湖底の姫の目覚め
青い繭の内側から確かに、魔力の波動が漏れ出している。
「…おそらく、もうすぐ出てくるのだろうな」
「出てきたとして…どうするつもりですか?」
「…さあな。あの子がしたいようにすればいい。もしかしたら誤解して、襲いかかってくるかもな」
「えー…」
「考えてもみろ。…子供からは、俺が何かをしたせいで自分が暴走して親が死んだ、とも考えるかもしれんぞ?」
…言われてみれば、確かにそうなるのかもしれない。
「大丈夫だ、幼い妖怪に遅れをとるつもりはないさ。さて、そろそろか」
パキパキ、と繭にヒビが入り、光が更に強くなる。ヒビは更に広がっていく。
そして、繭が完全に開いて…中からは綺麗な青と緑の混ざったような肌の女の子が出てきた。
「…ここは…?妾はいったい何をしておったのじゃろうか…」
「やっと起きたか、寝坊助姫」
「なんじゃ、失礼な…って、その声、お主は…」
「…俺が分かるか?」
「…うむ、分かるぞ。…繭の中で、お主が話しかける声を聞いておった。ずっと前からな。その隣のは…前とは違うな」
「…あのなぁ、俺は人を辞めてこの姿だが、師匠は人として生命を終えたんだ」
「…そうじゃったか、妾を、母様と一緒に救ってくれたあの者はもうおらんのか…」
…うーむ、話に全然着いていけないが、突然襲われることはなさそうだ。
「…師匠は死ぬ間際まで、気にかけていたぞ」
「…そうか。…随分と長く、かかってしまったの…」
「…ああ、そうだ。これからこの世界で暮らすにあたって、名前をつけてやらないとな」
「え、名前ついてなかったんですか?」
「…王族の名前ってのはやけに長ったらしいんだよ」
「そうじゃな、長くて名前を自分で言うのに何回も噛んでしまう」
「そうなんですか…」
「さしあたっては…短くて似合う名前がいいか」
「ふむ、そうじゃな。…そこのお主、何か案は無いか?」
「え、僕!?」
いきなり責任重大すぎやしないだろうか…
「…黄、俺は死神としての役割がある。できれば、黄に彼女を頼みたいんだ」
「…それも今回の目的でしたか」
「実は紫も了承済みだ」
「えっ」
外堀が既に埋まっていた。なんてこった。
「…うーん…ちょっと待ってね…」
…こういう時は似た何かの…宝石とかの名前を付けるのが良さそうだ。
空間魔法を使い、部屋からある本を取り出した。




