の女の子の喋り方にすることかな。これは…もう覚えてもらうしかないんだけど」
「う…努力、する…」
うむ、とりあえずの交渉は成立だ。あとは…僕の主に許可を貰わなければ。




